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2023.02.15 (Wed)

建設業はICTで変わるのか(第18回)

建設業に特化した「ERP」とは? 導入するメリットおよびシステムの選び方を解説

 ERPソリューションの中には、特定の業界に特化した機能を備えた、「業界型ERP」と呼ばれるタイプのものがあります。本記事では、そもそもERPとはどのようなソリューションなのか、建設業向けのERPは一般的なERPとどこが違うのか、その導入のメリットや注意点を解説します。

ERPの基本

 ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略で、企業の保有するヒト・モノ・カネ・情報といった経営資産を一元管理するために使用されるシステムです。ERPは会計や調達、プロジェクト管理、顧客関係管理、リスク管理、コンプライアンス、サプライチェーン業務など、企業全体のビジネス活動を可視化および自動化(省力化)するために役立ちます。ERPを導入することで、ユーザー企業はリソース配分を最適化し、経営体制の効率化を推進することが期待できます。

ERPは大きく4つに分類される

 ERPは大別すると、「統合型」「コンポーネント型」「業務ソフト型」「業界型」の4種類に分類可能です。

統合型

 統合型ERPは財務や人事、販売、生産管理など、企業活動のさまざまな側面をカバーしており、個々の業務用アプリケーションと連携し、それぞれのデータを統合的に管理できます。部門や業務、システムを横断したデータ管理が可能になることで、全社的なデータ共有やデータ活用が促進できます。

コンポーネント型

 コンポーネント型は、各部門が個別に選んだ必要な機能を組み合わせて導入するタイプのERPです。コンポーネントとは「部品」を意味します。

 統合型ERPは豊富な機能を有する点が魅力ですが、その一方で、使わない機能が出てくる可能性もあります。コンポーネント型ERPであれば、あらかじめ必要な機能が絞れるため、不要な機能にコストをかけずに済みます。導入後に状況やニーズの変化に応じて機能を追加することも可能なので、事業や業務が拡大・変化しても柔軟に対応できます。

業務ソフト型

 業務ソフト型は、一部の業務の管理に特化したタイプのERPです。会計管理システムや販売管理システム、生産管理システムなどがこれに該当します。業務ソフト型ERPは特定の分野に特化しているため、統合型やコンポーネント型に比べて汎用性に劣ります。一方で、利用できる機能が絞られているため、導入コストを低く抑えられる点が魅力です。特定のニーズにだけ対応したい中小企業や小規模事業者などに適しています。

業務特化型

 業界特化型のERPとは、特定の業界のニーズにあわせて設計されたERPです。各業界は、独自のニーズや商習慣をもっていることがしばしばあり、たとえば在庫管理システムとひと口にいっても、食品とアパレル用品と建材では管理項目は大きく異なります。自社の業界に特化したERPがあるならば、まずはその製品が導入候補となります。

一般的なERPと建設業向けERPの違い

 業界特化型ERPの中には、建設業向けの製品もあります。一般的なERPと建設業向けERPでは何が違うのでしょうか。ここからは、建設業向けERPの導入によって可能になることを解説します。

建設業界独自の会計業務に対応できる

 建設業向けERPは、建設業独自の会計業務に対応しやすいという特徴があります。建設業界においては、「建設業会計」と呼ばれる独自の会計処理を行うことが、「建設業施行規則」という法律によって定められています。建設業界では着工から引き渡しまでの期間が1年を超えることも珍しくないため、ほかの業界のように1年区切りで会計を行うと、収支のバランスが釣り合わなくなるからです。

 一般的なERPでこの建設業会計に対応しようとすると、管理項目をカスタマイズする必要が生じ、そのための手間がかかります。その点、建設業向けERPであれば、あらかじめ建設業会計に対応した会計処理が行える仕様になっているため、スムーズに利用できます。

プロジェクトごとに採算データを可視化できる

 建設業向けERPの中には、プロジェクトごとに採算データを可視化できる製品があります。建設業界は原価の変動が激しいため、原価計算が複雑になりやすく、一般的なERPでは正確に原価を把握することが難しいケースがあります。

 しかし、プロジェクトごとに採算データを管理できる建設業向けERPを導入すれば、原価変動もタイムリーに反映し、計算できます。施策を変更する場合も、現状を正確に見極めたうえで実行できるでしょう。

引き合い段階のプロジェクト管理と業績予測ができる

 建設業向けのERPの中には、プロジェクト管理や業績予測ができる製品もあります。

 建設業のプロジェクトは年単位の時間を要することが多いため、その業績予測は困難です。しかし、建設業では1案件あたりのプロジェクトにかかる時間や資金、労力が大きいため、準備段階から各プロジェクトの採算性を見極める必要があります。

 建設業向けERPを導入することで、受注の確度や予想される利益などを算出し、より採算性の高い案件に対して、集中的に営業をかけることが可能になります。

建設業向けのERPを導入するメリット

 建設業向けのERPを導入することで、企業はデータ管理の効率化や経営判断の迅速化、セキュリティの強化などが実現できます。ここからは、建設業向けのERPを導入することで得られるこれらメリットについて解説します。

データ連携でまとめて管理できるようになる

 統合型のERPには、各業務システムをデータ連携し、まとめて一元管理できる機能があります。この機能を使えば、システムごと・部門ごとに同じデータを入力する必要もなくなるため、業務効率化が可能です。入力回数を減らすことで、入力ミスの発生低減や、リカバリーにかかる工数を削減することも期待できます。

 データを一元管理することで、データ分析を全社的に推進することも可能になります。これまでシステムごと・部門ごとに孤立していたデータも、ERPによって統合管理することで、部門横断的なデータ分析が実行できます。部門間でのデータ共有がシームレスに行えるため、わざわざメールなどでデータを共有する手間も無くなります。

迅速に経営判断ができる

 建設業向けのERPを導入することで、経営判断の迅速化が期待できます。先述の通り、建設業向けERPでは引き合い段階からプロジェクトの管理が可能なうえ、プロジェクトごとに採算データを可視化できます。

 これらの特性は、業績予測の迅速化や正確化に役立ち、データに基づいた経営判断の実現に寄与します。建設業向けのERPを導入すれば、万が一赤字のプロジェクトがあっても早期に発見し、素早く対策を講じられるでしょう。

情報のセキュリティ強化が図れる

 建設業向けのERPを導入することで、データセキュリティも強化できます。複数のシステムや部門でデータ管理をしていると、それぞれが異なった情報セキュリティポリシーでデータを管理することになり、結果的に情報の抜け漏れや不正が発生する恐れがあります。

 その点、データを一元管理できるERPソリューションを活用すれば、統合的な情報セキュリティポリシーのもとであらゆるデータが保護されるため、外部からの攻撃はもちろん、内部からの情報漏えいも防止できます。

建設業向けのERPを選ぶ際のポイント

 建設業向けのERPの中にも、さまざまな製品があります。多種多様な製品の中から自社に最適な製品を選定するには、どのような点に気をつければよいのでしょうか。以下では、建設業向けERPを選ぶ際のポイントを解説します。

自社の業態に適しているか

 選定ポイントその1は、自社の業態に適していることです。建設業向けのERPといっても、その種類は多岐にわたるため、すべての製品が自社の業態に適しているとは限りません。たとえば、建設業以外にも複数事業を展開している場合は、そのすべてに対応できなければデータの一元管理はできません。

 したがって、ERP製品を導入する際には、その製品が本当に自社に適しているか、ほかのシステムを導入せずに済むのかなどをチェックすることが大切です。

拡張・カスタマイズは可能か

 選定ポイントその2は、機能拡張やカスタマイズが可能かどうかです。建設業向けERPには、機能の拡張やカスタマイズに対応している製品もあります。事業展開によって、自社がERPに求める機能は今後変化していく可能性があるため、拡張・カスタマイズができる製品のほうが、長期的にシステムを運用していくうえで安心です。拡張・カスタマイズが柔軟に行いやすく、しかも手間がかからない製品を選ぶことが大切です。

誰でも簡単に操作できるか

 選定ポイントその3は、誰でも簡単に操作できるかどうかです。ERPを利用する従業員は、オフィスで働く事務員だけではなく、現場の作業員が利用することもあります。

 そのため、導入するERPは、誰でも簡単に操作できる使いやすい製品であることが大切です。社外でも使いやすいように、タブレットやスマートフォンなどのモバイルデバイスに対応していると、なお良いでしょう。

クラウドとオンプレミス、どちらを採用すべきか

 建設業向けERPの導入形態には、クラウド型とオンプレミス型の2種類があります。クラウド型とは、インターネット上でサービス提供事業者が提供するERPシステムを利用する形態です。これに対してオンプレミス型とは、自社のサーバー内にERPシステムを構築する形態です。

 クラウド型とオンプレミス型のどちらにもメリット・デメリットがあるため、製品選びをする際には、それぞれの特徴を把握したうえで判断することが重要です。ここからはクラウド型とオンプレミス型それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説します。

クラウド型のメリット

 クラウド型のメリットは、初期費用を節約し、素早く導入できることにあります。クラウド型ERPの場合、自社でサーバーを用意する必要がないため、大がかりな設備投資が必要ありません。システム自体の管理や更新、情報セキュリティ対策なども基本的にベンダー企業が行うため、管理運用の負担も抑えられます。

 さらに、クラウドシステムはインターネット環境さえあれば、どこからでもアクセスできるのもメリットです。クラウドERPを導入すれば、事務員のテレワークを促進したり、現場から操作するといったことも可能になります。

クラウド型のデメリット

 クラウド型のデメリットは、サービスの多くの部分をベンダー企業に依存してしまうことです。たとえば、不正アクセス対策などの情報セキュリティ面も基本的にベンダー任せとなるため、サービスの情報セキュリティレベルが自社の基準を満たしているか、十分に確認することが大切です。ほかにも、カスタマイズがオンプレミス型に比べて難しい、インターネット環境がないと利用できないなどのデメリットがあります。

オンプレミス型のメリット

 オンプレミス型のメリットは、自社の要件にあわせてシステムのカスタマイズがしやすいことです。システムの更新なども自社のタイミングで実施できるため、自由度の高い管理運用ができます。

 オンプレミス型は基本的に社内のみで利用する形態ゆえ、インターネットを介したサイバー攻撃の被害に遭うリスクが低く、情報セキュリティレベルを高く維持しやすいのも大きな利点です。

オンプレミス型のデメリット

 オンプレミス型のデメリットは、導入や管理運用の負担が全体的に高いことです。オンプレミス型は自社で独自のサーバーを用意する必要があるため、導入コストが高額になりがちです。さらに、サーバーやシステムを構築するため、ERPを導入するまでの時間も必要になります。ハードウェアのメンテナンスなども基本的に自社で対応する必要があるため、人材の確保も必要です。

 このように、ひと口に建設業向けERPといってもクラウド・オンプレミスの違いがあり、それぞれさまざまな製品が提供されています。導入の際は、各製品の特徴を事前に把握し、自社に適した製品を導入できるよう十分に比較検討しましょう。

まとめ

 ERPは、企業が保有するさまざまな資産の情報を一元管理できるソリューションです。ERPの中には、特定の業界のニーズに対応するよう設計された製品があり、建設業に特化したERPを導入することで、業務効率化はもちろん、迅速な経営判断や情報セキュリティ強化も可能になります。今回紹介した選び方や特徴を踏まえ、自社に適した建設業向けERPを導入してください。

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建設業の過剰な労働時間は長年にわたって問題視されてきましたが、いよいよ2024年4月1日に「残業時間の上限規制」が適用されます。規制に違反すると懲役・罰金刑に処され、悪質なケースでは企業名公表もあるため、労働時間の見直しは建設事業者にとって喫緊の課題です。国土交通省や厚生労働省はICT活用に向けた支援を実施しているものの、十分に普及していないのが現状です。本資料では、建設業のデジタル化に詳しい大阪大学 矢吹信喜教授の見解を踏まえ、2024年問題対策のポイントや進め方を解説します。有効なデジタル技術に言及しながら、事業者がこれから検討するべき対処法を紹介します。

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