2023.03.13 (Mon)

建設業はICTで変わるのか(第21回)

施工管理を効率化するメリットやポイントを解説

 昨今の建設業界では、施工管理の効率化が注目されています。施工管理を効率化することで、人材不足の解消や生産性の向上につながるためです。この記事では、近年の建設業界が抱える課題と、課題解決のために施工管理の効率化がどのように役立つのかを解説します。加えて施工管理用ツールの機能や解決可能な課題についても、具体的に提示します。ツールのメリットを活かして業務効率化に成功すれば労働環境も改善し、若手の獲得にもつながります。

施工管理の効率化が求められる背景

 近年の建設業界はいくつかの課題に直面しており、その影響で施工管理にも効率化が求められるようになりました。ここでは特に代表的な課題を2点に絞り込み、詳しく解説します。

従業員の若手不足およびシニア層の増加

 建設業務を実際の現場で実現させるには、建設技能者たちの働きが欠かせません。しかし近年、企業は建設技能者を安定的に確保・維持することが難しくなりつつあります。国土交通省の資料「最近の建設業を巡る状況について」によると、ふたつの理由が挙げられています。

 ひとつは、建設技能者全体の中で29歳以下の割合が約12%程度と少ない点です。これは、建設業の未来を担っていく若手が不足していることを表しています。もうひとつは、60歳以上が建設技能者の25%を占めている点です。大半が10年後には引退してしまう年齢です。このように、「技術・知識・経験を蓄積している60歳代の人材が引退していく一方で、新たな人材が建設業界に入ってこない」という現状が大きな課題として存在しています。

 こうした背景により、建設技術の継承はますます困難になっています。そこで、若手を確保するだけでなく、育成を施すことが業界全体の急務として認識されてきました。

 育成を行う環境づくりに欠かせない要素として国土交通省が言及しているのは、「労働者たちの処遇改善・働き方改革・生産性向上」です。国や企業が共にこうした改善点を自覚し、労働環境の改善に取り組む中で、施工管理にも効率化が求められています。

紙ベースの非効率な働き方

 建設業界の特性としてよく挙げられるのが、紙資料ベースでのやり取りが多い点です。工程表・進捗表や、設計対象の図面など、各種資料を紙で用意していると、業務効率は上がりにくくなります。

 たとえば、施工開始後、設計に変更が生じたり、変更により建設スケジュールが再調整されるケースを考えてみましょう。現場スタッフと変更点を共有するには、資料を必要部数印刷して配布しなくてはなりません。施工管理や現場監督がいくつかの現場を掛け持ちしていれば、それだけ打ち合わせ日の調整も難しくなります。このように紙ベースのやり取りは、単純に書類作成に手間がかかる以上に、情報の共有に支障を来す状況が生まれやすくなります。

 Excelなどのツールを用いて表を作成している場合も、生産性向上は困難です。変更点の発生や進捗状況を、各担当者がリアルタイムで共有しにくいからです。情報共有が正しくできていなければ、生産性が上がらないばかりか施工ミスも招きやすくなります。その結果、工期が遅れる可能性も高まるでしょう。

 こうした状況を背景とし、情報の管理や共有面についても重視されるようになりました。そして適切なツールの導入と、デジタルデータ主体のやり取りが、実現への有力な手段と認識されるようになったのです。

施工管理を効率化するメリット

 ツールを導入してデジタルデータ主体の業務環境を構築することで、多くのメリットを得られます。ここからは、施工管理の電子化によって現場や企業にもたらされるメリットを3つに絞って紹介します。それらよって、自社の状況がどのくらい改善されるかイメージしながら参照してみてください。

業務効率向上が期待できる

 デジタルデータ主体で施工管理を行うことにより、パソコン上でほぼすべての事務作業を遂行できる環境が整います。

 たとえば、撮影した現場写真などと一緒に紙の資料をファイリングしている環境では、管理業務が煩雑化しやすくなります。必要な資料をすぐに取り出せなかったり、どこに何の資料が保管してあるか不明瞭になってしまったりするでしょう。適切なツールを用いれば、大量の画像や資料を、いつでもすぐに参照可能な状態で保存・管理できます。後述するように、専用ツールを用いることで、場所を問わず適切な資料を各担当者と共有でき、情報共有の効率化も実現できます。

 専用ツールによって施工管理のムダを省略することは、現場全体の動きをスムーズ化することにつながります。事務作業や情報共有作業に時間がかからなくなった分生産性があがり、各担当者が主要業務により注力しやすくなるでしょう。結果として、作業ミスや工期遅れ、それらによるコスト増大も防止されます。

残業の低減で従業員のやる気向上が期待できる

 従業員のワークライフバランスの実現は、日本企業の共通課題として認識されてきています。

 建設業の施工管理は、業務の種類が多岐にわたることもあり、長時間労働が発生しやすい一面があります。そのため、残業や休日出勤の機会が増え、体力的・精神的な負担がかかりがちです。

 ツール導入や、それを主軸とする業務効率化を進めることで、担当者にかかる負担を減らせる可能性が高まります。「今まで長時間かけていた業務が効率化されている」という実感を得られれば、担当者のモチベーションアップにつながります。

 このように、ツール導入は従業員たちが高いモチベーションで、自分のやるべき仕事に注力できる労働環境を整備していくための契機となり得ます。さらに、現場監督や他の現場スタッフたちと共にこうした環境を維持していくことが重要です。その結果として質の高い仕事を迅速にこなせる習慣が企業に根付きやすくなり、ワークライフバランスの実現が着実に近づきます。

職場環境の改善で求人応募者の増加が期待できる

 施工管理の効率化は、若手人材が獲得しにくくなっている問題の解決策としても有効です。

 まず、施工管理という業務内容や職種に対する印象は、それほどよいものではありません。施工管理者は複数の現場に赴き、さまざまな職種の担当者たちと話し合いながら進捗を確認したり、事務所に戻って各種デスクワークをこなしたりなど、多種の業務を並行して遂行する必要があります。こうした現状から、「抱える業務が膨大で、夜遅くまで家へ帰れない職種」というイメージが浸透している可能性が考えられます。

 だからこそ、「自社はツールを活用して施工管理の効率化を行っている、ワークライフバランス実現を積極的にめざしている」という点を社会にアピールすることが重要です。これにより、若手層を含む求職者に、よりよい企業イメージを印象づけられるでしょう。求職者側の見方を変えられれば、求人数の増加が期待できます。

施工管理を効率化するためのポイント

 施工管理を効率化するためには、どのようなことに気をつける必要があるのでしょうか。ここでは、施工管理担当者の目線に立ち、業務効率化に欠かせない3つのポイントを解説します。

業務を可視化する

 施工管理では、納期の管理や調整はもちろん、現場の従業員の安全を確保することや、工事の品質管理、人件費・材料費を含めた原価の管理なども行います。このように多岐にわたる管理業務の中で、多種多様な情報を扱い、的確な処理を施していく必要があります。

 こうした業務を的確にかつスムーズにこなしていくには、各業務の目的や目標、進捗状況を可視化することが重要です。これにより、作業プロセスの全体像を把握しながら、その中で今自分のやるべき作業内容を認識できます。

 可視化する際はまず、達成すべき状態を明確な目標として定めてください。そこから逆算して「どの段階でどのような作業が必要か」を書き出すとよいでしょう。ツールも利用し、スタッフ間でプロセス全体の進捗を共有したり、従業員それぞれの担当業務や進捗状況を確認しあうことで、自分のなすべき業務もより明確になります。このとき「自分の業務範囲」をほかの従業員と共に確認しておくことも重要です。

トラブル発生を想定する

 施工管理は業務が多様となる傾向があり、連絡を取り合う関係各所の種類も多いため、どうしてもトラブルは起きやすくなります。そこで大切なのは、起こりうるトラブルや対処方法を想定しておくことです。たとえ想定外のトラブルに遭遇したとしても、心の準備がある程度はできているため、慌てず対処できる可能性が高まります。これにより、トラブルが拡大する危険性が縮減され、出戻りなどのロスを最小化することにつながります。

ツールを導入する

 施工管理ツールにはさまざまな種類がありますが、近年はクラウドサービスとして提供されるツールが注目を集めています。クラウドの施工管理ツールを使えば、遠く離れた場所にいる担当者とも容易に情報共有や意思疎通を図れます。

 いきなりツールを導入するのが難しい場合は、施工管理に特化したツールではなくビジネス用チャットツールだけを最初に導入するという選択肢もあります。これにより遠隔でのコミュニケーションが充実します。

 ビジネスチャットツールを使えば、離れた場所であっても文章や画像・図表を共有しながらリアルタイムにやり取りができます。タスク管理機能を用意しているビジネスチャットツールを導入すれば、業務の段取りをより効率的に共有できます。

 高度なチャット機能やタスク管理機能を含んでいるものなど、多種多様な施工管理ツールが存在しますが、単に「多機能」を理由としてツールを選定してはいけません。あくまで現場にフィットしたツールを導入することが重要です。施工管理の現場が求めている機能があり、かつ、従業員が扱いやすいツールを選ぶ必要があります。

施工管理の効率化にはツールを導入しよう

 ツールに用意された機能を使ってどのような課題が解決されれば、施行管理が効率化するのかを解説します。

ペーパーレスが実現する

 まず大きな変化として、デジタルデータ主体での施工管理体制が整います。施工管理業務では、写真や図面を使って現場の従業員とコミュニケーションを取る機会が頻繁に発生します。ペーパーレスによって、紙資料を何枚も印刷し、運搬し、配布するといった手間が省けるのは大きな効率化です。印刷に使用するインクや紙などの物理的な削減にもつながり、コスト削減が実現します。

 ツールによっては、携帯端末から容易にデータへアクセスできる検索機能を搭載しています。たとえば現場で打ち合わせ中に追加の画像資料を提示する必要が生じたときも、その場ですぐに該当画像を開示可能です。

 加えて、取引先企業が自社と同じツールや互換性のあるツールを用いている場合は、より迅速な情報共有・コミュニケーションが実現します。画像・図面を用いた詳細な打ち合わせも、オンラインで完結できるケースが増えるでしょう。

即時の情報共有が可能になる

 現場の従業員と、リアルタイムで情報共有できる点も大きなメリットです。施工管理は、工事全体のスケジュール進行を念頭に置きながら、関係各所と多くの情報をやり取りします。専用ツールを用いれば、こうした情報を一元的に管理しながら、各担当者と適宜共有していけます。

 プロジェクトの関係者をメンバーとし、チャットグループを構成しておけば、変更点や調整の必要が生じた際も迅速に関係者全員へ情報伝達できます。取引先のスタッフもチャットメンバーとして登録すれば、関係者間での伝達漏れや勘違い・誤解などの防止につながります。

 加えて、施工時の各要件や必要事項をツール内に掲載してアクセス可能にしておくことも、業務効率化につながる重要な施策です。現場の従業員は、不明点が生じたときに施工管理者へ問い合わせたり紙の資料を確認したりせず、すぐに必要な情報にアクセスできるからです。

時間や場所を選ばずに作業が可能になる

 建設業は、比較的テレワーク化が難しい業種と考えられます。しかし、建設業の中の施工管理を取り出してみると、他の業務よりテレワークを実現しやすい業務といえます。クラウドツールの導入によって、離れた現場や他部門の従業員とで適切な情報共有が可能になるからです。

 ケースによっては、現場に足を運ばず、事務所や自宅から管理業務を行える可能性があります。調整や変更が生じたときも、クラウド上のデータを更新し、遠隔操作で関係者に伝達することで対応を完了できる場合も多くなるでしょう。テレワーク環境への完全移行までは難しいかもしれませんが、このような改善によって、施工管理の業務負担は大きく低減されることが期待できます。

 現代の建設業界は、建設技能者の高齢化と若手の減少が並行していることで、技術継承が危ぶまれていす。対策として重要なのは、施工管理ツールの導入などを契機に労働環境を改善することです。効率化によって担当者のワークライフバランスが実現できれば、若手の獲得・育成を積極化できる状況も自然と整備されてくると期待できます。

まとめ

 近年は、施工管理用のツールやシステムが多く登場しています。クラウドサービスとして使用でき、かつ高度なチャット機能などを備えたツールを導入すれば、施工管理の業務負担を大きく低減し効率化を図ることが期待できます。管理担当者や現場の従業員にとって最善のツールを選定すれば、生産性向上や労働環境改善の実現に近づき、若手の獲得・育成にもつながるでしょう。

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建設業の過剰な労働時間は長年にわたって問題視されてきましたが、いよいよ2024年4月1日に「残業時間の上限規制」が適用されます。規制に違反すると懲役・罰金刑に処され、悪質なケースでは企業名公表もあるため、労働時間の見直しは建設事業者にとって喫緊の課題です。国土交通省や厚生労働省はICT活用に向けた支援を実施しているものの、十分に普及していないのが現状です。本資料では、建設業のデジタル化に詳しい大阪大学 矢吹信喜教授の見解を踏まえ、2024年問題対策のポイントや進め方を解説します。有効なデジタル技術に言及しながら、事業者がこれから検討するべき対処法を紹介します。

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