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2023.03.13 (Mon)

建設業はICTで変わるのか(第20回)

建設業界で業務効率化が必要な理由とは?便利なツールや成功事例も紹介

 建設業界では、慢性的な人手不足や日本政府による働き方改革の推進を背景に、デジタル化による業務効率化が求められており、生産性向上や労働環境改善の観点からも急務となっています。本記事では、業務効率化が必要な理由や、業務をデジタル化することで得られるメリット、活用できるツールなどを解説します。ツールの活用により業務効率化に成功した事例も紹介します。建設業界の業務改善の方法を知りたい人は、参考にしてください。

建設業の業務効率化が求められる背景

 建設業で業務効率化が求められている背景には、どのような理由があるのでしょうか。ここでは、主なふたつの理由を解説します。

建設現場の慢性的な人手不足

 建設業の業務効率化が求められる理由のひとつに、建設現場の慢性的な人手不足という課題があります。国土交通省がまとめた報告書「最近の建設業を巡る状況について」によれば、2021年の建設業就業者数は485万人となっており、ピーク時の1997年の685万人と比べて約29%も減少していることがわかりました。

 加えて、建設現場に勤務する就業者の年齢層も課題です。同資料では、建設業就業者のうち約36%が55歳以上であり、29歳以下の若年層は約12%となっています。

 このような建設現場の人手不足は、長時間労働を引き起こします。人手不足自体の解消は確かに重要ですが、前述した状況からすぐに改善することは難しいでしょう。そのため、現状の人手不足を補うべく、まずは業務改善を行い効率化することが求められています。

政府による働き方改革の推進

 近年のワークライフバランスを重視する傾向から、さまざまな産業で休日出勤および残業を減らすための取り組みが行われています。人手不足や長時間労働が問題視されている建設業も例外ではなく、ワークライフバランスを実現するための施策が必要です。

 このことに先立ち、日本政府は労働環境の是正に向けた働き方改革の関連法案を2019年から順次施行しています。環境改善に時間がかかると見られていた建設業では、2024年4月から適用が開始される予定です。具体的には、時間外労働の上限規制が設けられ、休日出勤を含む時間外労働を年720時間(月平均360時間)に抑える必要があります。超過した場合は労働基準法による罰則も設けられており、労働環境の見直しや改善を推進していくことが重要です。

 決められた時間内に業務を終わらせて、休日出勤や残業を削減するためには、いかに業務を効率よく行うかがポイントになります。働き方改革による規制の中で生産性を確保するには、クラウドやICT(情報通信技術)、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などを活用したデジタル化の推進が不可欠です。デジタル化による業務効率化を進めると、既存の従業員の満足度向上につながる可能が生じます。その結果として離職の防止に寄与し、人手不足の加速を抑える効果も期待できます。

建設業の業務をデジタル化することで得られるメリット

 建設業で業務をデジタル化することにより、一体どのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは、主なメリットを解説します。

情報共有が容易に行える

 デジタル化により情報共有が容易となり、業務効率化を加速させる効果が期待できます。

 建設業は現場作業に加え、設計・工事管理・営業などさまざまな業務があります。それぞれの担当者間で情報共有を行う場合、アナログな方法でやり取りしていると時間がかかるうえ、リアルタイムの情報が得られません。加えて、複数人との情報交換も難しく、その中で起こり得る情報共有の漏れが、業務の遂行に大きな影響を及ぼす可能性もあります。

 情報共有をシステム化することでリアルタイムな情報が共有でき、各業務の担当者間の連携もスムーズになります。たとえば、工事管理の担当者が直接現場に行かなくても状況確認を容易に行えるため、移動時間の削減が可能です。さらに、建材の確保や工期の遅れといった急な状況変化にも、迅速に対応できます。情報共有の手段をシステム化することで、建設業におけるさまざまな業務で効率化が実現するでしょう。

資料を管理しやすくなる

 紙媒体で管理している資料をデータ化することで、業務効率化が期待できます。

 建設業では、図面や工程管理表などさまざまな資料を扱い、人数分印刷して配布したり持ち運んだりしなければなりません。資料の種類が増えると管理の手間が増え、紛失する恐れも出てきます。加えて、資料に修正箇所が出た場合、配布した資料をすべて最新のものに差し替えなければならず、そのために余計な時間や手間が生じてしまいます。このことは、スケジュールに大きな影響を与えかねません。

 システムを活用して資料をデータ化することで、資料を持ち運びする必要がなくなり、紛失するリスクも抑えられます。また、データ化すれば資料がかさばることはありません。なおかつ、資料を探す際は、検索機能を用いれば簡単に見つけ出すことが可能です。さらにインターネットなどを活用すれば、最新のデータへすぐに更新・閲覧できます。このように、システムを用いることで資料管理が容易になり、業務効率の向上が期待できます。

消耗品によるコストを削減できる

 消耗品にかかるコストを削減できることも、メリットのひとつです。

 建設業の業務では、図面や建設現場の写真、管理工程表などを使用しますが、これらを紙資料で管理する場合は紙代や印刷代などのコストがかかります。1枚にかかるコストは小さくても、多種類の資料を業務に関わる人数分だけ用意することを考えれば、トータルでは大きなコストとなるでしょう。

 必要な資料をデータ化し、タブレット端末などを用いて共有すれば、消耗品のコスト削減につながります。資料内容の変更があった際も、印刷し直す必要がなく、データの更新作業を行うだけで済みます。データ化するためのシステムの導入にもコストはかかりますが、長期的に見れば、紙の資料を扱うよりはコスト削減につながる可能性が高いでしょう。

生産性が向上する

 建設業におけるさまざまな業務をデジタル化し、効率化を図ることで生産性の向上も期待できます。デジタル化により多くの業務が効率化されれば、時間的な余裕が生まれます。そのぶん、コア業務へ専念できるようになり、業務全体の生産性が向上するでしょう。

 デジタル化による業務効率化は、残業時間の削減にも効果的です。働き方改革への対応にもなり、従業員のワークライフバランスの実現も期待できます。プライベートな時間をもつことで従業員はリフレッシュでき、結果的に生産性の向上につながります。

建設業の業務効率化に活用できる主なツール

 建設業のデジタル化には、さまざまなツールが用いられます。中でも、業務効率化に活用できる具体的なツールを4つ紹介します。

ツール1:ビジネスチャットツール

 ビジネスチャットツールとは、ビジネスで利用するコミュニケーションツールです。

 建設業は、設計や建材の調達、工事管理、現場などのさまざまな業務で成り立っており、各担当者が連携して業務を進めます。そのため、各業務の担当者間で行われる情報共有を円滑にすることは、業務全体の効率化につながります。

 ビジネスチャットツールでは、1対1で応答する電話やメールと違い、複数人が同時にコミュニケーションを取ることが可能です。複数人がその場で常に送受信できる状態のため、会話をするような感覚でやり取りが行えます。

 テキストや写真、資料の共有も容易です。個別に連絡する必要がなく、チャットの参加者が全員同時に内容を確認できるので、リアルタイムで複数人に情報が共有できます。

 加えて、チャットのやり取りがそのまま残るため、内容の振り返りにも役立てることが可能です。これにより、内容の勘違いや伝達ミスの防止も期待できます。

ツール2:ウェアラブルカメラ

 ウェアラブルカメラとは、ヘルメットや作業服に装着して作業を撮影できるカメラのことです。離れた場所とのリアルタイムな映像共有はもちろん、マイクが内蔵されているウェアラブルカメラであれば音声の共有も可能です。

 建設現場を遠隔から管理できるので、別の現場にいる従業員とも状況を共有できます。状況確認のために現場に赴かなくても済むので、時間短縮や人手不足の解消も見込めます。

 さらに、ベテラン従業員が作業する様子を撮影した映像は、新人に向けた教育資料としても利用可能です。建設業で懸念されている技術継承問題にも、有効活用が期待されています。

ツール3:タブレット

 タブレットを利用することで、紙で管理していた資料をデータ化して管理できます。これまで紙で管理していた図面や資料、工程表などをデータ化することで、ファイリング作業や分厚いファイルの持ち歩きが不要になります。

 加えて、タッチペンを用いて直感的に操作できるのもメリットです。図面や資料の拡大表示もスマートフォンと同じ感覚で行えるため扱いやすく、現場作業の効率化に大きく貢献してくれるでしょう。

 さらに、現場管理アプリなどを利用すれば、図面や資料の情報共有だけでなく、スケジュールや人員の調整も可能です。現場において必要な情報を一元管理することで、さらなる業務効率化が期待できます。

ツール4:ドローン

 ドローンも業務効率化に役立つツールのひとつです。近年、さまざまな分野でドローンが利用されていますが、建設業でも活用によるメリットが得られます。

 たとえば、これまで手作業や目視で行われていた工事の進捗状況の確認や高所点検、撮影などの作業をドローンに任せることが可能です。ドローンの利用により、これらの作業が短時間で済み、なおかつ従業員の危険も伴いません。労働時間の短縮や怪我のリスク軽減にも寄与し、現場作業の業務効率化が期待できます。

【建設業】業務効率化の成功事例

 最後に、上記のツールを用いて業務効率化に成功した事例を3つ紹介します。

成功事例1:株式会社楓工務店

 株式会社楓工務店では従来、社内や社外との連絡業務は口頭や電話、付せんによる伝言で行っていました。1日に100件以上もかかってくる電話など、業務連絡の多さが課題であり、そのことによる伝達ミスや情報の把握漏れに不安を抱えていたとのことです。

 そこで同社は、ビジネスチャットツールを導入しました。「社内の業務連絡のグループチャット」と、建材屋・電気屋・外構屋など「協力会社のグループチャット」を用意し、業務連絡の効率化を図りました。

 これにより、電話の回数を30%以上削減でき、伝達ミスは「ほぼゼロ」になるほどの効果をもたらしています。加えて、一番の取引先である建材屋とのグループチャットにより、発注ミスによる時間のロスもなくなりました。

成功事例2:株式会社IHIインフラシステム

 水門設備や鋼製橋梁などの事業を行う株式会社IHIインフラシステムでは、先進的なインフラ点検支援技術の利用や、IoTによる施工管理の迅速化を目的として、遠隔作業支援ツールのウェアラブルカメラを導入し、ダム堤体内や高架橋などでの活用につなげています。

 現場の従業員が装着したウェアラブルカメラの映像を出張所にてモニタリングすることで、遠隔からの立ち会いや段階確認が可能になりました。立ち会い時間の調整がしやすくなったことや、移動や支援にかかる時間の削減、映像記録として残せることで問題時の対応にも利用できるなど、さまざまなメリットが得られています。

成功事例3:東日本高速道路株式会社

 高速道路の建設・維持管理運営やサービスエリア事業、高速道路関連ビジネスを行う東日本高速道路株式会社は、生産性向上のためあらゆる業務のICT化を推進しています。これまでは、従業員がデスクワークや会議、打ち合わせなどに時間を取られることで、現場に行く時間が捻出できないという問題を抱えていました。

 そこで同社は、タブレット端末およびアプリの導入を決定します。導入により、パソコンの前にいる必要がなくなり、現場に行く時間の捻出に成功しています。加えて、写真を撮り資料を用意して配るという、これまで現場と事務所を行き来していた工程が、すべて現場で完結するメリットも得られました。タブレットおよびアプリの利用が増えていくことで、ペーパーレスや資料共有の効果も現れています。

 以上のように、建設業の業務効率化には、ビジネスチャットツールやウェアラブルカメラ、タブレット、ドローンなどのデジタル技術を駆使したツールの活用が効果的です。業務効率化による生産性向上も期待できるため、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

まとめ

 建設業で業務効率化が求められている背景には、慢性的な人手不足や働き方改革推進などの理由があります。業務効率化を進めるうえで業務のデジタル化は不可欠であり、情報共有や資料管理が容易になるだけでなく、コスト削減にも効果的です。

 活用できるツールとして、ビジネスチャットツールやウェアラブルカメラ、タブレット、ドローン、現場管理アプリなどが挙げられます。これらを用いることで、業務効率化による労働環境の改善にもつながります。

先進企業の事例に学ぶ建設現場DXの最新動向

人手不足や高齢化が進む建設業界ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれて数年が経過したものの、思うように取り組みが進んでいない企業もあるのではないでしょうか。そこには、「どのような方法で行えばよいかわからない」、「現場で具体的なイメージをもつことができない」、「デジタルになじみにくい社風である」といった要因も関係しているでしょう。そこで本資料では、日本建設業連合会が公開している「建設DX事例集」を中心に、建設業のデジタル化の取り組みを多彩な業務・技術の観点から解説します。数多くの事例に触れることで、これから始める自社の改革へのヒントを得られるでしょう。

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