現在多くの業界でDXに向けた取り組みが行なわれています。建設業界も例外ではなく、DXを推進することで課題を解決し、働き方改革を進めようとする企業が増えてきています。今回は、建設業のDXに関して、DXの概要や実際の導入事例、DX導入の際の注意点を紹介します。
DXとは
まずはDXについておさらいしましょう。DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略称で、直訳するとデジタルへの変化という意味となります。DXはスウェーデンの大学教授エリック・ストルターマンが提唱した概念で、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」とされています。つまり、DXはデジタル化そのものというよりも、デジタル技術を活用し、既存のビジネスに変革を起こすことを目的としています。
建設DXとは
建設業界で取り組まれるDXは建設DXと呼ばれ、多くの企業がさまざまな技術を活用し、建設業の問題解決に役立てる取り組みを行っています。建設DXに欠かせない技術の例としては、以下のようなものがあります。
AI
AI(Artificial Intelligence、人工知能)の利用場面はさまざまです。一例として、AIを使った画像認識技術を活用し、重機の死角にいる人を自動で検知して警告する仕組みなどが挙げられます。また、道路やトンネルの外観検査などに使われることもあります。
ローカル5G
ローカル5Gとは、企業などが個別に利用できる5Gネットワークのことを示します。建設現場の重機を遠隔操作で動かす際など、高速・大容量の通信ネットワーク回線が必要となる場面で、ローカル5Gの需要が高まりを見せています。
BIM/CIM
BIM/CIMは、計画・調査・設計段階から3次元モデルを導入し、施工・維持管理などの段階にも3次元モデルを連携・発展させることで、関係者間の情報共有を容易にするほか、一連の建設生産・管理システムを効率化・高度化する取り組みです。
建設業界でDXが注目されている背景
建設業でDXが注目されるようになった背景に、「i-Construction」が挙げられます。i-Constructionとは、ICTを建設現場に導入することで建設生産システム全体の生産性向上を図る取り組みで、国土交通省が推進しています。建設業で高齢化による労働力の減少が懸念されている中、ICTの活用により省力化が期待できます。
高齢化と共に課題となっているのが、技術継承です。建設業に必要とされる技術は専門性が高いものが多く、身につけるには時間がかかります。しかし熟練技術者のノウハウをデータ化したり、ウェアラブルカメラなどで若手従業員をサポートすることで、技術継承の早期実現が期待できます。
さらに、DX化を進めることで危険な作業を機械に任せることも可能になります。重機の使用や建設現場の作業が遠隔で行えることで、事故リスクが軽減されます。
建設業のDX事例
中島工業株式会社
同社は100人以上の従業員を抱える企業で、工場現場の設備工事を手がけています。社内には長年培ってきた施工技術やノウハウが存在しているものの、それが各拠点に分散しており、共有できていないことが課題でした。そこで同社は課題解決のためにデータ管理システムを導入。導入前はエクセルや紙で社内の情報を管理していたため、手間と時間がかかっていましたが、導入後は従業員の工数が軽減され、あらゆるデータが簡単に探せるようになり、従業員間の情報共有も円滑になりました。
株式会社NIPPO
同社は東京に本社をおく大手道路舗装企業です。舗装工事の現場は各支店から離れたところにあるため、品質チェックや安全性の確認に多くの時間とコストがかかることに頭を悩ませていました。また、現場で問題が発生した際に、電話での説明では正確に問題を伝えることができないのも課題でした。そこで同社は業務効率化のために、スマートフォンの映像伝送などを通して遠隔作業の支援を行うシステムを導入。タブレットやスマートグラスを通して現場の映像を共有できるようになったことで、担当者が直接現場に足を運ばなくても、現場の確認、サポートが行えるようになりました。また移動時間の削減に伴い、一日に複数の現場のチェックも可能になりました。
建設DX導入のポイント
現場の課題に合わせたDX
デジタル技術を導入するだけで、無条件に生産性の向上などのメリットが得られるわけではありません。まずは必要とされる現場をリサーチし、どのような課題があるのかを明確にすることが重要です。その後、DXに関連する技術をどのように組み合わせれば解決するのかを予算とともによく吟味しましょう。導入後の変化予測を会社全体で事前に共有し、導入後に検証することも大切です。
デジタルに長けた人材の確保
現場での課題洗い出しと並行して、課題解決の判断が行え、かつデジタル技術に精通した人材を確保する必要があります。実際のシステム運用だけではなく、システム選定の段階からデジタル人材は重要となります。条件を満たす人材の採用が難しいときには、DXの総合的なサポートが可能な協力会社を活用するのもひとつの手です。
まとめ
ここ数年でDXの普及は大きく進み、建設業でもDXの活用が推進されています。DXの推進は大きなメリットを得られる可能性が高いですが、そのメリットをすぐに享受できるとは限りません。DXを実践する際は、いきなり全社で導入するのではなく、課題感の高い場所から少しずつ広げていくとよいでしょう。自社の課題を改めて見直し、導入の検討を進めてください。
建設業 デジタル技術導入・活用ガイド
建設業の過剰な労働時間は長年にわたって問題視されてきましたが、いよいよ2024年4月1日に「残業時間の上限規制」が適用されます。規制に違反すると懲役・罰金刑に処され、悪質なケースでは企業名公表もあるため、労働時間の見直しは建設事業者にとって喫緊の課題です。国土交通省や厚生労働省はICT活用に向けた支援を実施しているものの、十分に普及していないのが現状です。本資料では、建設業のデジタル化に詳しい大阪大学 矢吹信喜教授の見解を踏まえ、2024年問題対策のポイントや進め方を解説します。有効なデジタル技術に言及しながら、事業者がこれから検討するべき対処法を紹介します。
連載記事一覧
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- 第3回 建設業でウェアラブルカメラはどのように活用されているか 2022.03.31 (Thu)
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