労働災害の発生件数が多い建設業界において、労働環境の改善に悩まされている建設事業者は少なくありません。人や物体の検知機能を搭載する多機能な建設機械を導入することで事故を防ぐ方法もありますが、資金面から導入に踏み切れない企業も多いのではないでしょうか。本コラムでは、作業員が安心して働ける建設現場を実現するためのアプローチについて紹介します。
全産業のうち3割を占める建設業界の死亡災害
厚生労働省の「令和3年における労働災害発生状況について」を見ると、建設業界の労働災害による死亡者数は288人で、前年の死亡者件数を上回る結果になりました。業種別では最多の数値となっており、全産業の死亡災害のうち34.1%を占めます。
これまでも厚生労働省は労働安全衛生法に基づいて、作業員の安全・健康の確保の措置を講じるよう求めてきました。建設職人基本法など建設工事従事者の安全を守るための法律を制定し、建設業界における安全衛生対策を推進しています。
例えば、2021年度には脚立からの転落による死亡災害が多発しており、全ての場合において被災者が保護帽(ヘルメット)を着用していなかった、もしくは転落時には保護帽が脱げていたことを踏まえて、厚生労働省は 「令和4年度における建設業の安全衛生対策の推進に係る留意事項」に脚立使用時の注意事項を記載しています。具体的には「脚立を使用させる場合は、適切な保護帽の着用を確認すること」というものです。とはいえ、留意事項の中には「適切な安全対策を講じること」「転倒予防の取り組みに努めること」など、指示内容が曖昧なものも少なくありません。
建設機械による死亡災害を防ぐ「検知」機能
具体的に、建設業界ではどのような対策に注力すればよいのでしょうか。
建設業界では特に「墜落・転落災害」「建設機械・クレーンなどによる災害」「崩壊・倒壊災害」が発生しやすいと言われています。作業員の安全を確保するためには、これらの労働災害の発生防止に努めることが重要になるでしょう。
その中でも「建設機械・クレーンなどによる災害」は、2021年度の死亡災害のうち約20%を占めます。死亡災害が起こりやすい建設機械としてはドラグショベル、ローラーが挙げられ、事故の発生要因は「激突・はさまれ・巻き込まれ」など、建設機械と作業員の接触によるものが多くを占めます。
特に、近年ではドラグショベルの小型化が進み,建設事業者におけるミニショベルの保有台数は増加傾向にあります。ミニショベルを使う狭小な現場では、作業員と建設機械が近くで作業するケースも多いと思われます。これに伴ってミニショベルに関わる「墜落・転落」「転倒」の死亡災害が増加しています。
大型のドラグショベルに関わる死亡災害も引き続き発生しています。「激突」「はさまれ」「巻き込まれ」による死亡災害が多く、特に建機の後退中、旋回後退中に発生していることが明らかになっています。ローラーに関する死傷災害の事故も「はさまれ・巻き込まれ」「激突され」に起因するものが多い状況です。
建設機械による死亡災害を減らすには、作業員との接触のリスクを低減させることが現実的でしょう。例えば、作業服やヘルメットにタグを取り付け、建設機械が作業員を検知する仕組みを整えたり、検知対象との距離を測定できるカメラを活用することなどが考えられます。人だけを検知・識別する技術はまだ発展途上ですが、操作者や作業員へ危険を知らせて回避行動を促す警告機能や、動作を強制的に停止・減速させる機能を搭載した建機は増えています。
ICTツール導入で安全を確保する
検知機能などを搭載した多機能な建設機械を導入すれば、安心して働ける建設現場づくりは進めやすくなるでしょう。厚生労働省が発行している 「令和4年度における建設業の安全衛生対策の推進について」では、安全確保へ向けた取り組みの一環として「安全な建設機器の普及」を挙げています。同資料では、特に中小建設事業者に対して「高度安全機械等導入支援補助金」の活用を周知する方針が示されています。
とはいえ、多機能な建設機械へ投資できるだけの資金力がない、各作業場に適した建設機械の手配が難しい建設事業者は少なくありません。現場監督を適切な人数で配置するなどの基本的な対策も求められていますが、慢性的な人手不足に悩まされている建設業界にとっては、それも実現が難しいのではないでしょうか。
そこで考えられる対策としては、ICTツールの導入があります。複数のカメラを駆使して動くものを認識・検知できる「画像センシング技術」を用いれば、作業員と建設機械の距離が縮まった際に警報音を発して操縦者、作業員双方に危険を知らせることが可能です。人の目視によるチェックよりも信頼性が高いことがあり、危険だと判断した状況のデータを蓄積・分析することで安全対策を強化することができます。
労働災害のリスクを低減させるうえでは、作業員の健康管理も欠かせません。これまでは、現場監督がWBGT(暑さ指数)を参考に水分補給や休憩を呼び掛けてきました。しかし、作業員の体調不良を見抜けない、もしくは本人が体調不良を申告しないという課題が残っていたことも事実です。
保護帽やウェアラブルデバイスにセンサーを取り付ければ、作業員の体調不良に気が付ける可能性が高まります。これによって作業内容や労働環境の見直しも行いやすくなるでしょう。
こうしたICTツールの導入には、ネットワークの整備も不可欠です。とはいえ、自社にとって適切なツールや、必要となるネットワーク環境の構築方法、運用方法がわからない場合も多いではないでしょうか。その場合は、建設業界の事情をよく理解しており、なおかつICTインフラの構築にも精通した専門家に相談するとよいでしょう。
建設業 デジタル技術導入・活用ガイド
建設業の過剰な労働時間は長年にわたって問題視されてきましたが、いよいよ2024年4月1日に「残業時間の上限規制」が適用されます。規制に違反すると懲役・罰金刑に処され、悪質なケースでは企業名公表もあるため、労働時間の見直しは建設事業者にとって喫緊の課題です。国土交通省や厚生労働省はICT活用に向けた支援を実施しているものの、十分に普及していないのが現状です。本資料では、建設業のデジタル化に詳しい大阪大学 矢吹信喜教授の見解を踏まえ、2024年問題対策のポイントや進め方を解説します。有効なデジタル技術に言及しながら、事業者がこれから検討するべき対処法を紹介します。
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