国土交通省が提唱する「i-Construction」にのっとり、建設業界は建設プロセスの全工程でICTツールを活用することが求められています。国土交通省は2025年度までに建設業界の労働生産性の2割向上をめざしており、そのために建設現場へのICTツール導入が推奨されていますが、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。本コラムでは、これからの建設現場に役立つ「7つのICTツール」を紹介します。
業務効率化・生産性向上へのアプローチに迷う建設業界
建設業界では、ひとつの案件に設計と建設にかかわる多数の事業者が関与しています。発注の際は事業者間で図面や資料、工事の工程管理表を共有しており、その中では書類のやり取りを紙媒体で行うことも珍しくありません。いわゆる「一人親方」の中には、書類のやり取りをFAXで行っているケースも見られます。
こうした建設業独自の事情から、他業種の成功事例をそのまま適用することは難しく、生産性向上や業務効率化をめざしたICTツール導入による成功事例はそれほど多くありません。
業務効率化へのアプローチに迷う建設事業者が多い中、政府は上限を超えた時間外労働に対して罰則を科す「働き方改革関連法」への対応を求めています。その他に、ベテラン作業員が大量退職する「2025年問題」を控えた建設業界にとって、業務効率化・生産性向上は急務と言えます。これらに有効なアプローチと考えられるのが、ICTツールを導入した業務のデジタル化です。
①ドローン
建設現場の業務効率化・生産性向上に寄与するICTツールとしてまず挙げられるのが、無人航空機(ドローン)です。現在さまざまな業界で活用されているドローンは、建設業における測量・土地の調査に貢献します。測量・土地の調査にドローンを利用するメリットは、大きく分けてふたつあります。
ひとつ目は、人材不足や作業員の事故リスクの軽減に役立つ点です。ドローンを使えば、人間は立ち入ることが難しい土地の測量や建造物の点検を行えます。空中からさまざまな角度で撮影できるため、点検のためだけに足場を組む必要がありません。人材不足が慢性化している建設業界において、非常に役立つ存在と言えるでしょう。また、危険な土地や建造物の内部に立ち入る必要がなくなるため、作業員の安全を守ることにもつながります。
ふたつ目は、施工管理に役立つ点です。ドローンを使えば遠隔地から現場を巡回・視察し、複数の工事現場の進捗状況をリアルタイムに把握できます。
②産業用タブレット
建設現場で使う産業用タブレットは、耐振動、耐衝撃、防水、防じんといった機能を有していることが一般的です。近年では、作業用手袋を外すことなく使えるタブレットも登場しています。産業用タブレットを導入するメリットとしては、以下の2点が挙げられます。
ひとつ目は、パソコンとしても使える点です。メールの送受信や施工現場の撮影、図面管理、マニュアルの閲覧などを作業所に戻ることなく行えます。アプリケーションをインストールすれば、遠隔地の拠点とビデオ会議で意見をすり合わせ、図面を変更できる手軽さも魅力と言えるでしょう。移動時間を削減できるうえ、データでやり取りすることでペーパーレス化も実現できます。
ふたつ目は、マシンガイダンスとして使うことで作業精度を保てる点です。マシンガイダンスとは建設重機の操作をサポートする技術で、自動車におけるカーナビに当たります。操作者は実際の位置と設計データの違いが確認できるので、一定のクオリティを維持しやすくなります。
③VR/AR
コンピューターがつくった空間や世界を体感できるVR(仮想現実)技術、現実世界に仮想的な資格情報を加えるAR(拡張現実)技術には、活用のメリットが大きく分けて3つあります。
ひとつ目は、完成後の建築物をよりリアルに体感できることです。着工前に顧客に対して完成イメージをVR空間で閲覧してもらい、認識をすり合わせることができます。
ふたつ目は、VR空間で足場を再現できる点です。危険な場所を高い臨場感で事前に把握しておくことで、作業員の事故リスクを低減させることにもつなげられます。
3つ目は、作業員の教育に活用できる点です。新人の作業員に対する技能継承や、作業内容のシミュレーションなどに役立ちます。また、遠隔地にいるベテラン現場監督と視覚を共有して経験の浅い現場監督が指示を仰ぐといった使い方もできます。
④ウェアラブルデバイス
ウェアラブルデバイスとは、身体に装着して使える機器です。スマートグラスやスマートウォッチ、ヘルメットまたは衣類に装着するカメラなどが代表的な例として挙げらます。ハンズフリーで活用でき、スマートフォンと連携できるものが一般的です。ウェアラブルデバイスにも活用のメリットは豊富にあります。
ひとつ目のメリットは、「遠隔臨場」を実施できることです。遠隔臨場とは、ウェアラブルデバイスで撮影した施工現場の様子を遠隔地から確認することです。遠隔臨場によって、遠隔地から材料や資材の確認を行うといったサポートが可能になります。
ふたつ目のメリットは、作業員の体調管理ができることです。ウェアラブルデバイスの中には、作業員の心拍数や血圧といったバイタルサインを測定できるセンサーを搭載しているものがあります。屋外での作業が多い建設業界において、作業員の健康状態やストレスチェックを行うことは労働環境の改善にも役立つでしょう。
⑤ビーコン
ビーコンは、Bluetoothの電波を発信する小型の電子機器です。作業員のヘルメットや建築資材、機材などに取り付けることで、現在位置を特定できるようになります。現場監督者はスマートデバイスを操作するだけで作業員や資材の動きが把握できるため、建築資材の置き方を工夫するなど作業の効率化を図ることもできるでしょう。
⑥アクセスポイント
パソコンやスマートフォンなど無線LAN対応の端末をネットワークに接続するための機器です。オフィス内などで広く使われていますが、屋外設置にも対応し、かつ数100メートルの範囲で無線エリアを構築できる製品も広く普及しています。近年はWeb会議など負荷の高い通信を行う機会も多く、屋外でも無線LAN環境を構築するニーズは高いといえるでしょう。
⑦自律走行型ロボット
自律走行によって作業を機械化・自動化できるロボットも、業務負荷軽減に役立ちます。現在は主に建築資材の運搬サポートなどで使われており、肉体労働の負担を軽減できるツールとして注目されています。
建設業界における業務効率化・生産性向上が求められる昨今においては、ここ紹介した7つのツールは課題解決への有効なアプローチとなるでしょう。もちろん、自社にもっとも効果があるツールはどれなのかは、各社が抱える課題によって異なります。「必要なICTツールがわからない」「どう運用すればよいのかサポートしてほしい」といった企業は、トータルサポートが可能なICT事業者へ相談するとよいでしょう。
建設業 デジタル技術導入・活用ガイド
建設業の過剰な労働時間は長年にわたって問題視されてきましたが、いよいよ2024年4月1日に「残業時間の上限規制」が適用されます。規制に違反すると懲役・罰金刑に処され、悪質なケースでは企業名公表もあるため、労働時間の見直しは建設事業者にとって喫緊の課題です。国土交通省や厚生労働省はICT活用に向けた支援を実施しているものの、十分に普及していないのが現状です。本資料では、建設業のデジタル化に詳しい大阪大学 矢吹信喜教授の見解を踏まえ、2024年問題対策のポイントや進め方を解説します。有効なデジタル技術に言及しながら、事業者がこれから検討するべき対処法を紹介します。
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