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2023.02.15 (Wed)

建設業はICTで変わるのか(第14回)

建設業に若者離れが多い理由とは? 若者を確保する対策と今後の課題

 国内では総人口の減少や高齢者率の上昇が加速しており、特に人材不足の深刻化はさまざまな産業で問題視されています。建設業も例外でなく、若年層の就業者が減少傾向にあります。少子高齢化が進展する日本において、建設業界全体が持続的に発展していくためには、未来ある若年層の労働力が不可欠です。本記事では、建設業で若者離れが加速する理由について解説するとともに、若年層の就業者を確保する具体的な対策を紹介します。

建設業で若者離れが多い理由

 日本の総人口は2008年の1億2,808万人を頂点として減少に転じており、総人口に占める高齢者の割合は29.1%と、世界各国と比較して最も高い水準となっています。このような少子高齢化の影響も相まって、建設業界では人材不足が深刻化しています。建設業界全体における55歳以上の就業者が占める割合は約36%で、29歳以下の若手就業者は約12%と、就業者の高齢化と若者離れも進行しています。

 建設業で若者離れが加速する主な理由として挙げられるのが以下の5つです。

雇用が安定しづらい

 建設業で若者離れが進んでいる理由のひとつは、不安定な雇用形態です。東京商工リサーチの調査によると、建設業に従事する従業員の31.6%が「日給×出勤日」をベースとする日給月払制となっています。建設業は現場作業を主体とする業務が多く、雨や雪といった天候によって作業が中止になるケースもあり、約3割以上の労働者が不安定な雇用形態で働いていることがわかります。

 たとえば、左官工が担当する外壁の漆喰仕上げや土間コンクリートの金鏝仕上げなどは、雨天の場合は基本的に作業が中止となります。企業によっては休業手当を支給するケースもありますが、資金力に乏しい零細企業や小規模事業者では休日として扱われる場合が少なくありません。現場の有無や天候によって収入が大きく左右されるため、ライフプランを設計する際に不安を覚える若者が多いと考えられます。

労働時間が比較的長い

 労働時間が比較的長いという点も、建設業が若者から敬遠される理由のひとつです。厚生労働省の「毎月勤労統計調査 令和3年分結果確報(第2表 月間実労働時間及び出勤日数)」によると、建設業の月間労働時間は165.3時間であり、他産業の平均値と比較しておよそ30時間も労働時間が多い計算となります。近年、国内では違法な残業や長時間労働が問題視されており、2019年4月より「働き方改革関連法」が施行され、国内では時間外労働の罰則付き上限規制がスタートしました。

 それ以前は法定時間を超えた労働を可能にする「特別条項付き36協定」を締結した場合、6カ月まで上限規制を超える時間外労働が可能になり、実質無制限の残業が認められている状況でした。建設業では、長時間労働や過重労働が常態化している企業も存在しました。

 しかし、上限規制適用後は、特別条項付き36協定を締結した場合でも年720時間以内の時間外労働が限度となり、月45時間以上の時間外労働は6カ月まで、かつ月100時間未満で2~6カ月の平均が80時間以内という制限が設けられます。

 建設業では、2024年4月から上限規制の対象となります。これに伴い、労働環境の早急な改善が必要となっています。

休日が少ない

 建設業は労働時間が比較的長いだけでなく、週休二日制を導入している企業が少ない点も若者離れが進んでいる理由のひとつです。国土交通省が実施した調査によると、建設工事全体では約4割が4週4休以下の就業形態であり、週休二日制を導入している企業はおよそ2割となっています。建設業全体として休日が少ない理由のひとつに挙げられるのが、業界特有の多重下請け構造です。

 多重下請け構造とは、元請け企業の業務が二次請け企業から三次請け企業へと下層に流れていく構造を指します。委託された業務が下請け企業へ流れるほど中間マージンが発生するため、基本的に下層の企業ほど受け取る利益が少なくなります。工期の長さはコストに直結するので、下請けの零細企業や小規模事業者が利益を創出するためには、否が応でも厳しいスケジュールになってしまうのが実情です。

賃金が比較的安い

 建設業は他業種と比較して、賃金が安い傾向にあります。国税庁が2022年4月に公表した調査によると、国内における給与所得者の平均給与は443万円です。業種別の平均給与を見ると「電気・ガス・熱供給・水道業」が766万円と最も高く、次に「金融業・保険業」の677万円、「情報通信業」の624万円、「学術研究,専門・技術サービス業,教育,学習支援業」の521万円、「製造業」の516万円と続きます。

建設業の平均給与は建設業に続く511万円です。全体の平均以上となっており、最も低い「宿泊業・飲食サービス業」の260万円と比較すると、決して安い金額ではありません。しかし、建設現場の作業員と施工管理職とでは、年収に大きな格差があります。そもそも建設業は肉体的に負担が大きいため、労働量の多さや作業の危険性と比較して収入が見合わないと判断されている可能性もあります。

価値観が職場と合わないこともある

 若者が建設業を敬遠する大きな理由のひとつが、旧態依然とした組織風土や企業文化です。経営者や管理職が滅私奉公の精神を美徳とする古い価値観を有している場合、部下はその方針に従わざるを得ません。過重労働や理不尽に耐える姿勢を評価する企業も少なからずあり、長時間労働の常態化や年間休日の少なさ、有給休暇の取得しづらさなども古い価値観の影響を受けていると考えられます。

 日本建設産業職員労働組合協議会の調査によると、建設業に魅力を感じない理由のうち約4割が「前近代的な体質が残っている」との回答でした。これ以外にも「朝は所長より早く出勤しないといけない」「朝早く出勤したり、残業したりすると上司が喜ぶ」といった声もあります。合理的かつ論理的な考え方を好み、いわゆる「昭和の価値観」の押し付けに嫌悪感を抱く現代の若者は、建設業界を敬遠するのも仕方ないといえます。

建設業の若者離れ対策

 このように、建設業では若者離れが深刻化しており、現状のままでは人材不足による労働生産性の低下や、次世代への技術承継が大きな課題となります。こうした状況を打破する具体的な対策としては、以下の6点が考えられます。

魅力的な制度で企業のイメージアップを図る

 若手の就業者を獲得するためには、他の産業や競合他社にはない魅力的な制度を構築し、イメージアップを図らなくてはなりません。具体的な施策としては、賃金と処遇の見直し、働き方改革の推進、スキルアップ制度の充実、テレワーク制度の確立などです。現場作業以外の場面でも活躍できる制度があれば、体力面や将来性に不安を感じている若者へのアピールが可能です。そのほかにも、女性が働きやすい職場環境の構築を推進することで、若者離れの防止や競合他社との差別化を図れます。

賃金と処遇の見直しをする

 建設業の平均給与は511万円で、国内全体の平均給与が443万円であることを考慮すると、決して低い金額ではありません。しかしながら、業務の肉体的負荷や作業の危険性を考えた場合、高い賃金ともいえません。若者離れを阻止するためには賃金と処遇を見直し、労力に見合った対価を提供する財務体制を構築する必要があります。

働き方改革で長時間労働を是正する

 先述の通り、2024年4月より建設業にも残業時間の上限規制が適用され、違反した事業者は罰則の対象となります。業界内では「建設業の2024年問題」として危惧されていますが、古い組織風土や企業文化を脱却し、ワークライフバランスを推進する絶好の機会です。働き方改革を推進し、労働環境を改善すれば、「きつい」「危険」「汚い」という建設業のイメージを払拭し、若者離れを防止する可能性が高まります。

スキルアップ・資格取得などの支援制度を設ける

 建設業界には、「職人の仕事は目で見て盗むもの」といった古い価値観を持つ人も少なくありません。こうした価値観とは反対に、スキルアップや資格取得に向けた支援制度を充実させることで、将来の職務や職位などに関する方向性が明確化され、人材のエンゲージメントとロイヤルティの向上が期待できます。人材育成の仕組みを整備することで、向上心の高い若手求職者の増加につながるはずです。

一部の業務は「テレワーク可」で募集を行う

 近年、働き方改革の推進や新型コロナウイルスの感染拡大などの影響も相まって、さまざまな分野で導入されつつあるのがテレワーク制度です。リモート型の労働環境を整備できれば、時間や場所に縛られることなく働けるため、出産や育児、介護などの事情に合わせたワークスタイルを確立できます。現場作業が主体の建設業ではテレワーク環境の構築は容易ではありませんが、施工管理や経理業務といった領域であれば対応可能です。こうした一部の業務を「テレワーク可」として募集することで、多様な人材の確保に寄与します。

ICTを導入する

 「ICT(Information and Communication Technology)」は「情報通信技術」と訳される用語で、コンピュータによる情報処理やネットワークを用いた通信技術の総称を指します。建設重機の自律運転や施工管理のデジタル化、ドローン技術を活用した測量や図面のペーパーレス化など、建設現場におけるDXを実現する上で欠かせない技術です。IoTやAI、ロボティクス、クラウドサービス、ドローンなどの基盤となる技術であり、ICTの活用によって肉体的な業務負荷を軽減できれば、建設業の人材確保の一助となります。

まとめ

 建設業は2024年4月より働き方改革関連法が適用されるため、いまが労働環境の抜本的な変革を行うチャンスです。ICTの戦略的活用やテレワーク制度の導入によって先進的な労働環境を整備できれば、人材不足による生産性の低下を補えるのはもちろん、DXの推進企業として若手求職者の注目を集める一助となるでしょう。

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建設業の過剰な労働時間は長年にわたって問題視されてきましたが、いよいよ2024年4月1日に「残業時間の上限規制」が適用されます。規制に違反すると懲役・罰金刑に処され、悪質なケースでは企業名公表もあるため、労働時間の見直しは建設事業者にとって喫緊の課題です。国土交通省や厚生労働省はICT活用に向けた支援を実施しているものの、十分に普及していないのが現状です。本資料では、建設業のデジタル化に詳しい大阪大学 矢吹信喜教授の見解を踏まえ、2024年問題対策のポイントや進め方を解説します。有効なデジタル技術に言及しながら、事業者がこれから検討するべき対処法を紹介します。

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