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2023.02.15 (Wed)

建設業はICTで変わるのか(第15回)

建設業の「残業問題」2024年施行の労働時間の上限規則に向けた対応とは?

 働き方改革関連法の一環として、建設業においても2024年4月から、時間外労働に対して罰則付きの上限規制が設けられます。長時間労働が問題視されている中で、新たな法規制に対応するには、労働環境の抜本的な変革が必要です。

 本記事では、建設業の長時間労働が常態化している理由、働き方改革関連法に基づく残業規制の新たなルール、課題解消に向けて取り組むべき具体的な対策を解説します。

建設業の深刻な残業問題

 建設業界では以前から、長時間労働の常態化や休日の少なさが問題視されています。厚生労働省が2022年12月に公表した「毎月勤労統計調査」では、建設業における1カ月あたりの総実労働時間は、167.1時間であったと報告されています。この結果は、調査対象となっている全産業の中で最も長時間です。

 全産業の137.3時間と比較すると、建設業は1カ月あたりの労働時間が30時間ほど多くなっています。さらに、建設業の時間外労働は15.1時間となっており「運輸業・郵便業」「情報通信業」「電気・ガス業」に次ぐ高い水準です。

建設業に残業が多い理由とは

 建設業では、需要の高まると社員の数に対して仕事量が多くなる傾向があり、残業時間削減を実現しづらいという実情がありました。とはいえ、近年はさまざまな業界で人手不足の解消と働き方改革の実現に向けた取り組みがスタートしています。建設業でも、まず時間外労働が多くなる理由について理解を深めて、働き方改革の実現をめざすことが重要です。

工期までに完工させる必要がある

 建設工事には工期が定められています。工期の遵守は企業の信用問題に大きくかかわるため、特別な事情を除いて最優先事項となるのが一般的です。得に短期間に設定された工事では、工期の遵守を優先することで、従業員ひとりに対する業務量は多くなりがちです。

 現場作業を主体とする建設業は、天候に進捗が左右されます。雨や雪などの影響で工事を進められないこともあります。作業の遅れを取り戻すために、残業を余儀なくされるケースも少なくありません。

業界全体で人手が不足している

 日本では、少子化に伴う人口減少といった社会的な背景から、多くの企業が人手不足という課題を抱えています。建設業界は、さまざまな大型プロジェクトにより活況となる一方で、就業者の高齢化や若手人材の不足といった問題と直面しているのが実情です。

 業務内容に対する先入観から、若年層は建設業を敬遠する人もいるでしょう。たとえ入社しても、すぐに離職するというケースも起こり得ます。新しい人材が入らないと、業界の労働者一人ひとりの業務負荷が高くなり、時間外労働の増加につながることになります。

繁忙期は業務量が大きく増える

 多くの業界では、通常よりも忙しくなる繁忙期と比較的受注の少ない閑散期が存在します。建設業も例外ではなく、9月末や3月末頃が繁忙期となるのが一般的です。この時期は決算月にあたるため、公共工事や法人向けの工事が集中しやすくなっています。

 一方で、4月から6月頃は閑散期です。新年度に入って間もない時期は、予算編成がまとまっておらず、工事の発注が比較的少なくなります。繁忙期は通常よりも業務量が大幅に増加するため、工期遵守が優先となり、残業時間を削減しづらいのが実情です。

イレギュラーな対応を求められることが多い

 建設業のような受注型のビジネスでは、クライアントのイレギュラーな要望を断れない社内風土の企業が多く存在します。顧客の要望による急な仕様変更や、工期短縮要求に対応するために、休日に出社するというケースもあるでしょう。

 建設業界では、顧客を優先する考え方が根強いため、できるだけ顧客の要望に応えようとする傾向があります。かつては「残業は当たり前」という風潮も存在したようです。

業界内で競争が激化している

 2025年には大阪万博を控えていることもあり、建設業の需要は増加傾向にあります。しかし、かつてのバブル経済期と比較すると受注件数は少なく、市場競争は激しくなっています。競合他社と案件の取り合いになりやすく、採算が合わない安価な工事や短工期の案件も受注せざるを得ない状況があるのも事実です。このような背景から、労働者ひとり当たりの業務量が増え、残業時間の削減が難しくなっています。

事務書類の処理の負担が大きい

 建設業では、施工計画書をはじめ、材料承認など多くの書類を作成しなければなりません。そのため、事務書類の処理が業務の負担となるケースも多くあります。建設業の場合、工事の規模が大きくなるほど取引先の数も増えます。発注者によって求められる書類が異なるため、書類の作成には多くの時間を費やすことになります。一般的な建設現場では、午前8時から午後5時が所定内労働時間となっていますが、現場監督は進捗管理や書類作成といったデスクワークに追われ、残業時間は多くなりがちです。

労働基準法の改正で定められた残業時間の上限

 働き方改革の推進に伴い、労働基準法に対しても見直しが行われています。労働基準法は、働いているすべての人を守るための法律です。万が一、違反して制裁を受けた場合、事業者は社会的・経済的に大きなダメージを受ける可能性があります。そうならないためには、最新の情報を常にチェックする必要があります。

労働時間に関する新ルール

 2019年4月に施行された改正労働基準法により、時間外労働の上限が設けられました。労働基準法第32条には「休憩時間を除き1日8時間を超える労働」「休憩時間を除き1週間につき40時間を超えた労働」をさせてはならないと明記されており、これを法定労働時間と呼びます。従業員を、法定労働時間を超えて労働させることは、原則で認められていません。

 上限を超えた時間外労働が必要な場合は、同法第36条に基づいて「36協定(サブロク協定、時間外労働時間協定)」を締結し、所轄の労働基準監督署へ届けなければなりません。その場合の時間外労働については、以下のように定められています。

・時間外労働の上限は年720時間以内(月平均60時間)
・2~6か月の時間外労働の平均が80時間以内
・単月100時間未満
・月45時間の時間外労働を超えられるのは6か月まで

 上のように定められた時間外労働の上限を超えて、労働者が合法的に労働するためには、特別条項付き36協定が必要になります。建設業の事業者は、特別条項付き36協定を締結することで、上限なしで1年につき6カ月までの時間外労働をさせることが可能でした。

 しかし2024年4月からは、「月45時間以内、年360時間以内」という36協定の上限規制に違反した場合、他業種と同様に罰則が科せられるようになります。

建設業は2024年から適用

 「働き方改革関連法」は、大企業では2019年4月、中小企業は2020年4月から順次適用されています。しかし建設業においては、「早急な労働環境の改善が困難である」と判断され、前述のように、法改正適用に5年間の猶予が与えられていました。

 2024年4月からは、労働環境の改善による離職率の低下や就職率の向上を目的として、建設業でも時間外労働に対する罰則付きの上限規制がスタートします。違反した事業者は「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」を科される可能性があります。ただし、災害の復旧・復興に限って当面の間は適用外となります。

労働時間の上限規制に向けて企業が取るべき対応

 客観的に労働時間を把握して必要な対策を講じることは、時間外労働の上限違反を防ぐためだけでなく、従業員の健康を守るためにも重要なことです。従業員の労働状況を適切に把握し、働きやすい環境を整備すれば、モチベーションの向上や従業員エンゲージメントのアップも期待できます。

 新しい時代に即した労働環境を整備するために、企業が取るべき具体的な対応について理解を深めておきましょう。

残業時間の管理体制を整える

 ワークライフバランスの整った労働環境を構築するには、始業・終業時刻、残業時間の適切な管理が求められます。タイムカードやICカードを活用したり、パソコンの使用時間を記録したりするなど、労働時間を客観的に管理する必要があります。

 さらに、勤務形態や給料体系が複雑になっているケースも少なくありません。このような課題の解決には、勤怠管理システムを導入して労働時間を管理するのが効果的です。人材の確保や休暇制度の整備、適切な給与体系の構築なども意識して、積極的に労働環境の見直うべきです。

業務の無駄を省いて効率化させる

 長時間労働を是正していくとともに、従来と同等以上の労働生産性を確保するには、業務効率化が不可欠です。既存の生産工程や業務フロー、コスト過多に陥っている工程などを見直して、時間外労働を招く要因となるボトルネックを可視化すれば、課題を把握しやすくなります。

 既存の業務プロセスにおける非効率的な領域を特定し、その部分を優先して改善策を講じれば、労働時間の短縮や業務品質の向上が実現するはずです。継続的に業務改善を図ることは、経営基盤の総合的な強化にも結びつきます。

36協定・特別条項付き36協定届の新様式を提出する

 法定労働時間を超える労働には36協定または特別条項付き36協定届を提出しなければなりませんが、残業時間の上限規制が設けられたことにより、労働基準監督署長に提出する36協定届の様式も新しくなっており、新様式では、36協定の一般条項と特別条項が明確に分けられています。

 申請作業は比較的容易で、押印や署名が不要なオンライン申請にも対応しています。

週休2日制の導入を検討する

 建設業は労働時間が他の産業より多いだけでなく、週休2日制を導入している企業も少ない傾向にあります。国土交通省がまとめた「建設業の働き方改革の現状と課題」によれば、労働者の約4割が4週4休以下の就業形態となっていて、週休2日制を導入している企業は2割程度です。

 これまで週休2日制は、工期の延長に伴うコストの増大が懸念材料となっていました。しかし働き方改革の推進に伴い、費用計上について、休日の数に応じた補正係数と積算基準が改正されています。これにより、重機の賃料や経費の負担を回避できます。

離職や人材を確保しやすい環境にする

 業務負荷や作業の危険性を考慮した場合、建設業の賃金は決して高くありません。仕事の内容に見合わない給与も離職率の悪化を招く要因のひとつとされています。残業を削減するには人手不足の解消が必要であり、離職率を改善するには適切な給与設計や人事評価制度の確立が求められます。

 建設業では社会保険に未加入の企業も多いため、福利厚生を充実させることも、人材確保における重要事項となります。

適切な工期を設定する

 工期の遵守を最優先事項とする組織体制のままでは、残業の増加や休日出勤を抑えることは難しいです。生産体制のアセスメントや施工条件の明確化などの施策を通じて、無理が生じないよう適切な工期を設定することが大切です。

 発注者や元請け企業に対し、工期に対する説明を十分に行い、理解と協力を求める必要もあります。現場作業では、天候の影響によって進捗に遅れが生じるケースも多々あります。余裕をもって工期を設定し、時間外労働を抑える取り組みが必要です。

まとめ

 建設業においても2024年4月より労働基準法の改正が適用されるため、ニューノーマル時代に即した労働環境を整備しなければなりません。残業問題が深刻化する建設業が働き方改革に対応するには、労働時間の管理体制を最適化し、業務効率化や離職率の改善、週休2日制の導入、福利厚生の充実といった施策を推進する必要があります。

 このような施策を通じて、ワークライフバランスに優れた組織体制を整備すれば、離職率の改善も見込めるはずです。近年では、働き方改革の実現に向けて、施工管理システムや建設キャリアアップシステムのようなICTサービスを導入する企業が増えています。この機会に、利便性の高いツールの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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建設業の過剰な労働時間は長年にわたって問題視されてきましたが、いよいよ2024年4月1日に「残業時間の上限規制」が適用されます。規制に違反すると懲役・罰金刑に処され、悪質なケースでは企業名公表もあるため、労働時間の見直しは建設事業者にとって喫緊の課題です。国土交通省や厚生労働省はICT活用に向けた支援を実施しているものの、十分に普及していないのが現状です。本資料では、建設業のデジタル化に詳しい大阪大学 矢吹信喜教授の見解を踏まえ、2024年問題対策のポイントや進め方を解説します。有効なデジタル技術に言及しながら、事業者がこれから検討するべき対処法を紹介します。

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