まちづくりのヒント(第24回)

次世代モビリティへの転換を促す支援制度 ~地域公共交通のデジタル革新に向けて~

 地域公共交通は今、大きな転換点を迎えています。2024年の労働時間規制強化により顕在化した運転手不足の課題に対し、AIやデジタル技術を活用した次世代モビリティへの期待が高まっています。しかし、その導入には多額の費用が必要となることから、国や自治体はさまざまな支援制度を整備し、地域の交通システムの革新を後押ししています。本稿では、深刻化する地域交通の危機的状況を概観しつつ、次世代モビリティの導入に向けた支援制度の現状と、その活用による持続可能な地域交通の実現への道筋を探ります。

労働時間規制強化で危機に瀕する地域交通

 地域の公共交通は現在、深刻な危機に直面しています。少子高齢化が進む中で労働人口が減少し、移動や物流サービスを担う人材不足が全国的な課題となっています。特に、「2024年問題」言われる労働時間規制の強化により、物流業界だけでなく公共交通分野でも運転手不足が深刻化し、日々の運行体制に大きな影響を及ぼしています。

 多くの地域では、運転手の年間労働時間の上限引き下げや勤務間インターバルの延長義務化により、路線バスの減便や運行本数の見直しが相次いでいます。一部の自治体では、数百便規模の減便を実施してもなお運転手不足が解消されず、残業や休日出勤によってかろうじて運行を維持しているのが現状です。

 自治体が主導するコミュニティーバス事業も、収益性が低く運営費に制約があることから、2024年問題の影響をより強く受けています。運転手不足に直面したバス事業者が、収益性の高い観光バス事業にシフトする動きも見られ、地域住民の足として重要な路線バスの維持がますます困難になっています。

 このような課題に対処するため、各地で新たな取り組みが進められています。その1つが、AIやデジタル技術、高速通信などを活用した次世代交通システムの導入です。運行方式やダイヤ、発着地の設定に柔軟性があるデマンド交通や、鉄道が通らずバスの本数が減少している地域では、自動運転バスが導入されています。これらは交通手段の提供にとどまらず、携帯電話の利用動向による人流データを活用して最適ルートを設定したり、観光施設との連携による地域活性化を図ったりするなど、データを駆使して多様な課題の解決を目指しています。

次世代交通システムの実現に立ちはだかる資金の壁

 労働環境の改善や採用活動の強化に加え、新技術を活用した次世代交通システムの導入は、地域公共交通の再生を支える重要な鍵となっています。しかし、その導入には多額の費用が必要であり、課題となっています。

 デジタル庁 国民向けサービスグループ モビリティワーキンググループの資料によると、自動運転バス1台あたりの車両費用は約5,500万~8,000万円とされています。さらに、3Dマップの作成や走行ルート設計といった初期費用として、1箇所あたり約1,000万~2,000万円が必要です。これに加え、遠隔監視システムのハードウェアやソフトウェア費用、充電設備の設置費用も別途発生します。

 また、自動運転サービス(レベル4:特定の条件下での人が介入しない完全自動運転)の普及には、一般車や歩行者、自転車が混在する一般道での安全かつ円滑な走行の実現が求められています。現状では、車載センサーだけでは把握が困難な交差点などでの実証実験や、ハード・ソフトウェアの整備方針について検討が進められています。また、異なる事業者が提供する車両やロボット、ドローン間での空間情報の共有や協調制御を実装することも重要となります。

次世代交通を支援する補助・助成制度

 次世代交通システムの導入を支える補助制度には、地域交通ネットワークの維持や活性化、新たな機会の創出を目的としたさまざまな支援が設けられています。いくつかの事業を紹介しましょう。

国土交通省の「地域公共交通確保維持事業」による支援

 地域をまたがる幹線バスネットワークのうち赤字バス系統について、経常経費から収益を差し引いた額の2分の1を補助しています。対象となるのは、地域公共交通計画に位置付けられた系統で、複数市町村にまたがる路線や1日3回以上運行する路線、1日の輸送量が15人から150人と見込まれる路線などです。幹線バスと接続するデマンド交通を含む地域内交通も補助対象となっています。

 また、車両の更新支援として、減価償却費・金融費用の補助や、公有民営方式による車両購入費用、車両の改造費用の補助があります。補助上限額は、ノンステップバスで1,500万円、ワンステップバスで1,300万円などと定められており、補助率は2分の1となっています。

国土交通省の「地域公共交通活性化・再生総合事業」による支援

 住民の移動手段確保や地域活性化、環境問題への対応を目的に、地域公共交通の活性化と再生を支援しています。補助対象となる経費には、法定計画の策定調査費用(定額補助)や、地域公共交通総合連携計画に基づく事業費用(2分の1補助など)が含まれます。対象となる事業には、鉄道やバス、旅客船の実証運行、車両や関連施設の整備、デマンドシステムの導入が挙げられます。鉄道の増便やダイヤ変更、路線バスやコミュニティーバスの活性化、旅客船の航路再編や増便などが具体的な事例です。

 さらに、スクールバスや福祉バスの活用、乗継情報の提供やICカード導入、ボランティアセンターの設置・運営といった乗継円滑化に向けた取り組みなども支援対象となっています。

国土交通省の「共創・MaaS実証プロジェクト(共創モデル実証運行事業)」による支援

 交通を地域の暮らしと一体として捉え、その維持と活性化を目指しています。この事業は、地域における多様な関係者が連携・協働する「共創」の取り組みや、それを支える仕組みの構築を支援するものです。「共創」に基づく取り組みとして、地域交通の維持や活性化を目指すプロジェクトが対象となります。これまでの補助事例には、デマンド交通の導入に関する支援が含まれており、地域ごとの課題に応じた新しい交通サービスの実現が促進されています。

東京都の「持続可能な地域公共交通実現に向けた事業費補助金」による支援

 地域公共交通の維持・活性化を目指してさまざまな補助を行っています。地域公共交通計画の策定費用は1区市町村あたり最大500万円まで、運行経費は路線の形態に応じて月額35万円から165万円まで、それぞれ2分の1の補助率で支援されます。また、車両購入費の補助では、ユニバーサルデザイン車両で最大2,800万円、電気自動車などのZEVで2,680万円、普通車で600万円を上限に支援が行われます。さらに、公共交通データ標準形式(GTFS-JP)の整備費用として1路線あたり10万円の補助もあります。

総務省の「地域デジタル基盤活用推進事業(自動運転レベル4検証タイプ)」による支援

 遠隔監視システムや安全な自動運転に必要な通信システムを実証事業で検証し、地域限定型のレベル4自動運転移動サービスの社会実装を目指す取り組みです。NTT東日本は東京都狛江市で、(株)ティアフォー、(株)マップフォー、(一財)計量計画研究所、(株)unerry、狛江市とコンソーシアムを形成し、本事業に採択されています。狛江市では、多摩川住宅地区の再開発により、2025年度以降に人口増が見込まれるため、2024年4月の改善基準告示により公共交通の乗務員不足が深刻化しており、住民の移動手段確保が課題となっています。

 本実証事業では、交差点やロータリーに設置したセンサーやカメラで得た情報を、ローカル5Gを活用して遠隔監視者や自動運転車両に伝送し、見通しの悪い状況での交通状況の先読みを検証しています。

NTT東日本が次世代交通導入をサポートします

 こうした補助金や助成金の申請は複雑で、スムーズに進まない場合も少なくありません。しかし、次世代交通に関するテクノロジーだけでなく、検証・実施・運用に関する豊富なノウハウを持つNTT東日本であれば、幅広いサポートが可能です。先に紹介した狛江市での取り組みに加え、成田空港での自動運転バスの実証、デマンド交通向けクラウドサービスの提供、杉並区での小規模移動サービスとしての電動車活用、さらにはNTTグループが保有する営業車両を活用したカーシェアリングなど、多様な次世代モビリティの実績があります。

 NTT東日本の強みは、地域交通の現状把握(見える化)から課題分析、ソリューション提案、さらにはまちづくりへの展開(他分野との連携)まで、幅広いフェーズでお客様に寄り添った支援が可能な点にあります。一部補助金申請の支援の実績もありますが、その目的は中長期的な視点でまちづくり全体を支援することにあります。交通をまちづくりの一要素として捉え、その結節点としての役割を重視し、自治体や地域の皆様と共に取り組みを進めています。

 さらに、NTT東日本は東日本エリアの各地に支店を持ち、地域交通や自治体の課題に精通した社員が多数在籍しています。こうした地域に根ざした知識と経験を活かし、お客様に寄り添いながら、きめ細やかな支援を提供しています。


※本記事で紹介している各種支援制度は申請期間が終了していたり、内容が変更されている場合があります。最新の詳しい情報は各支援制度のホームページなどをご確認ください。

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