2024.11.07 (Thu)
まちづくりのヒント(第15回)
紙の弱点はテクノロジーで解決。デジタル地域通貨の本領とは?
特定の地域内でのみ使える「地域通貨」は、地域経済を活性化させる施策の一つです。日本では2000年頃に盛んに導入されましたが、課題も多く、その後下火になっていました。そんな地域通貨が、現在スマートフォンアプリなどを活用した「デジタル地域通貨」として、再び注目を集めています。本記事では、地域通貨の「デジタル化」の意義と、紙の地域通貨との違いを解説します。
地域経済に好循環を。2000年代の地域通貨ブームを振り返る
地域通貨は、厳密な定義のある言葉ではありませんが、一般的には国家や中央銀行が発行する法定通貨(日本の円など)に対して、自治体や企業・団体が独自に発行する通貨のことをいいます。
法定通貨よりも安く買い物ができる、ポイントを貯められるといった利用メリットがあり、地域内での経済循環やコミュニティの活性化に効果があるとされます。原則としてその地域内の店舗やサービスに対してのみ有効で、使える期間が決まっているなど、法定通貨と比べると制限が多くなっています。
日本国内で地域通貨が大きな注目を集めたのは、2000年代前半のことです。1999年の「地域振興券」をきっかけに、紙媒体の地域通貨が全国各地の自治体で誕生しました。そのいくつかは現在も続いており、地域内経済の循環に一定の成果を収めています。しかし、一世を風靡した「紙媒体の地域通貨」の多くは、短期間で発行停止となり、いつしか下火になっていきました。
紙の地域通貨に代わるように、2017年頃から普及し始めたのが「デジタル地域通貨」です。スマートフォンの普及やテクノロジーの進歩、コロナ禍における非接触決済ニーズの高まりを受けて、数多くのデジタル地域通貨が定着の兆しを見せつつあります。
紙の地域通貨が次第に下火になったワケとは?
かつて紙の地域通貨が苦戦した最大の理由は、物理的媒体であるが故の運用の難しさです。
自治体などの運営母体での発行・管理コストに加え、地域通貨の加盟店となる地元店舗やサービス企業側の負担も問題となります。加盟店では法定通貨と地域通貨を並行して扱うため、日々のオペレーションが煩雑になるうえ、換金作業も発生します。こうした負担は、それでも利用者数が多ければ売上増のメリットが上回りますが、逆に利用が少ないと費用対効果が得られず、デメリットだけがのしかかることになります。
もう一つ、紙の地域通貨で見逃せない弱点が、偽造リスクです。法定通貨は国が大きなコストをかけて偽造対策を施していますが、地域通貨はシンプルな設計がほとんどで、偽造が行いやすいというデメリットがありました。
スマホの時代に真価を発揮したデジタル地域通貨
デジタル地域通貨は、こうした紙媒体の課題の多くを解決しています。まず、物理的な実態を持たないデジタルデータなので、基本的に印刷や運用のコストが発生しません。偽造リスクについても、アプリを介して管理することで、紙をコピーするように簡単に偽造することは難しくなります。
地域通貨のデジタル化は、発行側だけでなく加盟店の負担軽減にもつながります。近年は、スマートフォンアプリによるQRコード決済が、生活の中で当たり前のものになっています。利用者も加盟店もすでにQRコード決済に慣れているため、簡単に導入・運用できます。加えて、煩雑な事務作業を、あらかじめアプリのシステムに組み込むことで自動化できるのも、加盟店にとってはメリットです。
また、紙と違って、アプリ経由で購買情報などのデータを蓄積できるのも、デジタルの大きな強みです。取得したデータを分析することで、他の施策立案や改善にも活用できるでしょう。加えて、デジタル地域通貨が普及することで、幅広い層にスマートフォンアプリの活用を促し、地域のITリテラシーの向上にもつながる可能性があります。
他のDX施策との連携でさらなる地域活性化を実現
ここまで述べたようなデジタルならではの特性を生かした事例が、全国各地で見られるようになっています。
香川県の「マイデジ」では、地域通貨マイデジ(マイデジポイント)を中心にさまざまな機能を持ちますが、県からの出産・子育て応援給付金「ともはぐペイ」をアプリ上で受け取れるという取り組みが2024年から実施されています。香川県では今後、マイデジ以外のデジタル地域通貨でも給付金を受け取れる予定になっています。
マイデジの大きな特徴は、地域との交流によってポイントを貯められる仕組みです。さまざまな地域企業・団体と連携しており、例えば地域ボランティアに参加することでポイントを得られるなど、利用者と地域との関係性を深める仕掛けが豊富に搭載されています。
このように、デジタル地域通貨の恩恵は、紙の地域通貨の主たる機能であった「地域経済の循環促進」に留まりません。「マイデジ」の給付金配布に見られるように、デジタル地域通貨は、自治体のさまざまな施策を実行する、いわばプラットフォームとして活用できます。買い物以外でも、「利用者の地域との関わり」をデータとして取得できるため、そのデータを他の施策に活用することも可能です。
地域通貨は、デジタル化により、多角的に地域コミュニティを活性化できる施策として生まれ変わったと言えるでしょう。
デジタル地域通貨を活用したまちづくり
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