2024.11.07 (Thu)

まちづくりのヒント(第16回)

事例で見る。デジタル地域通貨の効果とは?

 特定の地域やコミュニティ内でのみ利用できる電子決済手段である「デジタル地域通貨」を導入する自治体が増えてきました。今回の記事は、導入によりどのような効果が表れたのか、事例とともにお伝えします。加えて、うまくいかなかったケースも紹介。導入を考えている自治体が、デジタル地域通貨のメリットと課題を考えるきっかけになれば幸いです。

デジタル地域通貨を導入する自治体は増加傾向に

 デジタル地域通貨を導入する地域が増えています。利用者となる住民にも認知は広がりつつあり、決済に応じたポイント還元や利便性などから、自分が住む自治体への導入を期待する声も少なくないようです。

 デジタル地域通貨はさまざまなメリットをもたらします。たとえば、地域の中で利用できる通貨を作ることで、お金が地域の中で消費され、地域内経済の循環に寄与します。加えて、地域の経済基盤として各種給付金付与、プレミアム商品券や地域観光券の発行、健康増進やエコポイントなどの行政施策と連動することで、地域課題の解決に役立てられることも大きな特長です。デジタル化によって行政と住民との接点が増やしやすくなり、地域内のつながりの活性化も期待できます。

 また、デジタル地域通貨の導入により、自治体は従来型の紙券での運用より事務処理を効率化できます。地域ぐるみのデジタル化で地域住民や事業者のITリテラシーが向上するかもしれません。さらに、データを利活用することによって、データに基づく緻密な行政施策の立案が可能となり、住民がより安心して生活しやすいまちづくりに発展させることも視野に入れることができるでしょう。

さまざまな自治体が、加盟店数と利用者数を伸ばしている

 ここからは実際にデジタル地域通貨を導入した事例を紹介します。飛騨信用組合は、岐阜県高山市、飛騨市、白川村で使える「さるぼぼコイン」を2017年にスタートしました。飛騨地域の約2,000店舗が加盟しており、現地の生活に浸透しています。内閣官房が実施した「夏のDigi田(デジデン)甲子園」でもその取り組みが評価されました。「さるぼぼコイン」でしか買えないものや体験をつくりたいというコンセプトのもと、名店の裏メニュー、非売品の雑貨、地元の方が贈る「飛騨の体験」、不動産などさまざまなものが出品されています。

 埼玉県深谷市は、デジタル地域通貨「negi(ネギー)」を導入。2024年10月18日時点で、利用できるお店は983店に上ります。「デジタルスタンプラリーにより、市内回遊をした方の景品としてネギーを活用して、市内回遊の状況を可視化できました。

 板橋区商店街振興組合連合会と板橋区商店街連合会によって運営されるデジタル地域通貨「いたばしPay」は、区内の消費活動や経済循環を促進するほか、アプリを通じて、店舗のキャンペーン情報等を発信し、地域住民と事業者間のつながりを推進しているのが特徴です。2024年7月には流通総額が100億円を突破。ユーザー数は13万5千人、加盟店数は1,500店舗を超えました。

 滋賀県のデジタル地域コミュニティ通貨「ビワコ」は、2022年にスタートしました。毎年モデル地域を設定し、各市町と連携しながら県域全体で事業の拡大を図っています。ユーザー数は、約19,000人で順調に伸びています。エリアコーディネーターを配置し、導入検討事業者へ時間をかけて説明することで、加盟店の増加及び理解促進につながっています。

 兵庫県尼崎市は、電子地域通貨「あま咲きコイン」を、2021年から本格的に導入しました。2023年の時点で、利用者数は10万人以上、加盟店数は1,300店以上、累計ポイント発行数は40億ポイントを超えています。ボランティア活動や健診の受診、省エネ家電の買い替えなど、SDGsにつながる行動に対して、行政に留まらず民間企業からもポイントを発行。お得に楽しくSDGsに取り組める仕組みを設けて、まち全体で盛り上げています。

加盟店や利用者など、地域の方々に浸透させていくことが重要

 デジタル地域通貨の導入にあたって、考えるべきことはいくつかありますが、ここでは二つ紹介します。一つは、利用者・加盟店の拡大です。ある自治体は、デジタル地域通貨を導入したものの、スマホを使い慣れていない高齢者にとってハードルが高く、継続できませんでした。二つ目は、コストの問題です。デジタル地域通貨は、システム導入のためのイニシャルコストの他に、利用者拡大のためのPRコストやセキュリティ対策のためのコストなどもかかります。収益サイクルをきちんと設計することが必要です。

 今回の記事ではデジタル地域通貨の導入事例を紹介しました。加盟店数や利用者数を伸ばしている自治体は、他では購入できない商品やサービスを揃えたり、キャンペーンを企画したり、情報発信を積極的に行ったり、ユーザーが魅力を感じる施策を行っています。デジタル地域通貨と行政施策を連動させて、地域に根付いたサービスを展開していくことも利用者数が増える要因の一つとなるでしょう。

 デジタル地域通貨を普及させるためには前述のような施策の他、事業者に加入するメリットや活用方法をていねいに説明して理解してもらうことが必要です。合わせて、幅広い世代が使いこなせるようにフォローすることも大事です。デジタル地域通貨の導入によって、経済の活性化、行政の削減、地域住民とのコミュニケーションの活発化といったさまざまなメリットが生まれるよう、他の自治体の事例にも目を向けつつ、地域の特性を考えながら企画・運営することが求められます。

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