2024.10.03 (Thu)
まちづくりのヒント(第10回)
おむつはサブスク、出欠管理はクラウド。中野市が取り組む「保育DX」に迫る
中野市では市が運営する公立保育所にて、職員と保護者のコミュニケーションに課題を抱えていました。この問題を解決するために、令和2年度から保育・教育施設向けの業務支援ツールを、令和6年度からはおむつのサブスクサービスの導入を始め、保育DXを推進しています。導入までの苦労や、現在のツールの活用法、今後の展望について中野市の担当者に伺いました。
<導入いただいたソリューション>
・保育・教育施設向けの業務支援ツール「CoDMON(コドモン)」
・おむつのサブスクサービス「手ぶら登園」
<ソリューション導入効果>
・中野市の公立保育所9園で出欠連絡や登降園管理などのデジタル化に成功。保育所職員や保護者の負担を軽減
・おむつのサブスクサービス導入により、保護者の負担を軽減し、職員の業務の効率化も図る
<NTT東日本選定のポイント>
・保育現場での課題を理解した上での的確なサービスの紹介
・ソリューションの活用提案や導入までの支援
保育園の業務で特に手間がかかるのは「連絡」と「写真の販売」
――子育て・保育の分野でDXを取り入れることになった背景を教えてください。
中野市内に公立保育所が9園ありますが、保育所職員と保護者の双方の間で、コミュニケーションの負担が発生していたのが大きな要因です。
保育所職員と保護者の連絡は、電話や日誌のような紙でのやりとりが中心で、これら以外の連絡手段がありませんでした。たとえば、保育所を欠席する時は保護者が電話で連絡する必要がありましたが、朝の忙しい時間の連絡は保護者と保育所職員の双方の負担となっていました。
細かいところでいえば、保育所で子どもたちの写真を保護者に販売する際にも負担が発生していました。
写真販売をする時は、まず保育所職員が写真を紙に出力して園内で閲覧できるように掲示して、保護者たちがそれを見て購入希望の写真番号を手書きで記入し、保育所職員たちがそれを取りまとめて代金を現金で徴収するという流れを採用していました。この一連の作業に、非常に手間がかかっていました。
これらコミュニケーションの問題を、デジタルの力で省力化できないかと考えていたところ、NTT東日本から保育・教育施設向けの業務支援ツール「CoDMON(以下、コドモン)」の紹介を受け、令和2年度から保育DX施策の一つとして導入することになりました。
――「コドモン」を導入された決め手を教えてください。
コドモンには、登降園管理や保護者との連絡、指導案や日誌の作成などさまざまなことができる機能が備わっており、使いたい機能だけを選んで導入することができます。
特に良いと思ったのが、「写真共有・販売」機能です。これを使えば、アプリを通して保護者に写真を共有・販売することができます。職員側は、撮影した写真をコドモンにアップロードし、保護者側はアップされた画像の中から写真を選定し、支払いもシステム内で行うことができます。
これに加えて、コドモンは保育・教育施設向けのICTサービスの中で導入シェアNo.1であることへの安心感や、使いやすいUIであったことも導入の決め手になりました。
現場は慣れないシステムに反発も、NTT東日本のサポートで効果を実感
――コドモンを導入するにあたって大変だったことを教えてください。
現場での導入がなかなか進まなかった点です。実は、令和2年に導入を決めてから実際に「写真共有・販売」機能を使い始めるまで、1年ほど時間を要しました。
というのも、そもそも保育所の現場では、園長や主任クラスの職員以外は、パソコンやタブレットを業務の中で使う機会がほとんどありません。日々の業務も忙しいため、馴染みの薄いデジタルツールを導入することに対して、最初は反対する声も少なくありませんでした。
しかしNTT東日本のスタッフが、活用方法をガイドしたり、コドモンの使い方の説明会をセッティングするなど、職員が導入をスムーズに進めるためのサポートを行ったことで、現場の職員たちも徐々にコドモンの操作に徐々に慣れ始めました。
実際に使ってみると操作がしやすく、便利になったことを実感できた点も、導入が進んだポイントだと考えています。特に写真共有・販売の機能は私も実際に試してみたところ、体感的には10分の1くらいの労力で作業ができるようになったのではと感じるほどでした。
――現在はコドモンをどのように活用しているのでしょうか。
写真共有・販売機能はもちろん、令和4年度からは子どもたちの出欠連絡の機能も活用し始めました。これまで職員や保護者の手間になっていたコミュニケーションがアプリを通して連絡できるようになったことで、業務の効率化につながっています。
翌年には、登降園の管理機能も活用を始めました。従来は登降園の記録を、保育所職員が子どもや保護者の顔を見て、紙とペンでメモを取るスタイルで行っていましたが、現在は保育所に設置されているリーダーに、スマートフォンをかざすだけで打刻ができるようになりました。つまり、登降園がITで管理できる仕組みが整っています。
そのほかにも、「園だより」などのお知らせ配信や保護者へのアンケート、連絡帳、指導案の作成などの機能を活用しています。現場の職員からも、「導入当初は慣れないこともあって手間や負担が増えたように感じたが、デジタルツールの活用によって業務時間の削減や保護者への連絡が迅速になった」という声が届いています。
保育所に導入した後、令和4年度からは市内の9つの放課後児童クラブでも「コドモン」を導入しました。放課後児童クラブでは、主に出欠確認の機能を利用しています。これまで欠席するときは、保育所と同様に保護者から電話で連絡をしてもらって、出欠状況は紙で管理していましたが、現在は出欠の連絡をシステム上で行えるようになっています。
――今後、コドモンで活用したい機能はありますか。
保護者への連絡機能をもっと有意義に活用できないかと考えています。たとえば、中野市内で行われる子育て関連のイベント情報などを、保育所や放課後児童クラブに通う子どもを持つ保護者に送ることができれば、市のイベントに参加するきっかけにもなるはずです。
コドモンの機能は多様で、まだまだ活用しきれていないと感じています。今後も保育所職員の作業効率化や保護者の負担軽減を目指すことはもちろん、より安心安全で満足してもらえる保育サービスを市民の皆さんに提供するために、さらなる活用方法を模索していきます。
紙おむつのサブスクも導入。給付金の申請など、育児のあらゆる場面でDXを目指す
――「コドモン」の活用以外で進めている保育DXの取り組みを教えてください。
NTT東日本からの提案を受け、市内の保育所で紙おむつのサブスクサービス「手ぶら登園」を利用しています。
手ぶら登園は、月額料金を支払うとおむつやお尻ふきを直接施設に届けてくれるサービスです。保護者アンケートの声から導入することが決まり、実証実験を経て令和6年度から本格的に導入を始めました。
利用は希望制ですが、サービスを導入したことで、保護者が子どもの名前を書いたおむつを持参する必要がなくなり、負担削減につながっていると思います。保育所職員にとっても、おむつに書かれた名前を気にせずに子どもたちにはかせることができ、園内でのおむつの管理が楽になり、業務の効率化につながっています。
導入は市内の保育所1園からスタートし、現在は7園にまで広がっています。
――そのほか、今後導入したいと考えている保育DXの施策を教えてください。
保育所職員の見回り業務を省力化するために、午睡時の様子をチェックしたり管理したりする午睡センサー、および午睡用ベッドの導入を検討しています。そのほか、防犯カメラ映像のAI分析によって、保育所におけるインシデント対策も実施していきたいと考えています。
中野市が実施している、子育て関連の給付金やサービスの申請についても、さらなるDX化を進めていければと思います。申請はデジタルでも受け付けていますが、転入や転出届のついでに窓口で申請を行う方や、「正しく記入できているか不安だから」と紙ベースの申請書を使う方が多いのが現状です。職員の業務負担を削減するためにも、申請にかかわる業務ややりとりのデジタル化を進めていきたいと思っています。
――今後、NTT東日本に期待することを教えてください。
NTT東日本のネットワークや情報網を活かした提案をしていただきたいです。そもそも保育分野のどの部分をDXができるのか、現場や職員だけでは気付けないところもあると思います。今後も先進的な技術やソリューションを紹介いただけることを期待しています。
<組織名>
長野県中野市
<概要>
長野県の北東部に位置する人口約4万2千人の市。北東に高社山、北西に斑尾山の2つの山を配し、気候は昼夜の気温差が大きく、降水量は少なめ。果物の栽培に適しており、特にリンゴやブドウは全国でも有数の生産量を誇る。エノキタケをはじめとするキノコの栽培も盛ん。アクセスは北陸新幹線の長野駅から、長野電鉄に乗車し約30~40分。市内には上信越自動車道の信州中野IC、豊田飯山ICも存在する。
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