2024.10.18 (Fri)

他人には聞けないICTの“いま”(第64回)

医療の個人情報「リアルワールドデータ」はどうすれば活用できるのか

 電子カルテなどに記載される医療データは「リアルワールドデータ(RWD)」と呼ばれます。このデータをビッグデータとして活用すれば、新薬の早期開発に貢献することも可能ですが、データの集約方法や精度のバラつきなど、さまざまな課題があります。どうすればリアルワールドデータの活用は進むのでしょうか?解説します。

医療業界の重要なデータ「リアルワールドデータ」とは?

 「リアルワールドデータ」(RWD)という言葉を聞いたことがある人は、医療関係者を除けば、そこまで多くはないかもしれません。リアルワールドデータとは、診療報酬明細書(レセプト)や電子カルテのデータなど、日常の実臨床の中で得られる医療データをあらわす言葉です。

 厚労省が公開している、東京大学情報基盤センターの資料「日本の医療情報データ 二次利用の現状と課題」によれば、リアルワールドデータにはさまざまな情報源から収集される、生活者(患者)の健康状態や医療行為のデータとして定義されています。具体的には、以下のようなデータです。

・レセプトデータ
・電子カルテのデータ
・患者のレジストリデータ(患者の疾患や治療内容などのデータ)
・健康診断データ
・ウェアラブルデバイスなどから得られるバイタルデータ

 これらのほかにも、厚生労働省が管理・公開する「社会医療診療行為別統計」や「患者調査」も含まれるといいます。

リアルワールドデータは「薬」の開発に貢献する

 このリアルワールドデータは現在、医薬品の開発を中心に活用が進められています。

 たとえば厚生労働省では2024年5月より、国内における薬事申請への利用のために、リアルワールドデータの整備を目的とした「リアルワールドデータ活用促進事業」の募集をスタート。大学、研究機関、学会など、医薬品の薬事申請へのデータの利用を前向きに検討しているレジストリの保有者に対し、応募を呼びかけました(応募期間は6月に終了)。

 同事業に選ばれた法人は、保有するレジストリや医療情報データベースの薬事申請への利用促進のため、医薬品医療機器総合機構との人材交流・意見交換や、機構が主催する説明会・勉強会への参加が求められます。経費については、予算の範囲内で国庫による補助が行われます。

 産学連携の取り組みも始まっています。たとえばNTTは2020年に、医療現場におけるリアルワールドデータを活用し、患者がより良い医療を受けられる次世代医療の発展に貢献することを目指す新会社「新医療リアルワールドデータ研究機構株式会社(英文略称:PRiME-R)」を、京都大学とともに設立しました。

 同社はがんの薬物治療に関する診療情報を標準化・構造化して収集するシステム「Cyber Oncolog」を開発し、全国の医療機関に提供しており、それぞれの臨床現場で収集されたデータを統合、管理したうえで、各研究機関や製薬企業などに提供しています。

 製薬会社による取り組みも行われています。中外製薬ではリアルワールドデータ中外製薬はリアルワールドデータについて、臨床試験計画の効率化・高度化に活用すること、および患者数が少なく、RCT(ランダム化比較試験、対象者を複数のグループにランダムに分け、薬など治療法の効果を検証すること)の実施が難しいケースにおける有効性・安全性の証明に役立てるとしています。

リアルワールドデータを便利に使うためにはどうすれば良いのか

 このように活用が進みつつあるリアルワールドデータですが、逆にいえば、今まではなかなか活用が進まなかったということでもあります。先に挙げた東京大学情報基盤センターの資料によると、これまでリアルワールドデータの利用が広がらなかった背景には、いくつかの理由があったようです。

 理由のひとつがデータの“分断”です。リアルワールドデータは基本的には民間が保有しており、かつ医療施設や薬局、健康組合などさまざまな組織がそれぞれでデータを管理しているため、ビッグデータとして扱うことはできていませんでした。

 加えて、データの「質」も、リアルワールドデータを活用するためには重要な要素といいます。ここでいう質とは、たとえばデータ入力時のインプットの方法を複数の医療現場で統一したり、患者のIDや医療機関のIDを連結するといった、データの標準化のことです。ただ単にデータを集めるだけでは、利用は進まないといいます。

 さらに、セキュリティ対策も、データの活用の障壁となり得るといいます。リアルワールドデータが悪用されないために、セキュリティ対策は欠かせませんが、セキュリティを優先しすぎることで使い勝手が低下しては、利用は推進されないでしょう。

 これらの障壁を乗り越え、各組織が保有するリアルワールドデータをうまく組み合わせることで、リアルワールドデータがリッチになり、従来のような“スモールデータ”ではなく、真のビッグデータとなり得るとしています。

 リアルワールドデータのような、実際の医療現場で得られる生きたデータを有効活用できれば、新薬の早期開発は現在よりもさらに早く進められ、その新薬で助かる人も増えることでしょう。

 かつて病に伏せた誰かのリアルワールドデータが、巡り巡って薬に生まれ変わることで、同じ病で伏せる誰かの命を救う、そんな時代が訪れようとしています。

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