2022.11.15 (Tue)

他人には聞けないICTの“いま”(第51回)

全労働人口の8割を占める、デスクレスワーカーのDX改革

 デスクレスワーカー(ノンデスクワーカー)とは、デスクワーク以外の仕事に従事する働き手のことです。世界の労働人口の大半を占めているにもかかわらず、デスクワーカーと比べてDXが進んでいないことが課題とされています。本記事ではデスクレスワーカーのDX市場における現状とポテンシャル、課題解決に取り組む事例を紹介します。

コロナ禍で現場のDXが進むも、テクノロジーの質に対する不満も

  現場で働くデスクレスワーカーは、農業や製造、建設、輸送、小売、ホスピタリティ、教育、医療、ヘルスケアといった業界を支えています。アメリカのベンチャーキャピタル、Emergenceが2018年に発表した「THE RISE OF THE DESKLESS WORKFORCE」によると、デスクレスワーカーの労働人口は約27億人で、これは世界の労働人口の約80%を占める割合です。しかし、これほど多くの労働者がデスクレスワークに従事しているにもかかわらず、デスクワーカーと比べてテクノロジーの恩恵を受けていないことが課題とされています。

 本調査では、運送業界や製造業界を中心に、あらゆる業界でデスクレスワーカー向けテクノロジーへの支出が増加していることがわかっています。一方、ソフトウェア系スタートアップ企業の多くがデスクワーカー向けのテクノロジーに資金を費やしており、デスクレスワーカー向けのテクノロジーに使われる資金はわずか1%にしか満たないことも明らかにしています。つまり、企業側のニーズに対して、テクノロジーの提供が十分に行き届いていないと考えることができるでしょう。

 コロナ禍を機にデスクレスワーカーのDXは加速していますが、Emergenceが2020年に発表した報告書では、パンデミックの影響でデスクレスワーカーの仕事量が増加したにもかかわらず、多くの労働者に新しいテクノロジーが提供されていないことを問題視しています。また、すでにテクノロジーが提供されているデスクレスワーカーの半数以上が、現状使っているソフトウェアやデバイスに対して「遅い」「非効率」「使いにくい」といった不満を抱えているようです。

多くのデスクレスワーカーが、職場選びで「テクノロジー」を重視

 そもそも、なぜデスクレスワーカーのDXが必要とされているのでしょうか。その背景にあるのが、デスクレスワーカーが抱えている数々の課題です。

 デスクレスワーカーが働いている業界は離職率が高く、たとえばスーパーマーケットやレストランでは毎年従業員の中から離職者が出ると言われています。日本ではあらゆる業界で人手不足が常態化していますが、有効求人倍率見てみると、特に飲食店や医療現場、運転手、建設・土木・測量、美容師といったデスクレスワーカーの職種で人手不足が進んでいることが分かります。

 離職率の高さや人手不足の要因として考えられるのが、労働環境に対する不満です。昨今、デスクレスワークにおいても生産性向上が叫ばれていますが、デスクワークの労働環境と比べてICT化やペーパーレス化が十分に進んでいないことが、業務効率化の障壁になっているケースがあります。

 また、コミュニケーション面の課題も生じています。たとえばデスクレスワーカーの多くが会社の個人メールアドレスを所有していません。現場で作業中もしくは移動中であることも多いため、管理者との情報共有や従業員同士のコミュニケーションが不足しがちになります。その結果、デスクレスワーカーは職場で孤独を感じる傾向にあり、会社への帰属意識もなかなか高まりません。

 こうした課題はデスクレスワーカー自身が強く認識しており、多くの人がテクノロジーの力で解決できると考えているようです。Emergenceがデスクレスワーカーに実施したアンケート調査では、テクノロジー活用によるメリットを得られる分野として「コミュニケーション」「オペレーション」「教育・トレーニング」「生産性」「職業訓練」「福利厚生」「企業文化」といった項目が挙げられています。そして、調査対象のデスクレスワーカーの3/4以上が、職場を選ぶ際にテクノロジーを利用できるかどうかを考慮していることもわかっています。

 このように、デスクレスワーカーが優れたテクノロジーを活用して、労働環境をより良くしたい、もっと効率的に働きたいと望んでいることは明らかであり、そのニーズに応えるソリューションが求められているのです。

新人研修の講義時間を1/10に!従業員同士のコミュニケーションも改善

 具体的にどのようなソリューションが考えられるのか、参考として国内の事例をいくつか紹介します。

 最初に紹介するのが、現場のDXを実現する「KAMINASHI」(カミナシ)です。カミナシは、人間がやる必要のないルーティンワークや無駄な作業を効率化するサービスです。現場の監督者に代わってアプリが正しい作業手順を徹底させたり、非効率な事務作業(手書き情報のデータ化・目視チェック・承認・Excelへの転記・集計・メールでの報告・検索)の自動化が行えます。レストランや食品工場、アパレル、ホテル、運輸・旅客、設備・建設・清掃といった現場で幅広く導入されており、たとえば製造メーカーでは、毎朝多大な時間を要していた紙の点検作業を電子化することで、1日あたり約75分の業務効率化を実現。この成功体験がきっかけとなって社内でデジタル化の機運が高まり、チャットツールの導入などスマートファクトリーの実現に向けた取り組みが加速しているようです。

 続いて紹介するのは、クラウド動画教育システム「tebiki」です。tebikiは、現場スタッフが手軽に動画マニュアルを作成できるサービスです。OJTの様子をスマートフォンで撮影すると、音声認識システムが字幕が自動生成されるほか、動画への図形挿入も簡単にできます。100カ国語以上の言語に対応しており、デスクレスワーク領域での活躍が期待される外国人スタッフの教育ニーズにも応えている点が特徴です。マニュアルはクラウドに保存されるため、閲覧状況や教育の進捗状況の確認、アクセス分析を生かしたマニュアル改善にも活用できます。tebikiを導入することで増加していた外国人労働者のスキルアップを実現し、新人研修の講義時間を1/10に削減できた食品メーカーの事例もあります。

 最後に紹介するのが、デスクレスワーカーをつなげるライブコミュニケーションプラットフォーム「Buddycom」です。デスクレスワークでは遠隔でコミュニケーションを取る際、トランシーバーやインカム、業務用無線機が使われるケースが多いのですが、通信エリアに制限があったり、無線機の場合は免許・申請、基地局設置が必要だったり、混信や盗聴のリスクがあったりと、さまざまな問題が生じていました。同サービスはスマートフォンやタブレットにインストールして使えるIP無線アプリで、遠隔での音声通話やグループ通話のみならず、音声のテキスト化、翻訳、映像の中継、暗号化通信、クラウド保存といった多彩な機能を備えています。ある小売店舗では、Buddycomを活用することでレジや包装の応援者を呼んだり、複数スタッフへの連絡や指示、確認を一度に行うようにしたことで、従業員の移動距離を50%削減したという事例もあります。

 私たちの生活や経済を支えているデスクレスワーカーの労働環境や業務効率を改善することは、社会的意義の大きな取り組みです。労働人口も大きく、開拓の余地がある市場としても大きな注目を集めています。今後どのようなサービスが社会を変えていくのか、新しいソリューションの登場にも期待したいと思います。

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