AIやビッグデータ活用も、進化し続けるデジタルサイネージ

　街中に人出が戻りつつある中で、盛り返しを見せているデジタルサイネージ市場。近年はIoTやAI、ビッグデータを活用した新たなソリューションも生まれています。本記事ではデジタルサイネージ市場の動向と近年の事例、今後の可能性を紹介します。

市場規模は回復傾向。2025年には2倍に伸長

　新型コロナウイルスの流行に伴う外出自粛の影響で、屋外や商業施設、交通機関などにおけるデジタルサイネージの需要が低下した結果、2020年のデジタルサイネージ広告市場規模は516億円、前年比68％まで減少しました。

　しかし、外出自粛が緩和された2021年はデジタルサイネージへのニーズも回復しつつあり、2021年の市場規模は594億円に伸長。従来の活用に加えて、美容院やスーパー、エレベーター、タクシーといった空間でデジタルサイネージを活用する機会が急激に増えているため、2025年には2021年と比較して約2倍の1083億円規模に到達すると予測されています。

　大手広告会社の電通が発表した「2021年日本の広告費」でも、屋外や主要駅での大型サイネージやタクシー広告、店舗でのデジタルサイネージの導入の需要が増加したことに言及しており、コロナ禍を経て息を吹き返しつつある広告市場の中でも注目を集めていることがうかがえます。

　近年はテクノロジーを活用したユニークなデジタルサイネージも続々登場しています。たとえばJR新宿駅東口にある4K相当対応の大型ビジョン「クロス新宿ビジョン」に掲載された巨大猫の3D動画は、国内外に拡散され大きな話題となりました。同じくJR新宿駅構内に設置された国内最長規模の横長ビジョン「新宿ウォール456」は、間接照明や16カ所の音響装置を駆使した一体感のある表現が特長で、ここに掲載される広告はたびたびSNSを中心に話題となっています。

ログデータから訪日観光客のニーズを把握

　ここからは、国内外のユニークなデジタルサイネージ活用事例を紹介します。

　動画配信のNETFLIXがフランスで実施した「GIFs」というキャンペーンでは、街中に100台以上のデジタルサイネージを設置し、その場所の状況に合わせた映画やテレビ番組のGIFアニメーションを流すというキャンペーンを実施しました。たとえば、雨が降るバス停では映画の登場人物が盾で雨を防ぐシーンを流したり、人が殺到するセール会場では同じく大衆が押し寄せる映画のワンシーンを流したりと、遊び心のある仕掛けで話題を呼びました。

　ドイツのビール会社Astraが、女性にもっとビールを飲んでもらうことを目的に制作したデジタルサイネージでは、サイネージのスクリーンに映る男性が、目の前を通る人の中から女性だけに声をかけてビールをおすすめします。サイネージ上部に小型のカメラが取り付けられており、通行人の顔をセンサーで認識。性別や年齢を自動で判別し、70以上の動画の中からシチュエーションに合わせた動画を流す仕組みになっています。このキャンペーンはメディアやSNSに大きく取り上げられ、女性ファンの増加に大きく貢献したそうです。

　国内の事例で注目したいのが、新宿ワシントンホテルのタッチパネル式デジタルサイネージです。同ホテルは訪日観光客の利用者が多いにもかかわらず、外国語を話せるスタッフ不足や外国語での案内の少なさが課題とされていました。そこで英語での情報提供を行うデジタルサイネージを導入し、さらにログデータから頻繁に利用されているコンテンツや時間帯ごとの変化を分析。コンテンツ改善や設置場所の工夫に生かし、サービス向上につなげています。

効果検証可能なデジタルサイネージに注目

　このようにプロモーションや顧客体験向上につなげる手段として有効なデジタルサイネージですが、導入時のコストや運用時の費用対効果がハードルになっているケースもあるようです。特に従来のデジタルサイネージは他のメディアと比べてリーチ数や視聴者の属性、その後の購買行動などのデータが取得しにくいことから、効果検証が難しいという課題がありました。

　しかし、近年はAI画像認識技術で個人を特定せずに性別や年齢、表情を推定する仕組みや、位置情報などのビッグデータと連動してリーチ数や属性データを推計する仕組みを活用したデジタルサイネージのソリューションも出ています。結果、インターネット広告のように、データを活かしたリアルタイムな広告配信やパーソナライズされた情報提供、さらにはデータをダッシュボード化してPDCAサイクルを回していくことも可能になりました。進化し続けるデジタルサイネージから、今後も目が離せません。