2021.02.19 (Fri)
他人には聞けないICTの“いま”(第44回)
離島や薬局で導入・実証進む、オンライン診療のいま
2020年4月、新型コロナウイルス感染症対策の限定的な措置として、オンライン診療が初診を含め、全面的に解禁となりました。日本政府は現在、オンライン診療を一時的な措置ではなく、恒久化していく検討を進めています。また、オンライン診療が全面解禁されたことでLINEがオンライン診療サービスを開始したり、大手調剤薬局によるオンライン服薬指導・配送サービスが導入されるといった取り組みが進行しています。ここでは、オンライン診療を取り巻く最新の動向を紹介します。
月間利用者8,600万人のLINEがオンライン診療サービスに参入
パソコンやスマートフォン、タブレット端末で予約から診療、支払いまでを完結できるオンライン診療。2020年9月には田村憲久厚生労働大臣が、初診を含めたオンライン診療の恒久化を検討していくとして、実現を見通した問題点の洗い出しを示唆しました。日本政府の動向に伴い、活発化しつつある民間企業の取り組みを見ていきましょう。
LINEとエムスリーの合併会社であるLINEヘルスケアは、2020年12月から首都圏の一部で「LINEドクター」の先行提供を開始。LINEユーザーであれば専用のアプリをインストールする必要なく、医療機関の検索と予約、ビデオ通話での診療、決済ができるようになりました。医師が発行した処方箋は、自宅への郵送か、指定した薬局へFAXのいずれかが選択可能。決済はLINE Payまたはクレジットカードに対応しています。月間利用者8,600万人(2020年10月時点)のLINEがオンライン診療サービスを始めたことで、認知や利用が一気に広がる可能性があります。
調剤薬局大手のココカラファイン、クオールホールディングスなどは、全国計5,000店超でオンライン服薬指導システムの導入を決定しました。導入するのは、医療系のアプリやデータソリューション事業を展開するMICINが開発した「curonお薬サポート」。このシステムでは、4,500個所の医療機関と連携している同社のオンライン診療サービス「curon」ユーザーに加え、電話診療や他社が提供するオンライン診療の受診者にも対応できるのが大きなポイントです。
利用者は服薬指導日時の予約後、オンラインで指導を受ければ、後日調剤された薬が配送されます。決済はクレジットカードに対応。患者側が気軽に利用しやすいこと、予約から決済、薬の配送までをシステム内で完結できることで、薬局側の事務作業負担が軽減されることもメリットです。
社会課題の解決を見込み、与那国島で実証実験開始
コロナ禍以前にも、オンライン診療は社会課題を解決するための手段として利用が期待されていました。近年では医師不足が深刻な離島で、解決法の一つとして実証実験が進んでいます。
島民約1,700人に対して医師が1人しかいない沖縄県与那国町では、2020年12月から沖縄セルラー電話と、クラウド診療支援システム「CLINICS (クリニクス)」を開発・展開するメドレーの協力のもと、全島民を対象にした実証実験をスタートしました。沖縄セルラー電話がオンライン診療の利用や緊急時に使えるタブレット端末を手配し、メドレーが診療に関わる各種サポートを担当することで、「CLINICS」を活用した受診体制・環境を構築しています。
島唯一の医師が新型コロナウイルスに感染した場合、島民に対して必要な医療を提供できなくなるほか、患者にとっても一つしかない医療機関の待合室での待機は、感染リスクを高めます。高齢者がアプリをうまく使えるかなどを検証した上で、同町での本格導入や沖縄県のほかの離島での利用につなげる考えです。
コロナ禍で需要が増加、5割超の男女が「関心ある」
2020年6月にデロイト トーマツ グループが実施したオンライン診療の活用状況に対するウェブ調査では、オンライン診療を「知っている」と答えた人は全体の43.9%に上るものの、「利用したことがある」と答えた人はわずか1.9%にとどまりました。しかし、同年10~11月に行われたMMD研究所による調査では、オンライン診療を「利用していた」「現在利用している」と答えた人は18%。「関心がある」と答えた人は52.6%に上り、コロナ禍でのオンライン診療需要が高まっている様子がうかがえます。
今後は、具体的な検証作業を通した安全性と有効性の確認プロセスと合わせて、ニーズの高まりに応える、より受診しやすいシステムの開発が待たれます。
連載記事一覧
- 第2回 ばらまき型メールによるウイルス感染に注意 2016.02.01 (Mon)
- 第4回 どこが変わったの? いまどきの無線LAN事情(前編) 2016.02.19 (Fri)
- 第5回 どこが変わったの? いまどきの無線LAN事情(後編) 2016.02.29 (Mon)
- 第8回 FAX複合機に注意!内部データが丸見えに!? 2016.04.08 (Fri)
- 第10回 デジタルサイネージで“おもてなし”(前編) 2016.05.23 (Mon)
- 第11回 デジタルサイネージで“おもてなし”(後編) 2016.05.30 (Mon)
- 第12回 東大職員も騙された!心理の隙を突いたサイバー攻撃 2016.06.03 (Fri)
- 第13回 起きる前に芽を摘む!内部不正とヒューマンエラー 2016.06.17 (Fri)
- 第14回 せっかく育成したセキュリティ担当が、転職!? 2016.07.15 (Fri)
- 第15回 すぐにしないと命取り!?事例で見るセキュリティ対策 2016.07.15 (Fri)
- 第20回 社内に溜まった紙資料の問題を「電子化」で解決! 2016.10.21 (Fri)
- 第22回 面倒なマニュアル作成もクラウドで解決!? 2016.10.28 (Fri)
- 第23回 クラウド化のメリットはコスト削減だけではない! 2016.11.29 (Tue)
- 第24回 夜間の回線トラブルがもたらし得る大きな損害 2016.12.02 (Fri)
- 第25回 データとIT資産の管理はアウトソーシングすべし 2017.03.06 (Mon)
- 第26回 会話するロボットを自社スタッフとして活用する方法 2017.03.28 (Tue)
- 第27回 システム管理者も“クラウドに置く”時代!? 2017.04.28 (Fri)
- 第28回 社内から「繋がらない」の声をなくす、VPNを検討してみる 2017.05.12 (Fri)
- 第29回 ランサムウェアの脅威に備える最適な方法とは? 2017.05.25 (Thu)
- 第30回 社内にネットワーク管理者は不要の時代!? 2017.05.26 (Fri)
- 第31回 VPNってなに?今さら聞けないVPNはじめの一歩 2018.02.22 (Thu)
- 第32回 拠点間同士を結ぶネットワーク、今はVPNがトレンド 2018.02.23 (Fri)
- 第33回 ネットワーク監視も24時間サービスが最適な理由 2018.02.28 (Wed)
- 第34回 セキュリティ人材の争奪戦勃発!企業は何をすべき? 2018.03.22 (Thu)
- 第35回 今からでもまだ間に合う! ICT管理者探しはお早めに! 2018.03.28 (Wed)
- 第36回 押し寄せるデータの波は、NASでは乗りこなせない! 2018.03.30 (Fri)
- 第37回 専門知識は必要なし!今どきのホームページ制作事情 2019.01.10 (Thu)
- 第39回 初診の「オンライン診療」解禁、対応病院は1万件に 2020.06.12 (Fri)
- 第40回 コロナでも急成長、「サブスク」で継続利益を確保する 2020.08.05 (Wed)
- 第41回 知らないと損!新たな顧客体験「OMO」で売上UP 2020.12.23 (Wed)
- 第42回 こんなAI/IoTの導入は失敗する!重要なのは顧客視点 2020.12.23 (Wed)
- 第43回 売れないスルメにも意味がある!チャンス発見学とは 2020.12.23 (Wed)
- 第44回 離島や薬局で導入・実証進む、オンライン診療のいま 2021.02.19 (Fri)
- 第45回 ビジネスチャット。安全・手軽なコミュニケーション 2021.04.30 (Fri)
- 第46回 並ばず買い物OK、コロナ禍で需要伸びる無人店舗 2021.06.03 (Thu)
- 第47回 地方創生のカギ、どこでも受講できる「ネット大学」 2021.06.03 (Thu)
- 第48回 薬局DXのいま、ロボット活用やドローン配送なども 2021.06.15 (Tue)
- 第49回 建設業の人件費を約4割削減も、進むi-Construction 2021.06.15 (Tue)
- 第50回 「言葉の壁はなくなる?」NICT隅田氏に聞く 2021.07.01 (Thu)
- 第51回 全労働人口の8割を占める、デスクレスワーカーのDX改革 2022.11.15 (Tue)
- 第52回 高齢者のデジタルデバイド問題に立ち向かう自治体・企業のいま 2022.11.15 (Tue)
- 第53回 AIやビッグデータ活用も、進化し続けるデジタルサイネージ2022.12.21 (Wed)
- 第54回 コスト削減やデータ活用に期待、電子レシートの可能性2022.12.21 (Wed)
- 第55回 「お絵描きAI」のビジネス活用の可能性と課題とは2022.12.21 (Wed)
- 第56回 AI採点や新スポーツも、スポーツテックとは何か 2022.12.21 (Wed)
- 第59回 「ベビーテック」は少子化対策の切り札になるか?2023.03.06 (Mon)
- 第60回 研究現場もDX!ラボラトリーオートメーションとは2023.04.28 (Fri)
- 第61回 人生100年時代のファイナンシャル・インクルージョン2023.05.16 (Tue)
- 第62回 その通信機器、実は違法かも!?「技適マーク」の重要性2024.01.17 (Wed)
- 第57回 Z世代の心をつかむ「メタバース採用」とは2023.01.30 (Mon)
- 第58回 医療・健康ビッグデータ「PHR」はビジネスチャンスとなり得るか2023.01.30 (Mon)