2024.07.11 (Thu)
他人には聞けないICTの“いま”(第63回)
スポーツ観戦は、データと一緒に見ればもっと楽しい
「DX」といえば、デジタル技術を活用し、企業や社会の成長につなげる取り組みのことですが、最近はスポーツ観戦をより楽しむために、デジタル技術を活用する「スポーツDX」が進みつつあります。デジタル化が進んだスポーツ観戦は、従来の観戦とは何が違うのでしょうか?
スポーツ観戦が、日本人の幸福につながる!?
2024年は、スポーツの話題に事欠かない年です。6月~7月中旬には、ドイツにてサッカーの欧州選手権「ユーロ2024」が開催されましたが、7月末からはパリ五輪がすぐに開幕します。さらに五輪終了後の9月には、2026年サッカーW杯のアジア最終予選がスタート。10月にはバスケットボール・Bリーグの新シーズン、プロ野球のクライマックスシリーズが始まります。
すでにこれらの大会や試合の観戦計画を立てている人もいるかもしれませんが、実は日本政府では、こうしたスポーツ観戦を「DX化」する動きが進みつつあります。
スポーツ庁は2023年より、「スポーツ界におけるDXの推進」を掲げており、スポーツDXによって、さまざまなスポーツの知見や機会を国民・社会に広く提供する方針を打ち出しています。
このスポーツDXの背景にあるのが、2016年に補足した「スポーツ未来開拓会議」の存在です。同会議では、スポーツ産業の成長・産業化のため、スポーツ市場の規模を、2012年の5.5兆円から、2025年までに15兆円に拡大することを目指しています。スポーツDXによってスポーツの魅力がアップし、スポーツ市場も拡大することで、国民のスポーツ実施率が高まり、国民のWell-being(幸福)も向上していく……という好循環が、同会議が目指す最終的な狙いとなります。
スポーツ観戦はネット視聴が当たり前。アメリカでは“直営”の配信も
このようにスポーツDXは国を挙げた取り組みが進みつつありますが、具体的にスポーツ観戦におけるDXとは、いったいどのようなものを指すのでしょうか?経済産業省とスポーツ庁が2022年12月に発表した「スポーツDXレポート」という資料によると、ネット配信によるスポーツ観戦も該当するようです。
ひと昔前までは、スポーツ観戦といえば地上波のテレビ放送が一般的でしたが、最近ではDAZNやNetflix、AbemaTVなど、スポーツ中継のインターネット配信も当たり前になりつつあります。
特に、サッカーやバスケットボールや野球などの一部のプロリーグでは、放映権の販売や映像制作を、リーグが一元的に実施する体制が構築されています。たとえばサッカー・Jリーグ、およびバスケットボール・Bリーグでは、リーグが一元的に放送権を管理・販売しています。
プロ野球の場合、基本的には各球団が放映権を管理するものの、パ・リーグのインターネット配信については、パ・リーグマーケティング社が運営する「パ・リーグTV」にて配信されています。近年では、パ・リーグTVのようにスポーツ組織自らがプラットフォームを運営する事例も増えており、アメリカのNBA(バスケ)、NFL(アメフト)、MLB(野球)は、すべてこの直営スタイルで放送されています。
チームや選手も使う「スタッツデータ」でより深い観戦が可能に
スポーツ観戦におけるDX化の別の例としては、「データ活用」も存在します。ここでいうデータとは、試合に関するデータや、専用の機器を用いて取得した、プレーに関する詳細なデータを意味する「スタッツデータ」のことです。
スタッツデータは、もともとはチームや選手の強化として活用されていたものですが、より深くスポーツを楽しむため、ファン向けに公開されるスタッツデータも存在します。
たとえばMLBでは、ソニーのグループ会社であるHawk-Eye Innovationsが提供するプレー分析サービスを、2020年から全球場で導入しています。このサービスは、各球場に設置された高解像度ハイフレームレートカメラが球場を撮影し、その映像から得られたデータをリアルタイムで解析します。
解析されたデータは、競技における審判判定の補助や、チームが試合展開を確認するために用いられるほか、MLB公式サイトの「スタットキャスト」というデータ解析サイトでも公開され、一般視聴者も閲覧できます。大谷翔平選手はどの方向にホームランを打つ傾向にあるのか、走者としてのスピードはどれほどの能力を持っているのか……といったような、より深い観戦が可能になります。
一般市民の参加が可能なスポーツ大会においても、観戦を楽しむためのデータが活用されています。
2023年に横浜で行われた「2023ワールドトライアスロン・パラトライアスロンシリーズ横浜大会」では、NTT東日本が提供する、選手の正確な位置を専用サイトでリアルタイムに表示する「GPSトラッキングデバイス」が採用されました。これにより、選手の位置情報を画面上でトラッキング(追跡)しながら観戦することが可能になりました。
デジタルで取得したスタッツデータは誰のモノ?
このように、スポーツ観戦におけるDX化は徐々に進みつつありますが、一方で、やみくもにデジタル化を進めると、思わぬ別のトラブルを招く恐れもあります。
その1つが、スポーツデータの権利の問題です。たとえば試合中に取得したスタッツデータを、選手やチーム、主催スポーツ団体に無許可で第三者に販売することは、彼らの権利を侵害するる恐れも考えられます。第二期スポーツ未来開拓会議の資料でも、スポーツにおけるデータは、その権利性が明らかになっていないとされており、その扱いには慎重さが求められます。
スポーツDXが進み、ネットで観戦することや、さまざまなデータとともに観戦することが当たり前になれば、国民のスポーツに対する興味・関心も高まり、スポーツ人口も増え、我々の暮らしの質も高まることが期待できます。
まもなくパリ五輪が開幕します。日本人選手が活躍し、普段スポーツを見ない人も観戦する機会が増えるでしょう。それは回りまわって、我々日本人の健康や暮らしの豊かさにつながるかもしれません。
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