2021.06.03 (Thu)

他人には聞けないICTの“いま”(第46回)

並ばず買い物OK、コロナ禍で需要伸びる無人店舗

 日常の買い物中もフィジカルディスタンスやタッチレスが推奨される昨今、小売業各社で無人店舗への取り組みが進んでいます。2020年3月には、JR高輪ゲートウェイ駅に無人のAI決済店舗「TOUCH TO GO」がオープンし、大きな話題になりました。その後、高級スーパーマーケットやコンビニエンスストアも無人店舗を次々と開業しています。コロナ禍を生き抜く新業態としても注目されている無人店舗、相次ぐ導入の背景とともに各社の事例を紹介します。

無人店舗導入が進む背景は、人手不足と非接触ニーズの増加

 小売店舗の無人化が進む背景には、少子化により年々深刻になっている、労働者不足の問題がまずあります。帝国データバンクが2021年1月に実施した「人手不足に対する企業の動向調査」によると、非正社員の人手が不足している企業は、業種別で見ると「各種商品小売業」が52.0%でトップ。また、店内ではフィジカルディスタンスの確保や、キャッシュレス、タッチレス決済が求められています。小売店は、単に従業員を増やせばよいということでもない、複雑な状況への対応を迫られているのです。

 こうした中で、キャッシュレス、タッチレス決済の市場も伸長しています。一般社団法人キャッシュレス推進協議会が2020年6月に発表した活動報告によると、バーコードの読み取りを店員が行い、決済は客自身が行うセミセルフレジは、2019年末時点でコンビニエンスストアやスーパーマーケットなど3,284店舗が導入。2017年の1,455店舗から、わずか2年で2.25倍に増え、急速に普及しています。バーコード読み取りまですべて客が行うフルセルフレジも徐々に増え始め、システムが進化すると共に、店員の手を介さず買い物することへの抵抗感も薄れてきています。

 「客への新たな体験を提供する場」としての無人店舗にも注目が集まっています。ほとんどの無人店舗では、棚から商品を手に取るだけで精算機に自動認識されます。決済の時間が大幅に短縮されるため、列もほぼできません。「買うものを決めたら、レジはなるべく早く終わらせたい」というニーズを満たしつつ、ストレスレスな購買体験が生まれるのです。

高級スーパーや書店も参入、無人店舗の代表事例

 では、実際にどのような無人店舗が登場しているのでしょうか。最近の代表的な事例を見ていきましょう。

 まずは、スーパーマーケットが無人店舗の運用を手掛けた事例です。2020年10月、株式会社紀ノ国屋は無人決済型の小型スーパーマーケット「Sutto(スット)」をJR目白駅にオープンしました。店内には約30台のカメラがあり、客が商品を手に取ると、商品棚の重量センサーと合わせて、どの商品が選ばれたのかを判断します。商品はそのまま自分のかばんに入れてOK。商品を持ったまま精算機の前に立つと購入商品が表示され、交通系ICカードかクレジットカードで決済できる仕組みです。紀ノ国屋は効果や課題の検証を経て、手早く買い物を終わらせたい客層が多く見込まれる駅前店舗や、人手の確保が難しいエリアへの導入をめざしています。

 客の動向に合わせた決済システムを採用し、早期の利用拡大を狙っているのが、2021年3月末にオープンした「ファミマ!!サピアタワー/S(サテライト)店」 です。店内のカメラ、センサーによって客が手にした商品を認識し、タッチパネル式の精算機で決済する流れは他の無人店舗と同様。しかし、同店が異なるのは現金に対応している点です。今ある無人店舗のほとんどが電子マネー決済のみですが、株式会社ファミリーマートの細見研介社長は、実用を見越したとき「7~8割を占める現金決済のお客様への対応はマスト」と明言。協業する株式会社TOUCH TO GOは、2024年までに同様の店舗を全国100カ所に拡大することをめざしています。

 コロナ禍での利用を明確に意識した無人店舗も登場しています。2021年4月にオープンした「DIME LOUNGE STORE」 は、ビジネスパーソン向け雑誌「DIME」の編集部と丸善ジュンク堂書店、セキュリティシステムの開発を手掛ける株式会社セキュアが共同で運営。高度な顔認識機能を持つカメラを導入し、客は初入店時に入口の認証機で顔情報を登録すれば、以降はマスクを付けたままでも顔認証されます。密状態を避けるため、店内は5人以上入れないよう管理。サーマルカメラで37.5度以上の熱が検知された場合は、入店が制限されます。商品の購入時もマスクをしたまま顔認証できるシステムで決済でき、コロナへの対応策が随所に取り入れられています。

カメラ、センサーデータの活用で、客の購買行動を詳細分析できる利点も

 無人店舗のこうした仕組みは、タッチレスで迅速に買い物できる客側の利点のほかに、客の購買行動を計測、分析できるメリットがあります。大量のカメラやセンサーによって購入商品を認識する無人店舗では、そのデータで、客が商品を手に取るまでにどのくらい棚の前にいたか(悩んだか)や、他のどんな商品と見比べていたかなど、従来店舗では把握が難しかった動きを知ることができます。ECサイトで商品を買うまでにどのページを見て、何をカートに入れ、結果的に買ったのか(買わなかったのか)などと同じような情報を、実店舗において計測できるのです。

 最近では、食材が古くなると自動的に値段を下げて表示する電子値札や、店舗に設置して来店者のちょっとしたFAQに対応する「おもてなしロボット」など、無人店舗をサポートするソリューションも次々登場。さらなる追い風になることが見込まれます。長引くコロナ禍で、無人店舗は今後小売業界にとって欠かせない業態になっていくのではないでしょうか。

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