2022.12.21 (Wed)
他人には聞けないICTの“いま”(第54回)
コスト削減やデータ活用に期待、電子レシートの可能性
紙のレシートをデジタル化する「電子レシート」は、DX化やサステナビリティを推進する取り組みのひとつとして注目を集めています。ここでは、国内外の動向やメリットについて事例を交えながら紹介します。
アメリカでは大手小売企業で電子レシートの提供がすでに定着
レジの会計時にレシートの受け取りを断った経験がある人は多いのではないでしょうか。その理由はおそらく、保管の手間や店員とのやりとりの煩わしさにあると思います。しかし、レシートには購入を証明する役割があり、レシートがないと返品やアフターサービスを断られることもあるため、やむを得ずレシートを保管している人もいるでしょう。
こうした顧客利便性の観点に加えて、紙のレシートは資源を大量に消費することから、サステナビリティの文脈でもレシートのペーパーレス化=電子レシートに注目が集まっています。
アメリカの環境団体Green Americaのレポートによると、アメリカ国内で1年間に発行されるレシートは368万本の木と100億ガロンの水を消費し、生産と廃棄によって47万台以上の自動車に相当するCO2排出量を生み出しているそうです。そして、調査対象者の約半数が電子レシートを利用できる店舗ではすでに電子レシートを使用し、86%が電子レシートの提供を望んでいるといいます。
なお、同団体は2017年から紙のレシート削減を促すキャンペーン「Skip the Slip」を展開し、大手ドラッグストアチェーンのCVS/pharmacyが電子レシート化を推進するきっかけをつくりました。結果、730万人の顧客が電子レシートのオプションを選択し、2020年には地球2周分に相当する9000万ヤードのレシート用紙が節約されたと報告しています。
ほかにも、メールで電子レシートを発行するサービスがすでに日本でも定着しているAppleをはじめ、Whole Foods Market、Gap、Patagonia、Sears、Kmartといった大手小売企業で電子レシートの活用が浸透しています。
経済産業省主導で実証実験を行い、電子レシートを導入する企業も増加
国内では経済産業省が推進する「IoT等を活用したサプライチェーンのスマート化」の取り組みのひとつとして、電子レシートの標準仕様書の整備や実証実験が進められてきました。2018年には経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、東芝テック、さらにNTTデータCSSなど数十社の協力企業による「電子レシートの標準データフォーマットおよびAPIに対応した電子レシートプラットフォームの実証実験」が実施され、東京都町田市内の業態が異なる複数の小売店舗で電子レシートの有用性が検証されました。
こうした実証実験にとどまらず、すでにサービスとして提供されているケースもあります。スマートフォンアプリでレシートの管理や会員限定クーポンを利用できる東芝テックの「スマートレシート」、電子レシートを販促支援ツールとしても活用できるログノートの「iReceipt」といったプラットフォームサービスのほか、会員カード集約アプリ「みせめぐ」が電子レシート発行サービスを開始したり、カルチュア・コンビニエンス・クラブのTカードがスマートレシートと連携して電子レシートサービス「T-RECEIPT」を提供するなど、コンビニやスーパー、アパレルなど各社で電子レシートを導入しはじめているのです。
コスト削減、顧客利便性の向上、データ活用といったメリットも
最後に経済産業省の資料を参考に、企業が電子レシートを導入するメリットを紹介します。
はじめに挙げるのは、コスト削減です。レシートに使われるロール紙の費用を削減できるだけでなく、5万円以上の領収書を発行する場合にかかる印紙税も不要なので、大きなコスト削減が期待できます。
続いて、顧客利便性の向上です。電子レシートを提供することで顧客は財布にレシートが溜まっていく煩わしさから解放され、返品やアフターサービスを受けるために保管しておく必要がある場合も、紛失や誤って廃棄してしまう心配がありません。
もうひとつのメリットが、データ活用です。電子レシートサービスを提供することで顧客に紐づいた購買データを取得できるため、ユーザーの同意のもとデータを有効活用することで、一人ひとりのニーズに合わせた情報やサービスの提供、新しい価値の創出につながる発見が得られるかもしれません。
こうしたメリットがある一方で、現状の課題についても把握しておく必要があります。たとえば、電子レシートが購買証明になることから、画面をスクリーンショットして表示するなど、購買証明を偽造して悪用されるリスクが考えられます。この点に関しては経済産業省も電子レシートの情報と連携するデータの整備や標準化により、不正の抑止効果を高めるなどの対策を検討しているとのことなので、今後の動向に期待したいところです。
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