2022.11.15 (Tue)

他人には聞けないICTの“いま”(第52回)

高齢者のデジタルデバイド問題に立ち向かう自治体・企業のいま

 総務省統計局の資料によると、日本の人口のうち65歳以上の高齢者は2021年9月時点で3,640万人、総人口に占める割合は29.1%と過去最高となり、今後も増加が見込まれています。このような背景の中で、高齢者のデジタルデバイド(情報通信技術の恩恵を受けられる人と受けられない人との間に生じる知識・機会・貧富などの格差)に注目が集まっています。今回は、高齢者のデジタル利用の実態やデジタルデバイド解消の取り組みなどを紹介します。

生活に必要ない、使い方がわからない...深刻化する高齢者のデジタルデバイド問題

 総務省の令和3年通信利用動向調査によると、インターネットの利用状況について13~59歳は95%以上が利用しているのに対し、60歳代は84.4%、70歳代は59.4%に留まっています。70歳代はスマートフォン利用が40.8%、パソコンが28.2%となっており、70歳代以降になるとインターネットに接続可能なデジタルデバイスの利用率が急激に落ちることがわかります。内閣府の調査によると、70歳以上の方がスマートフォンやタブレットを利用しない理由として「自分の生活に必要ないと思っているから」(52.3%)、「どのように使えばよいかわからないから」(42.3%)が挙げられています。

 しかし、高齢者は本当にデジタル利用をしなくてもよいのでしょうか。日本は行政手続きのオンライン化を進めており、高齢者にとっても役所まで行かずに手続きができることはメリットが大きいはずです。また、災害時に緊急性の高い情報がインターネットで発信されることもあり、その際はデジタルデバイスが命綱になります。

 高齢者のデジタルデバイド問題は、自治体や企業にも大きな影響を与えます。デジタルデバイスの操作やICTに関する知識が浅いと、コンビニ交付のような行政サービスが利用できず、自治体の対応負荷は軽減されません。企業においてはインターネットやSNSを通して、高齢者に向けた商品やサービスの訴求や販売が円滑にできない可能性も考えられます。

 2025年には、すべての団塊世代が75歳以上の後期高齢者になります。厚生労働省の見通しでは、2025年の高齢者人口の割合は、65歳以上が30.3%(3657万人)、75歳以上が18.1%(2179万人)となっています。高齢者のデジタルリテラシー向上は急務と言えるでしょう。

官民が連携して高齢者のデジタルリテラシー向上をめざす

 高齢者のデジタル活用を支援するために、総務省は、2021年6月から全国約1,800カ所で計9万回の講習会を計画しています。その内容は、ICT企業や携帯電話会社などと連携して、高齢者にデジタルを利用した行政手続きやスマートフォンアプリのインストール方法、地図アプリやキャッシュレス決裁アプリの使い方などをレクチャーするというものです。2022年度以降は、講習会場を約5,000カ所に増やし、2021年からの5年間で計1,000万人の参加をめざしています。

 国の方針を受けて、各自治体もさまざまな取り組みを進めています。たとえば、石川県加賀市は全国でもデジタル化が進んでいる自治体のひとつです。高齢者に向けて、マイナンバーカード対応スマートフォンの購入助成を行うほか、「スマホ教室」を毎週開催し、スマートフォンの使い方について相談所も開設。高齢者に使い方などをレクチャーする加賀市シニアスマホアンバサダーを募集して、市民同士で教える仕組みを構築しています。

 自治体と企業が連携してデジタルデバイド解消に向けた取り組みも進んでいます。群馬県長野原町とNTTドコモは、スマートフォンを持っていない世帯に対してスマホを貸与し、操作に不安を抱える住民向けに「ドコモスマホ教室」を開催。地域全体のデジタルデバイド解消に取り組んでいます。また東京都渋谷区はKDDIと連携して、高齢者に無償でスマートフォンを貸し出す実証事業を2021年からスタート。同時に勉強会などのサポートも行っています。

 ほかにも、カメラのキタムラとクラブツーリズムが連携して、旅を楽しみながらスマートフォンの操作を学べる「スマホ体験ツアー」を実施。基本的な使い方、地図アプリの操作の仕方、写真の撮り方、音声検索などをスタッフがていねいに説明し、大きな反響があったとのことです。

 今後も官民が連携して、高齢者のデジタルデバイド解消をめざす取り組みの実施が期待されます。

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