2024.09.24 (Tue)
社員のモチベーションを高めるヒント(第34回)
顧客からの過剰なクレーム「カスハラ」に有効な対策とは
顧客が企業に対し、過剰な要求や嫌がらせを行う「カスハラ」について、多くの企業が方針を打ち出しています。企業はカスハラにどのように向き合うべきなのでしょうか。
カスハラを受けた従業員は「離職したい」と考えるようになる
「カスハラ」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。カスハラとは「カスタマーハラスメント」の略語で、顧客からの過剰で悪質なクレームや言動を指す言葉です。
厚生労働省ではカスハラの定義について、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」としています。たとえば暴行や脅迫、暴言や不当な要求も、カスハラに含まれます。
2024年、パーソル総合研究所が顧客折衝のあるサービス職で働く男女に対して実施した「カスタマーハラスメントに関する定量調査」というアンケートによると、「過去にカスハラを被害を経験した」と回答したのは、全体の35.5%でした。
カスタマーハラスメント被害の経験率
(パーソル総合研究所「カスタマーハラスメントに関する定量調査」より引用)
具体的なカスハラの被害内容としては「暴言や脅迫的な発言(60.5%)」が最も高く、2位が「威嚇的・乱暴な態度(57.7%)」でした。3位は「何度も電話やメールを繰り返す」でしたが、経験ありと回答した人の割合は17.2%と、1位・2位とは大きく差が開きました。被害者は男女ともに若手が多かったものの、加害者は圧倒的に男性が多く、特に高齢になるほど数値は高くなる傾向が見られます。
さらに、カスハラの被害を受けた従業員は、「離職したい」と考える傾向が強く見られるといいます。1年以内のカスハラ被害あり層と被害なし層を比較した場合、被害あり層は「他の会社に転職したい」「今の会社を辞めたい」「今の職業を変えたい」などの転職意向が1.8~1.9倍高く、年間の離職率平均も1.3倍高かったといいます。
カスタマーハラスメント被害者の転職意向と離職率
(パーソル総合研究所「カスタマーハラスメントに関する定量調査」より引用)
つまり、企業としてカスハラを無視したり放置すると、従業員がどんどん職場を離れるようになり、その度に人材を確保しなければいけない事態に追い込まれる恐れがあります。少子高齢化にて人材の確保が難しい中、カスハラが横行する職場で人材を確保するというのは至難の業です。従業員にカスハラの我慢を強いるのではなく、企業全体でカスハラへの対策を講じ、従業員が安心して働ける職場を作るべきでしょう。
カスハラを受けた場合、ひとりで対応すべきではない
それでは、企業は具体的にどのようなカスハラ対策に取り組めば良いのでしょうか?
厚生労働省が2022年に公開した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」という資料では、対策の第一歩として、企業のトップがカスハラ対策への取り組みを明言し、自ら発信することが重要としています。加えて、カスハラの相談対応体制も整備し、トラブルがあった際はすぐに現場に駆け付けられるよう、相談対応車も設定すべきとしています。
さらに、カスハラを受けた際に適切な対応ができるよう、あらかじめ対応例を準備しておくと良いとしています。
たとえば顧客が居座るような「時間拘束型」のカスハラについては、毅然とした態度で退去を求めること、大きな怒鳴り声をあげるような「暴言型」に対しては、周囲の迷惑となることから止めるように求め、人格を否定するような発言があった場合は、後で事実確認ができるよう、発言を録音したり、程度がひどい場合には、相手に対し退去を求めても良いとしています。
もし現場のスタッフが、顧客から前述のようなカスハラ行為を受けた場合は、すぐに現場相談者に相談し、1人では対応しないことが重要としています。監督管理者が顧客対応を代わり、顧客から従業員を引き離したり、状況によっては弁護士や警察と連携を取り、本人の安全を確保するといった対応も必要といいます。
大手企業がカスハラへの方針を発表。東京都も“全国初”の条例を準備中
すでにこうしたカスハラ対策を講じている企業も存在します。
2022年10月には、ゲームメーカーの任天堂が、同社製品の修理サービス規程/保証規程に、カスハラへの規定を盛り込んだことが話題を呼びました。規定ではカスハラ行為があったと同社が判断した場合は、修理対応を断ることや、悪質なカスハラについては警察や弁護士が対処をすることが明記されています。
JR東日本では、2024年4月に「カスタマーハラスメントに対する方針」を公開しました。カスハラ行為について、安全で質の高いサービスの提供を担うJR東日本グループの従業員社員の尊厳を傷つけ、安全で働きやすい職場環境の悪化を招くものとし、カスハラが行われた場合は当該顧客への対応を断る旨を発表しました。
東京都では現在、全国で初となるカスハラ防止のための条例の制定を目指しています。同条例の案となる資料では、「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない」といったカスハラを完全に否定する内容のほか、「顧客等の権利を不当に侵害しないように留意する」といったような、顧客側が正当なクレームを主張する権利を保障するような規定も記載されています。
さらに事業者側に対しては、カスハラを受けた就業者に対する配慮や、カスハラ防止のためのマニュアル作成を講じることや、就業者がそのマニュアルを遵守するよう努力するといった規定も盛り込まれる予定です。
顧客の声を採り入れ、サービスを改善していくことは、企業がビジネスを発展させていくためには欠かせない要素のひとつです。しかし、暴力や脅迫といったような、法律で禁止されているような行為まで、企業が受け入れる必要はありません。
先に紹介した任天堂やJR東日本のように、「自社ではここからカスハラと認識します」というラインをあらかじめ顧客に提示しておけば、顧客側はたとえ気に食わないことがあったとしても、節度を持って店側に申し立てをするようになり、カスハラの発生を未然に防ぐことが期待できます。
まだカスハラに関する方針を明らかにしていない企業も多いかもしれませんが、従業員を守るためにも、顧客との無用な争いを防ぐためにも、早めに準備をしておいた方が良いでしょう。
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