2025.01.30 (Thu)
社員のモチベーションを高めるヒント(第36回)
新規事業の創出には、アントレプレナーではなく「イントレプレナー」が重要

日本経済の競争力を向上させるため、起業家人材「アントレプレナー」の輩出を促す国策が推進されています。その一方で、企業内で新規事業を創出する社内起業家「イントレプレナー」という人材も登場しています。イントレプレナーが企業にもたらすメリットとは何なのでしょうか?
社内の起業家「イントレプレナー」が企業にもたらすものとは
日本政府は「新しい資本主義」と呼ばれる経済成長の施策の一つとして、2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。この計画では、スタートアップの創業数と規模拡大のために、2027年度に10兆円規模の投資額とすること、将来的にはユニコーン企業を100社、スタートアップ企業を10万社創出することを目標に掲げています。
この計画の中では、起業に挑戦する人材「アントレプレナー」の強化も言及されています。具体的には、アメリカ国内の大学における日本向け起業家育成プログラムの創設や高等専門学校における起業家教育の実施などを行っていくとしています。
国がスタートアップやアントレプレナーを支援している中、企業内で新規事業を創出する社内起業家「イントレプレナー」という人材も登場しています。
イントレプレナーとは、企業に属しながら、企業内の資源をベースに新規事業を起こす人材のことをいいます。イントレプレナーはアントレプレナーと違い、企業の資源を使って事業を行う以上、事業構想や意思決定は企業の意向に従います。一方で、事業立ち上げ段階から、企業の顧客基盤や資金力、組織力が活用できるため、アントレプレナーよりも効率的に新規事業を推進できます。
イントレプレナーが企業内で活躍することは、企業にとってもメリットがあります。経済産業省が公表している「イノベーション創出を目指した事業会社からの事業切出し手法及び大学発ベンチャーの実態等に関する調査」では、そのメリットについて「自社では育てにくい技術を事業化できる」、「社員の起業家精神を醸成できる」、「自社事業の拡充につなげられる」といったメリットが記載されています。
イントレプレナー人材を社内で育てるにはどうすれば良いのか
企業の成長に寄与するイントレプレナーは、どのように社内で育てることができるのでしょうか? 上述の経産省の資料では、イントレプレナーの活躍を支援するための要素として以下が紹介されています。
まずは、事業化を支援する社内体制の構築です。新規事業開発や知財部門など、複数の関係部門のメンバーにより構成された「社内起業支援部署」を設置することにより、新規事業の立ち上げにあたっての社内調整がスムーズになります。
次に、イントレプレナー人材の育成です。イントレプレナーを志す人材に対し、起業家が多い海外大学への留学や、ベンチャーキャピタルへの出向といった形の育成プログラムを設けることで、起業家精神を育み、経営的な知見の獲得が支援できます。
イントレプレナーの挑戦に対し、リスクテイク(リスクを冒すこと)のマインドを持つことも重要です。資料によると、新規事業の創出を妨げる要因として、企業がリスクマネー(回収不能のリスクがある投資資金)を許容できないことが課題の一つとして示されています。しかし、損益計算書上で事業の成否を判断するのではなく、企業価値の評価で判断する思考に転換し、新しいカルチャーに挑戦させるマインドを企業として持つことも必要です。
起業家精神は大企業でも必要
すでにいくつかの企業では、イントレプレナーが新規事業を創出するケースも登場しています。
1つ目の事例はNTT東日本のスリープテック事業です。同事業では、部署や職種が異なる複数の社員からなる「睡眠のプロフェッショナルチーム」が、睡眠をテーマにした事業創造を行っています。チームのメンバーは、同社のイントレプレナー制度によって集められたといいます。同事業では、睡眠事業参入のためのコンサルティング、睡眠の観点から健康経営のサポート、睡眠に関するデータを研究・開発者向けに提供するスリープテックプラットフォーム事業が行わています。
2つ目の事例は京セラの子ども用仕上げ磨きの歯ブラシ「Possi」の開発事業です。この事業は、ソニーが提供している事業化支援サービス「Sony Startup Acceleration Program」を活用して立ち上がったもので、事業化を支援する立場としてソニーが、商品のサプライヤーとしてライオンが参画しました。このプロジェクトはクラウドファンディングにより2,000万円もの資金を調達した後、2021年に一般発売されました。(2023年2月販売終了)
新規事業を始めるのは簡単なことではありませんが、イントレプレナー人材を社内に取り組むことで、企業内の経営資源が有効に活用できるでしょう。起業家精神は、必ずしもベンチャー企業だけに必要なものではありません。新規事業が求められるその時のために、大企業内でもアントレプレナー精神を培っておくべきでしょう。
連載記事一覧
- 第1回 山本五十六から学ぶ人材育成論 2016.03.09 (Wed)
- 第2回 SMAP騒動に学ぶ、できる社員の扱い方 2016.04.06 (Wed)
- 第3回 これからの社員食堂の話をしよう! 2016.04.28 (Thu)
- 第4回 相撲の世界に学ぶ、会社経営の肝要とは 2016.05.10 (Tue)
- 第5回 ゆとり世代の部下育成に悩む上司のためのコーチング術 2016.05.17 (Tue)
- 第6回 自発的に動く組織のつくり方 2016.06.14 (Tue)
- 第7回 有名企業にみる働きがいのある職場のつくり方 2016.06.17 (Fri)
- 第8回 指示待ち社員を上手に活用してビジネスを円滑に回す 2016.06.30 (Thu)
- 第9回 気を付けて!その一言が部下の成果を左右する 2016.07.12 (Tue)
- 第10回 社内FA制度のメリット・デメリット 2016.07.14 (Thu)
- 第11回 “優秀な人ほど辞めてしまう”企業の特徴 2016.07.20 (Wed)
- 第12回 あなたのストレス解消法は間違っている!? 2016.07.27 (Wed)
- 第13回 「ゆとり社員」が敬語を話せないのにはワケがある 2016.08.19 (Fri)
- 第14回 孫子の兵法に学ぶ、人望を集めるリーダーの姿勢とは 2016.08.25 (Thu)
- 第15回 タイプ別、従業員のやる気を引き出す4つのポイント 2016.09.12 (Mon)
- 第16回 ずっと仕事をし続ける部下に「手抜き」を教える方法 2016.09.28 (Wed)
- 第17回 平成生まれ世代の部下に嫌われない上司になるには 2016.12.01 (Thu)
- 第18回 顧客が突然怒り出したときの対処法 2016.12.19 (Mon)
- 第19回 “イクメン企業”に学ぶ、ワークスタイル変革術 2017.02.24 (Fri)
- 第20回 スターバックスには接客用のマニュアルがない 2017.03.13 (Mon)
- 第21回 指示待ちの部下が自発的に変わる「質問」の力 2017.03.23 (Thu)
- 第22回 部下を叱るのが下手な人が注意すべきポイント 2017.03.27 (Mon)
- 第23回 プレミアムフライデーを導入しないのは企業の損失? 2017.04.11 (Tue)
- 第24回 睡眠6時間でも不足!?生活習慣「睡眠負債」の危険性 2017.10.24 (Tue)
- 第25回 優秀な中途採用者を活用できる会社と腐らせる会社 2017.11.30 (Thu)
- 第26回 内向的な人がリーダーシップを取るコツ 2018.01.10 (Wed)
- 第27回 上司が率先して休むと、部下の生産性は向上する!? 2018.01.23 (Tue)
- 第28回 たとえ家賃が高くても、会社近くに住むほうが幸せに 2018.02.06 (Tue)
- 第29回 マスク着用で笑顔をお届け!? コロナ禍の接客法 2020.10.20 (Tue)
- 第30回 73.3%が「難しい」と回答、テレワークの人事評価 2020.12.01 (Tue)
- 第31回 どう育てる? コロナ禍の新卒&若手教育 2021.03.09 (Tue)
- 第32回 覚えておきたい職場ハラスメントの現状と対策 2021.06.03 (Thu)
- 第33回 優秀な人材は「ナラティブ」(物語)で採用する時代 2021.09.14 (Tue)
- 第34回 顧客からの過剰なクレーム「カスハラ」に有効な対策とは2024.09.24 (Tue)
- 第35回 従業員の生産性は「睡眠」で高められる2024.09.24 (Tue)
- 第36回 新規事業の創出には、アントレプレナーではなく「イントレプレナー」が重要2025.01.30 (Thu)