日本語は難しく、本人としては同じ内容を言っているつもりでも、聞き手にとっては印象が全く違う場合がよくあります。ビジネスシーンにおいては、投げかけた言葉の印象次第で相手のモチベーションを左右してしまいます。経営者や上司の立場としては、どのような言葉掛けが正しいか、どのように言われると部下のモチベーションが上がるかを知っておくことは、非常に重要なこと。なぜなら、上司の言葉掛けが良ければ、部下はより一層仕事に打ち込み、大きな成果を出してくれるからです。逆の場合は、部下の心はあなたから離れ、大きな成果も期待できません。
それではどのような点に気を付ければよいのか、今回は助詞の「てにをは」についてと、褒める際のポイントについて考えてみましょう。
日本語における「てにをは」は難しい
「てにをは」は思っている以上に難しく、また相手に与える印象も大きく異なります。たとえば、以下の例文を比べてみましょう。
A.「この案で良い。早速取り掛かってくれ。」
B.「(是非)この案が良い。早速取り掛かってくれ。」
このような会話は日常的に行われているでしょう。上記の会話は、ほぼ言っている内容は同じです。ただし、相手に与える印象は180度異なります。私たちは意識せず、Aを使いがちです。しかしこれでは駄目です。何が駄目なのでしょうか。
A、 Bともに同じ背景の元でプロジェクト案が決まったのなら、部下に対しては是非Bの声掛けをしたいものです。Aの場合には、「この案でいい」と言っています。他意はなくともこの表現では、「十分に満足はしていないけれど、妥協して仕方なく選んだ」というような印象を与えてしまいます。部下は妥協で選ばれたように感じられ、素直に喜べません。
一方、Bの場合には「この案がいい」と言っています。このような言い方になると、何を差し置いても是非採用したいという前向きな気持ちを部下に与えることができます。部下の立場に立てば、「上司は十分に満足してくれた上で案を採用してくれた、ならばその気持ちに応えなければ」と思えます。たった一字の違いですが、日本語では与える印象が大きく違うことがあることを覚えておきましょう。
褒めるときには具体的に、かつ過程を褒めよう
次に「(是非)この案が良い。早速取り掛かってくれ。」と言う前に、その内容に関して言及して褒めましょう。褒める時は、具体的であることが重要です。たとえば、以下を比べてみましょう。
A.「内容は面白かった。(是非)この案が良い。早速取り掛かってくれ。」
B.「内容の○○が得に良かった。この視点での着想はこれまでに例がなく、現在のトレンドにもマッチしていると思う。(是非)この案が良い。早速取り掛かってくれ。」
上記を比べた場合、どちらがより良いかは言うまでもないと思います。「良い、悪い」ということを私たちは口にしますが、なぜ良いのか具体性を持たせて言葉掛けをすれば、一層部下は嬉しくなるものです。Aは何が面白かったのか分かりません。Bは十分吟味され、内容も理解したうえでの判断だと部下に伝わります。。声かけは具体的に行いましょう。
さらに、以下の場合にはどうでしょうか。
A.「内容の○○が得に良かった。この視点での着想はこれまでに例がなく、現在のトレンドにもマッチしていると思う。これまでにない素晴らしい成果だ。(是非)この案が良い。早速取り掛かってくれ。」
B.「内容の○○が得に良かった。この視点での着想はこれまでに例がなく、現在のトレンドにもマッチしていると思う。ここまで調べるのは大変だったと思う。努力の過程が十分伝わった。よく頑張ったな。(是非)この案が良い。早速取り掛かってくれ。」
どちらを言われても嬉しいに違いありませんが、より好ましいのはBであると言えます。なぜなら、努力の跡を認めているからです。人間は単純な生き物ではありません。成果物が素晴らしくても、素晴らしいと褒められているのは「成果物=モノ」に過ぎません。
一方、努力の過程に焦点が与えられれば、褒められているものは「部下自身=人間性」です。人間は誰しも自分を認めてほしいと思っている生き物です。それゆえ、成果物を作る過程に焦点を当てて声掛けをする方が、相手はより心の満足感が得られます。この点は非常に重要なので覚えておきましょう。
日本語は難しく、「てにをは」の一字で相手に与える印象が全く異なります。これは日頃から十分に気を付けましょう。そして声掛けをする時には、具体的にその努力の過程に焦点を当てて声掛けしましょう。その方が部下の気持ちは高まり、上司に認めてもらったと強く感じることができます。そして、その上司に報いるために一層仕事を励んでくれることは間違いありません。是非明日から実践してみてください。
連載記事一覧
- 第1回 山本五十六から学ぶ人材育成論 2016.03.09 (Wed)
- 第2回 SMAP騒動に学ぶ、できる社員の扱い方 2016.04.06 (Wed)
- 第3回 これからの社員食堂の話をしよう! 2016.04.28 (Thu)
- 第4回 相撲の世界に学ぶ、会社経営の肝要とは 2016.05.10 (Tue)
- 第5回 ゆとり世代の部下育成に悩む上司のためのコーチング術 2016.05.17 (Tue)
- 第6回 自発的に動く組織のつくり方 2016.06.14 (Tue)
- 第7回 有名企業にみる働きがいのある職場のつくり方 2016.06.17 (Fri)
- 第8回 指示待ち社員を上手に活用してビジネスを円滑に回す 2016.06.30 (Thu)
- 第9回 気を付けて!その一言が部下の成果を左右する 2016.07.12 (Tue)
- 第10回 社内FA制度のメリット・デメリット 2016.07.14 (Thu)
- 第11回 “優秀な人ほど辞めてしまう”企業の特徴 2016.07.20 (Wed)
- 第12回 あなたのストレス解消法は間違っている!? 2016.07.27 (Wed)
- 第13回 「ゆとり社員」が敬語を話せないのにはワケがある 2016.08.19 (Fri)
- 第14回 孫子の兵法に学ぶ、人望を集めるリーダーの姿勢とは 2016.08.25 (Thu)
- 第15回 タイプ別、従業員のやる気を引き出す4つのポイント 2016.09.12 (Mon)
- 第16回 ずっと仕事をし続ける部下に「手抜き」を教える方法 2016.09.28 (Wed)
- 第17回 平成生まれ世代の部下に嫌われない上司になるには 2016.12.01 (Thu)
- 第18回 顧客が突然怒り出したときの対処法 2016.12.19 (Mon)
- 第19回 “イクメン企業”に学ぶ、ワークスタイル変革術 2017.02.24 (Fri)
- 第20回 スターバックスには接客用のマニュアルがない 2017.03.13 (Mon)
- 第21回 指示待ちの部下が自発的に変わる「質問」の力 2017.03.23 (Thu)
- 第22回 部下を叱るのが下手な人が注意すべきポイント 2017.03.27 (Mon)
- 第23回 プレミアムフライデーを導入しないのは企業の損失? 2017.04.11 (Tue)
- 第24回 睡眠6時間でも不足!?生活習慣「睡眠負債」の危険性 2017.10.24 (Tue)
- 第25回 優秀な中途採用者を活用できる会社と腐らせる会社 2017.11.30 (Thu)
- 第26回 内向的な人がリーダーシップを取るコツ 2018.01.10 (Wed)
- 第27回 上司が率先して休むと、部下の生産性は向上する!? 2018.01.23 (Tue)
- 第28回 たとえ家賃が高くても、会社近くに住むほうが幸せに 2018.02.06 (Tue)
- 第29回 マスク着用で笑顔をお届け!? コロナ禍の接客法 2020.10.20 (Tue)
- 第30回 73.3%が「難しい」と回答、テレワークの人事評価 2020.12.01 (Tue)
- 第31回 どう育てる? コロナ禍の新卒&若手教育 2021.03.09 (Tue)
- 第32回 覚えておきたい職場ハラスメントの現状と対策 2021.06.03 (Thu)
- 第33回 優秀な人材は「ナラティブ」(物語)で採用する時代 2021.09.14 (Tue)