「部下が指示を待ってばかりで困る」という悩みを持っているビジネスリーダーは多いかもしれません。ですが、部下に「どうして自分で判断して行動しないのか?」と問いただすのは逆効果。それでは部下を委縮させることにつながる恐れがあります。
部下が自分で課題に気づき、自ら積極的に行動できるように誘導するための方策として、時代を超えて採用されてきた手法があります。それが「質問」です。部下の行動を促すためには、(1)部下が自分で課題に気付くような質問、(2)目標を自分で決めるようにする質問、(3)部下の行動を支援する質問、という3つのポイントがあります。
今回はこの3つのポイントに沿って、理想の質問のあり方について考えてみたいと思います。
部下自身が課題に気付ける質問
まずは(1)の「部下が自分で課題に気付くようにする質問」ですが、これには「禅問答」がヒントとなります。
テレビアニメ「一休さん」を観たことがある人なら、主人公である一休さんと、将軍義満の家臣で、一休さんの良き理解者でもある新右ヱ門さんが「そもさん」、「せっぱ」という言葉で始まるとんち問答の掛け合いをしているシーンを見たことがあるかもしれません。
この「そもさん(作麼生)」と「せっぱ(説破)」は、禅宗において問答をするときの掛け声です。禅問答では「公案」と呼ばれる定番の質問が用意されていますが、定番の答えは存在しません。なぜなら、自分なりに考え、解釈し、答えを出すことが、悟りを得ることにつながるからです。
つまり、部下が自分で考え、自らが答えを出すような質問を投げかけることで、部下は自分を悟ることができ、自分から課題を解決する行動を取ることができる、ということになります。
たとえば、「いま上手くいっていることは何?」や「逆に上手くいっていないことは?」といったように、現状を客観的に考えるきっかけとなる質問をすることで、部下は自分の課題を悟り、改善に取り組むことが可能です。一方で、「どうしてそんなことをしたのか?」という、ミスを問い詰める質問は、批判と受け止められる恐れがあるので、避けておいた方が良いでしょう。
部下が自分で気付くことのメリットは、人から与えられた答えより強く自らの心に刻まれることにあります。さらに、発想の転換をもたらし、課題の解決に向けて主体的に取り組む契機ともなります。
自分で設定した目標だからこそ、達成しようと思える
課題に気付くだけでは、具体的な行動まで結び付きません。課題解決につなげるためには、部下が自分で目標を設定することが大切です。
このような目標設定を促すためには、過去に起こった問題の原因や責任だけに注目するのではなく、未来志向で問題解決型の質問が適しています。
たとえば「どうしてあなたの営業チームだけ顧客からクレームが多いのか?」と聞くよりも、「各営業チームの顧客クレームを低減したいが、あなたのチームで実施できる対策は何かあるか?」と聞く方が、問題解決型の質問といえます。対策を自分で考えさせることにより、それを次の目標として問題解決に向けて行動することが期待できるからです。
経営学の大家であるピーター・ドラッカーは、自分で目標を設定して主体的に管理する手法を「目標による管理」と呼びました。これは、自分で考え、納得したうえで目標を設定することにより、その目標を達成しようというモチベーションは高くなる、というものです。ドラッカーがこの手法を唱えたのは20世紀半ばのことですが、現代でも十分に通用する手法といえるでしょう。
行動を支援することの重要性
自分で問題に気づき、達成すべき目標を設定することで、部下は自発的な行動が期待できるようになるでしょう。しかし、モチベーションの高さは人により差があるため、目標設定だけでは、うまく行動を引き出せない場合もあるでしょう。
第二次世界大戦で連合艦隊司令長官を務めた山本五十六は「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」という言葉を残しています。これは、やるべきことを本人が認識しているだけでは足りず、模範を見せることや本人に実践させ、最終的に「褒める」ことで、ようやく人がついてきてくれる、という意味です。
この言葉からもわかるように、目標達成に対してインセンティブ(誘因)を与えることは重要です。ただし、インセンティブは人によって異なります。多くの人にとっては「お金」がインセンティブかもしれませんが、別の人は、仕事の内容を褒められることがインセンティブだったりします。したがって、まずはその人が求めるインセンティブが何であるかを知ることが重要です。
たとえば、日々のちょっとした雑談で「人生で一番大事なものは何?」「何をプレゼントされると一番嬉しいか」といった質問をすることで、部下が何に価値を見出しているのか、部下をやる気にさせるインセンティブが何かを知ることができます。
部下が自ら行動を取るようになるには、自分が問題に気づくこと、その対策や目標を自ら立てること、それを後押しするためのインセンティブが必要となります。これらの過程で「質問」を有効に使い、チーム全体を組織目標に向かって誘導していくのが、上司の役割といえるでしょう。
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