横綱と幕下では取り組みへの気概と姿勢が違うように、一国(会社)の横綱である経営者には求められる人物像が違ってきます。それは土俵の外での振る舞いや、「全体」への人生を賭した責任、そして一徹とも呼べる意志の強さ。今回は、相撲界の掟から読み取る「強い経営者(横綱)」に求められる素養について、ご紹介をしていきます。
経営者は、会社にとって親方ではなく横綱
会社にとって経営者とは、外からアドバイスをする親方ではありません。あくまでも、土俵の中で勝負するひとりの力士です。
創業してすぐに全体のマネジメントだけを業務とするような社長があまりいないことからもわかる通り、ほとんどの経営者は、自分の会社のために一社員としてあくせく動き回ることになります。
そして、横綱が角界の顔であるように、経営者は会社の顔です。会社が今後も繁栄していくかどうか、先を読んで未来を選択する大きな使命を担うことになります。その覚悟と責任のある人間が、横綱として下の者を引っ張ることができるのです。
横綱に求められるのは「負けない」こと
横綱は土俵際で耐え、体勢を整える力を備えていなければなりません。立ち合いの長い場面では、勝つというよりも負けないことを重要視します。
これは経営者も同じです。特に会社が軌道に乗った後は、負けないことへの強い執着心と計画性が求められます。
経営が波に乗ると、拡大して新たな事業に手を出そうとする人が少なくありません。しかし、経営者にはそれ以前に、負けない企業戦略、会社を長く繁栄させるための手堅い手法が求められます。
横綱が毎日得意の一手を磨き続けるのは、言ってみれば強くあり続けるための必要最低限の努力なのです。新しい技よりも知り尽くした一手を極めるほうが、誰も寄せ付けぬ強さへの近道になります。
経営者も、会社が上り調子の時にこそ自社のオリジナリティを重視し、さらに強固なものにするための投資をしておくべきです。
どんな人が自社の商品・サービスを嫌っているか。どこに不満を抱いたのか。そういった後回しにしがちな点も、時には優先して知ろうとする。それが後に、会社の踏ん張りどころでの力になります。
横綱は、勝てない力士にこそ目を配る
事業は成果が全てとはいえ、長く続けば少なからず浮き沈みがあります。頑張っても売り上げが上がらない。どんな会社でも、一度はそういう時期を経験するものです。
横綱は、同じ部屋付のすべての力士をよく見ています。そして、結果を出した力士を褒めることより、誰よりも努力しているのに結果が出ない力士をまず激励します。
これは簡単なことではありません。頑張っているのに成績が上がらない部署に気を配ることができる経営者はなかなかいないものです。
社員がいちばん嬉しいのは、取引先や顧客に喜んでもらえた瞬間でしょう。それが得られない時期には、誰かに「頑張っているのはわかっているよ」と声をかけてもらえることが励みになるものです。上司に言われるのはもちろん、社長がそんな風に声をかけてくれるのなら、社員はもっと嬉しい気持ちになります。
横綱に声をかけられた幕下力士も同じです。やっと成果が出せた時、その瞬間にだけ褒めてくれた人の言葉はあまり心に残りません。それよりも辛い時期に声をかけてくれた上司の言葉、それが感謝となって心によみがえるのではないでしょうか。
幕下の力士は、横綱の胸を借りて強くなる
経営者は、社員にとってただの雇い主ではありません。横綱と幕下の関係のように、時には土俵で対峙するかもしれない相手です。
横綱は「変化」といって、相撲でいう不意打ちの戦術を不文律で禁じられています。相撲に興味のない人からすれば「なぜ?」と思われるでしょう。しかし、これは強い横綱に課せられたただのハンディ制度ではありません。
実は、横綱の変化が不文律で禁じられているように、格下の相手が横綱を相手に張り差し(張り手で怯んだ相手を得意の手に持ち込むこと)を行うことも、失礼にあたるためタブー視されているのです。
立場の差があるからこそ、お互いが本気でぶつかることに意味があり、喜びを感じる。長い歴史から自然とできた流れが、今のかたちです。
社員が社長に敬意を払うのは当然です。しかし、それが雇い主に対する服従であってはいけません。社長にただひれ伏すような社員は、負け癖が付いた力士と同じくいずれ土俵を去ります。経営者と社員双方に尊敬と対等の気持ちがなければ、一緒にいい仕事をすることはできません。
社員が土俵でのびのびと実力を発揮できる。そういう環境をつくるのも、横綱である経営者の仕事ではないでしょうか。
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