「戦争とは国家の一大事であって、民草の生死と国家の存亡にかかわるものである。そのために細心の注意を払い、よくよく検討を重ねなければならない」
これは、中国の兵法書「孫子」において、戦争について書かれた一説です。ですが、「戦争」を「ビジネス」、「国家」を「企業」、「民草」を「社員」と読み変えれば、企業経営の指南書として読むことができます。
ここでは孫子の代表的な教えを引用しながら、特にチームリーダーとして意識すべき、ビジネスのヒントを探していきます。
ビジネスに欠かせない5つの基本的な要素とは
孫子の有名なフレーズのひとつに、「兵とは国の大事なり」という言葉があります。 現代語訳をすると「戦争とは国家の一大事である」という意味です。
この一説には続きがあり、もし戦争をするのであれば、「5つの基本的な項目で戦争を推し量るべき」と孫子は説いています。その5つが、「道・天・地・将・法」です。
「道」とは、君主の目的を民衆に共有してもらう政治のこと。日常的に善政を敷いていれば、有事の際に民衆は君主と運命を共にしてくれるでしょう。ビジネスの世界で例えれば、社長の理念を広く全社員に浸透させるべしと読み取れます。
「天」はひと言でいってしまえば季節、「地」は地理的な条件です。季節と地域の特徴をとらえて商売をすべしということでしょう。
「将」は司令官のことで、知識と勇気があり、部下から信頼され、自信は部下を思いやる心を持ち、規律を守らせる厳しさを持つ人が、管理職に適していると記されています。最後に「法」とは、すなわち法令や社内ルールの遵守です。
これら5つの要素は、日々の業務はもとより、新しい事業の開拓、人事異動など、企業経営のさまざまなタイミングで重要になるものです。「いざ」という時だけ5つの要素を取り繕うとするのではなく、普段から意識するように心がけましょう。
ビジネスは勢いが大事。それだけにチームの人選も大事
孫子は「善く戦うものは、これを勢に求めて人に責めず」という言葉も残しています。これは、「戦いが上手な大将は勢いを大切にし、兵一人一人の個人的な気質には頼らない」という意味です。そのことをわかっているリーダーが指揮をとれば、まるで木や石が転がっていくように怒濤の勢いが生まれ、勝利をもたらすと説いています。
ビジネスにおける「勢いを大事にする」とは、たとえば企業や社員の雰囲気が上向いているようであれば、細かいことを気にするよりも、その勢いを止めない方が良いということでしょう。
とはいえ、何でもかんでも勢い任せで、個々のスタッフを意識しなければいけないということではありません。なぜなら孫子では、「人に責めず」のあとに「それゆえ、人をしっかりと選べ」という内容が続いているからです。
例えば新しいプロジェクトの立ち上げに、4人のチームを組むとしましょう。しかし、同じ個性を持つ人物が集まったところで、労働力の足し算にしかなりません。異なる個性を持つ人たちが合わさることで、力は掛け算となるのです。
つまり、何でもかんでも勢い任せでいくのではなく、勢い任せでもチームが崩れないよう、予め準備をしておくことが重要なのです。
部下は我が子のように思うべし
孫子ではリーダーが部下に対する指導法について、「卒を見ること嬰児のごとし」という言葉を残しています。「卒」とは部下となる兵士たち、「嬰児」とは赤ん坊のことです。つまり、「司令官は、部下たちを赤ん坊のように思っていれば、その思いは部下たちに伝わって、深い谷底のような危険な場所にも行ける」という意味です。この一説はさらに「兵士たちを我が子のように思えば、その思いは伝わり、司令官に従って死ぬこともいとわなくなる」と続きます。
ビジネスシーンにおいては、部下にそこまで妄信的になられても困りますが、注目すべきは「赤ん坊のように」といいながら、「我が子のように」と、さらに書き加えた部分です。同じ子どもでも、他人の子と自分の子では、扱いや意識に大きな差があります。我が子のことは、自分のこととして親身に、真剣に考えることができます。
ただし孫子は「手厚く用いるばかりで働かせず、愛するばかりで命令せず、好き勝手をやめられないと、わがままな子どものようで使い物にはならない」と注意をしています。気付かないうちに、部下を甘やかしてばかりになっていたのでは本末転倒となるのです。
孫子を崇拝しすぎるのは逆効果
孫子には、時代を越えて通じる金言が記されており、ビジネスにも有効です。しかし気を付けたいことがひとつあります。それは孫子を崇拝するあまり、最善の手を見誤る可能性です。
物事は時と場合に応じて柔軟に判断する必要があります。孫子に書いてあるからという理由だけで、状況を判断し行動を決めるのは思考停止と同じです。
最後に「兵は詭道なり」という言葉を紹介します。これは「戦争の基本は敵をあざむくこと」という意味です。能力があっても無能なふりをし、近くにいても遠いように見せ、敵にとって利益があるように見せて誘い込む。こうした前線の動きは出陣前にはわからないので、戦いが始まったらよく敵情を視察して、敵の予想を逆手にとって作戦を立てるべきだと説いています。
孫子はどんなときも臨機応変でいるために、頭と足を使うことを忘れるなと、私たちに語っているのです。
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