「刺激と反応の間にはスペースがあり、刺激に対してどのような反応をするかは主体的に選択することができる」
これはビジネス書のベストセラーである『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)に出てくる一節を要約したものです。外界からの刺激に対して自分がどのように反応するかは、自分が自由に決めることができる、ということを意味します。
それにもかかわらず、人間はついつい感情的になってしまったり、不適切な表現で相手を批判したりしてしまいがちです。その結果、人間関係に悪影響を及ぼすケースも多くあります。
そこで今回は、感情的になりそうなときでも自分をコントロールして、伝えるべきことを上手く伝えるためのポイントを紹介します。
怒りの感情は数秒しか持続しない
部下に対して注意する際、良くないとはわかっていても、ついつい「どうしてお前はいつもそうなんだ!」などと声を荒げてしまう人がいます。部下のミスについて指摘するだけでなく、ときには人格攻撃までしてしまう場合も少なくありません。
しかし、怒りの感情はコントロールできます。心理学では、人間が日々抱く様々な感情は、その種類によって持続時間が異なるという研究が進んでおり、突発的な怒りの感情はせいぜい数秒しか持続しないという説があります。つまり、その数秒を乗り切りさえすれば、怒りをコントロールしながら話せるようになるのです。
その数秒を乗り切るための秘訣は2つあります。1つは「反応は自分で選択できる」という事実と、「怒りの感情はせいぜい数秒しか持続しない」ということを、平静時に繰り返し意識しておくことです。
そしてもう1つは、自分が怒りを感じたときに「いま自分は怒っているな」と客観的に観察することです。最初のうちは自己観察しても怒りが収まらないこともあるでしょう。しかし、怒っている自分を客観的に観察することを習慣化すれば、やがて怒るのとほぼ同時に、理性のコントロールが効くようになります。
これに加えて、特に部下に対して叱るときには、感情的になりすぎないように、冷静かつ慎重な姿勢を維持しましょう。具体的にいえば、(1)声のトーンを低く、ゆったりとした口調で話す、(2)相手の行動を批判するのではなく、今どのようなことが問題になっているのかを伝える、(3)愚痴のように何度も繰り返さず、シンプルに指摘する、といった3つの姿勢が重要です。
「部下が叱れない」人はどうすれば良いか
これとは別に、「部下を叱ることができない」と悩んでいる人もいるかもしれません。「部下から嫌われるのではないか」とか「気まずくなるのではないか」などと考え、事なかれ主義を貫いてしまうタイプの人です。
部下のことを気遣うことは良いことですが、部下の仕事を正しい方向へと導くのも上司の仕事です。こうしたマインドセット(考え方)を変えることは、何か転機になる出来事や、心境の変化が起こらない限り、容易なものではありません。
この場合も、先ほど挙げた(1)(2)(3)のような慎重な姿勢を取ることがポイントです。冷静に、今困っていることをシンプルに伝えることで、真摯に業務に取り組んでいる姿勢が部下にも伝えられるでしょう。
「経営の神様」松下幸之助は部下をどのように叱ったか
叱り方のひとつの例として「経営の神様」と呼ばれる、パナソニックの創業者・松下幸之助の例を挙げてみます。
松下幸之助ほどの人物であれば、部下の叱り方についても一流のテクニックを用いていたのでは、と思うかもしれませんが、実は幸之助が部下を叱るときには、どのように叱るかなどは一切考えず、私心もなく、ただ一生懸命に叱っていたという逸話が残っています。
幸之助自身はこの叱り方を「策をもって叱らない」と表現していますが、叱った後は、「スッキリした」というわけではなく、「気が重くなった」といいます。叱られた側から「先ほどはすみませんでした。気をつけます」と謝罪されることで、やっと「わかってくれたか」と、ホッと胸をなでおろしたそうです。
部下を叱ることは、あの松下幸之助さえも気が重くなるほど難しい仕事ですが、部下の至らないところを指摘し、改善を求めることは、上司の重要な仕事のひとつです。感情的になりすぎず、かといって放置するでもなく、真摯に部下と向かい合うことが大切だといえるでしょう。
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