2019.11.28 (Thu)
働き手減少問題をICTで解決(第6回)
テレワークの落とし穴、情報セキュリティ対策に注意菓子・食品の製造・販売を行うカルビー株式会社は、2017年4月以降、自宅などの社外で勤務する「テレワーク」の上限日数などの制限を撤廃することを発表しました。
同社が制限の撤廃に踏み切った裏には、多様な働き方に対応することで優秀な人材を確保することにあると考えられます。
カルビーではもともと2013年よりテレワークを取り入れていました。しかし、当時はいくつかの制限がありました。
その制限とは、「対象者は工場勤務を除く入社3年目以降の社員であること」、「週に2日を上限とすること」、「勤務場所は自宅に限ること」、「使用するデバイスは会社から配布されているパソコンであること」、「翌日には成果を上司に報告すること」などです。
それが2017年4月以降は、日数の上限が撤廃され、勤務場所も自宅以外がOKとされました。たとえばカフェにPCを持ち込んで仕事をするということも可能となります。大げさにいえば、テレワークを選択した社員は、全く会社に出社する必要がなくなることになります。
新聞報道では、「会議や打ち合わせなどのために、最低でも週に1度程度は出社することになる」とも報じられていますが、それでも「週2回」を上限としていた従来の制度からは、テレワークの制限が大幅に緩和されています。
なぜカルビーは、テレワークの日数と、在宅勤務の場所は自宅のみという制限を撤廃したのでしょうか。理由のひとつに、同社が10年前から取り組んできた働き方改革の取り組みから判断されたと考えられます。
2007年、カルビーは本社の一部門に、従業員の固定席を設けない「フリーアドレス制」を導入しました。問題なく仕事ができ、さらにペーパレス化にも効果があることが確認されました。
2011年にはモバイルワークが導入され、営業が直行直帰するスタイルが定着しました。この制度によって営業担当者は、商談の待ち時間に外出先で資料を作成するといった時間の有効活用が可能となりました。
2013年には本社・東京支店で、在宅勤務のためのテレワークをテスト導入。この試みが一定の評価を得たと判断し、2014年4月には全社的に在宅勤務が導入されました。デメリットとして心配されていたモラルの低下などは見られず、同時に目標管理による評価を行える体制が整えられてきたため、上司と部下が顔を合わせることがなくても、マネジメント上の問題がないことも分かりました。
全社的にこうした制度を導入した成果として、ペーパレス化で紙の書類が31%削減、入社希望者数が30%増加、オフィス来訪者が50%増加したというデータもあります(いずれも2014年度の対前年比実績)。
カルビーは、テレワークの日数や在宅勤務の場所という制限を撤廃したのは、制限がなくても問題がないことを、これまでの働き方改革で確認しており、むしろテレワークのメリットの方が大きいと判断したのではないかと考えられます。
カルビーのCEO兼会長の松本晃氏は、2016年4月の日経電子版の取材で「成果さえ出せれば午後2時でも家に帰ればいい」と述べ、自身も午後4時には仕事を切り上げるとしています。会社の業績、従業員の給与とも成果主義へとシフトしてきた松本氏の経営方針から、カルビーでは生産性と業務効率を追求しています。
カルビーのように、毎日出社することが従業員の評価で重視されなくなっている企業は増えつつあります。同時に働き手側も、仕事が最優先のワークスタイルから、公私のバランスを取るワークスタイルへと変化しています。
同社がテレワークを試験的に導入した10年前、上司の目が部下に届かなくなることによる業績やモラルの低下などのデメリットが懸念されていました。しかし、カルビーは従業員ともに「成果」を重視する働き方へと意識改革することで、業績が向上し、モラルの低下も見られなかったという結果に至っています。
カルビーのようなテレワークの上限日数撤廃は、「オフィスで働く必要がない」という、新しい労働形態の時代が到来したことを示すひとつの事例といえるのではないでしょうか。
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