親子だけや、兄弟・親戚が少ないといった家族構成が特別なものではなくなった現在は、育児や介護で家族にかかる負担が大きくなっています。
企業側にとっても、育児や介護といった理由から従業員が離職するとなれば、職場の戦力ダウンです。離職を避けるために、企業側は育児や介護に関する就業規定や福利厚生を充実させて、人員確保を図ろうとしています。
しかし「資金不足で福利厚生を充実させられない」「充実させたい意思はあるが何から手を付けるべきか」といった企業の実情がネックになってしまってはないでしょうか。
本記事では、そんな企業の悩みをサポートしてくれる厚生労働省の「両立支援助成金」という、従業員の育児や介護を支援する助成金の内容や受給資格などについて紹介します。
仕事と育児・介護を両立させる助成金
両立支援助成金は中小企業向けの助成金で、業種によって細分化された資本または出資の額、常用労働者数などにより受給資格が判定されます。申請先は、都道府県の労働局雇用環境・均等部(室)です。助成金は事業内保育施設コース、出生時両立支援コース、介護離職防止支援コース、育児休業等支援コース、再雇用者評価処遇コース、女性活躍加速化コースと6つに分かれており、自社が活用すべきコースごとに申請します。
このなかで職場の出産・育児・介護に対する意識変革を支給条件に加えた出生時両立支援コース、育児休業等支援コース、再雇用者評価処遇コース、介護離職防止支援コースについて説明します。
男性の育児休暇取得も推進
まずは育児休業に関する出生時両立支援コース、育児休業等支援コース、再雇用者評価処遇コースを紹介します。
出生時両立支援コースは、男性に育児休業を取得しやすい職場風土作りを行い、男性に一定期間の連続した育児休業を取得させた場合に支給されます。条件は、過去3年以内に育児休業(連続14日以上/中小企業は連続5日以上)を取得した男性社員がいないこと、管理職による子どもが生まれた男性への育児休暇の推奨、男性育児休業の取得に関する管理職向け研修の実施、子どもの出生後8週間以内に連続する育児休暇の取得などです。
男性が育児休業を取得すると、中小企業ならば57万円、中小企業以外は28.5万円が支給されます。また、2人目以降は企業の規模に関わらず一律で14.25万円が支給されます。まだ男性の育児休業が広まっていない企業向けのコースといえるでしょう。
男性・女性の育児休業に関するコースとしては、育児休業等支援コースがあります。育休の開始時と復帰時のそれぞれに、28.5万円が支給されます。企業は、対象者と育休復帰支援プランを作成。それに沿って育児休業を取得、職場復帰、その後に6カ月以上継続雇用することなどが支給の条件となっています。
育休復帰支援プランとは、育児休業までの働き方や、引き継ぎ、復帰後などの内容やスケジュールについてまとめたものです。対象者が職場復帰する前に、職場の情報・資料を提供することも含まれています。
また育児休業等支援コースの中には、育児休業中の社員の代替要員を確保した場合は、代替要員1人につき47.5万円が支給されるというものも含まれています。しかし、助成金を受給するには、育児休業中である女性社員の職場復帰が前提です。
3つ目が妊娠、出産、育児、介護を理由に退職した人の復職に関する、再雇用者評価処遇コースです。前述の理由から退職した人を再雇用すると、中小企業なら1人目には38万円、2~5人目には28.5万円が支給。中小企業以外なら1人目は28.5万円、2~5人目は19万円となります。
条件は、離職してから1年以上経過している対象者を再雇用して、無期雇用者として6カ月以上継続雇用することなどです。事情によって離職してしまったけれど、状況が落ち着いたので復帰したいという社員と、過去の実績がわかる人を再雇用したいという企業の両者が存在するのであれば、活用すべきコースでしょう。
負担が高まる“介護”もサポート
最後に介護離職防止支援コースですが、こちらは連続1カ月以上または合計30日以上の介護休業を取得したときに57万円が支給されるコースと、所定外労働の制限・時差出勤・深夜業の制限・短時間勤務という介護制度のいずれかを3カ月以上、または合計90日以上利用した場合に28.5万円が支給されるコースがあります(中小企業以外なら介護休業は38万円、介護制度は19万円)。
両コースの条件は、仕事と介護の両立に関する職場環境整備の取り組み実施や、介護プランの作成、介護休業の取得・職場復帰・勤務制限制度を従業員が円滑に行うための取り組みを行った企業としています。出生時両立支援コースの男性の育児休暇取得のように、介護休業を職場に周知することも目的の1つとなっている助成金です。
支給にあたっては、コースごとにさまざまな条件や書類提出があるので、申請先である各都道府県の労働局雇用環境・均等部(室)へ、事前に確認してください。
知られざる支援策を上手く活用しよう
前述のように、企業の福利厚生を充実させる資金助成や女性の職場復帰だけでなく、男性の育児休業や介護休業を職場に周知することを推進することが両立支援助成金の目的です。
この助成金を通じて、企業は働き方改革や女性の社会活躍、高齢化社会などといった将来への課題に取り組むことになり、また従業員は働き方とプライベートの「両立」を意識するきっかけとなるでしょう。
連載記事一覧
- 第1回 ソフトバンク副社長の退任から考える、後継者問題 2016.08.26 (Fri)
- 第2回 「内定辞退」を出さないために企業がすべきこと 2016.09.08 (Thu)
- 第3回 部下に好かれる上司は無能?シビアな内容の本に学ぶ 2016.10.06 (Thu)
- 第4回 副業、在宅勤務OK。多様な働き方が企業に与える効果 2016.10.20 (Thu)
- 第5回 現場で優秀だった人こそ危ない、ダメな管理職の特徴 2016.11.02 (Wed)
- 第6回 部下の心を開くちょっとしたコミュニケーション技術 2016.11.14 (Mon)
- 第7回 日産と日立の例に学ぶ、新たなリーダーの育成法 2016.11.24 (Thu)
- 第8回 管理職は社員の勤怠と体調を管理できているか 2016.12.15 (Thu)
- 第9回 現代に求められる上司像「サーバントリーダー」とは 2016.12.22 (Thu)
- 第10回 人気ドラマ「逃げ恥」に学ぶ部下のやる気を引き出す方法 2017.01.10 (Tue)
- 第11回 社員が「コスト削減」に意欲的に取り組む4つの方法 2017.01.11 (Wed)
- 第12回 上司のこんな言動が、部下を精神的に追い込む 2017.01.23 (Mon)
- 第13回 部下に対する「ちょっとした質問」が成長を促す 2017.01.26 (Thu)
- 第14回 クレームは対応次第でチャンスになる 2017.02.16 (Thu)
- 第15回 中小企業の採用活動を助けるユースエール制度とは? 2017.02.28 (Tue)
- 第16回 「キーマン不在で仕事が回らない」を防ぐために 2017.04.25 (Tue)
- 第17回 カルビーがテレワークを「毎日OK」とした理由 2017.04.26 (Wed)
- 第18回 仕事の効率を上げるオフィスカジュアルのすすめ 2017.06.26 (Mon)
- 第19回 借金で会社経営が安定!?資金調達は計画的に(前編) 2017.07.12 (Wed)
- 第20回 借金で会社経営が安定!?資金調達は計画的に(後編) 2017.07.18 (Tue)
- 第21回 「乾けない世代」30代以下の価値観が企業を変える 2017.12.07 (Thu)
- 第22回 職場の育児・介護意識を変える「両立支援助成金」 2017.12.21 (Thu)
- 第23回 なぜ多くの新卒社員は3年で退職してしまうのか? 2018.01.17 (Wed)
- 第24回 コロナで活況「スモールM&A」という選択肢 2020.06.26 (Fri)
- 第25回 慶応病院と東京歯科大学も合併、医療M&Aのいま 2021.02.19 (Fri)
- 第26回 ABWとは?フリーアドレスやテレワークとの違いは? 2021.02.19 (Fri)
- 第27回 約3割がオフィス縮小を希望、始め方・進め方は? 2021.02.19 (Fri)
- 第28回 Googleや味の素も注目、「無意識の偏見」のリスク 2021.06.03 (Thu)
- 第29回 日本版ワーケーション成功の合言葉は「ワクワク感」 2021.07.01 (Thu)
- 第31回 先進企業に見る、男性育休取得の3つのメリット2023.03.06 (Mon)
- 第32回 Z世代の知見生かす「リバースメンタリング」の効果2023.05.30 (Tue)
- 第33回 DE&I推進がもたらす、イノベーション創出と人材確保2023.06.13 (Tue)
- 第34回 米国では標準化。セキュリティの新たな考え方「SBOM」2023.09.08 (Fri)
- 第35回 増える「ビジネスケアラー」介護離職を防ぐカギは2023.10.04 (Wed)
- 第36回 10月から開始「ステマ規制」で何がNGになるのか?2023.10.04 (Wed)
- 第30回 国内企業も続々実施、企業の長期的な成長に必要なSXとは2023.01.30 (Mon)