無借金を理想としている経営者は多いのでないでしょうか。しかしある程度の規模の企業であれば、自己資金だけで日々の経営や事業拡大を進めることは容易ではありません。それゆえに、企業経営には借金という資金調達法が切っても切り離せない存在となっています。
借金による資金調達は、借入先を間違えなければ安定した経営が可能となります。その借入先が「銀行」です。銀行からの借金が、ほかの資金調達法とは異なり経営を安定させるのには理由があります。
返済の必要なし!「出資」のデメリットとは
借金による資金調達は「融資」と呼ばれます。融資は元金に加え、利子を返済する義務があります。融資による資金で会社経営を行なった場合は、元金と利子を合わせた以上の売上金をあげないと利益がありません。この利子というハードルが、経営者に融資を躊躇させる一因でもあるのです。
融資以外の資金調達法としては「出資」と「信用取引」があります。この2つにもメリットとデメリットが存在します。
出資とは、会社の設立や資本金の増資などをする場合に行われる資金調達方法です。出資のメリットは返済する義務がない点に尽きます。
返済の義務はありませんが、出資者には株式が発行され、会社の所有者である株主になります。これは「会社法」という法令で定められたものです。株主には利益配当請求権と、株主総会において議決権を行使する権利が与えられます。株主の権限はさまざまですが、議決権の行使は社長を含む取締役の人事権という強力なものです。
たとえば資本金500万円のA社が、新たにB社から1,500万円の出資を受けたとします。出資後の資本金は2,000万円となり、B社のA社に対する出資比率は75%を占めることになります。
株主総会では出席株主の3分の2以上の賛成票により議題が決議されると定められています。つまり出資比率が66%を超えると、株主総会を掌握されることになるため、B社の意見を聞き入れない取締役の解任が可能になります。
2000年に、日本とアメリカで同時上場した、電子メールやウェブサイトのサーバーの管理・運用代行サービスを行なっていたクレイフィッシュは、業績不振から株主と取締役が対立しました。大株主である光通信は経営が混乱した責任を創業社長に追求し、引責辞任させます。クレイフィッシュはその後、社名をe-まちタウンに変更。2012年に上場廃止となり、2013年には光通信の完全子会社となりました。
このように出資のデメリットは、経営者より強い権力を持つ株主が誕生する可能性があることです。
やりくり上手の「信用取引」で資金調達を
「信用取引」とは、原材料やサービスなどを先に受け取った後に、代金を支払うという取引方法です。
ある仕事で商品代金500万円の入金と、その原材料費400万円の支払いが発生したとします。信用取引は、原材料を先に受け取って商品を製造・販売します。さらに原材料費の支払いは、商品代金の入金後に支払うという流れです。
もう少し詳しく説明しますと、まず原材料を受け取ってから1カ月後に商品代金500万円が入金されます。次に原材料の受け取りから2カ月後に原材料費400万円の支払いをします。すると、商品代金の入金から原材料費の支払いまでの1カ月は、500万円が手元にあります。これを次の事業への資金として調達するのです。利子はありませんが、1カ月以内に400万円を用意できる目処を立てなければなりません。
この資金調達を実現するには、入金・支払いが履行されることが前提です。商品代金の入金遅延や不履行があれば、500万円を資金に回せません。相手側の支払いサイクルによっては、原材料費の支払いの後に入金となることもあり得ます。一方、原材料費の支払い遅延や不履行をすれば自社の信用が失墜します。相手に長期間にわたる支払いの先延ばしを申し出た場合、次回から支払いを先に済ませないと原材料の供給が受けられなくなる可能性があります。先に原材料を受け取れるのは、期日には支払うという信用があるからです。
信用取引による資金調達は、入出金の不履行や支払いサイクルが短いため、確実性や不安定という点がデメリットとして挙げられます。
利子と担保も取られる銀行融資のメリットとは
融資による資金調達法は、元金に利子を上乗せして返済しなければならないことや、不動産などの担保を設定されるというデメリットがあります。しかし、資金調達と同時に会社経営も安定させるメリットもあるのです。
まず銀行融資は審査が通れば、確実に入金されます。審査の段階から融資の実行時期は、利子を計算する起点となるので明確にされます。同時に返済も計画的に行われます。会社の経営状態によって返済期間を設定すれば、入出金のバランスで苦しむことも減ります。このような点で銀行融資という資金調達は、会社経営を安定させるのです。
また返済を履行すれば、銀行からの信用を得ることになります。銀行は、融資先に対して情報提供などさまざまな支援を行ってくれる場合があります。なぜなら顧客の業績をサポートすることは、銀行にとっても返済が確実になるというメリットがあるからです。ある企業が海外進出の資金調達で銀行に融資の交渉をすると、現地のビジネス事情やオフィス物件の賃料などの提供を行なってくれたというケースも耳にします。
自己資金のみによる無借金経営は理想です。しかし事業の拡大を目指すなら、いずれ外部からの資金調達を検討する時期がくるでしょう。その時に資金調達法を誤ると、会社経営が不安定になる可能性があります。会社経営を安定させながら事業拡大を目指すなら、銀行融資による「借金経営」のメリットを検討すべきです。
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