2018.01.17 (Wed)

(第23回)

なぜ多くの新卒社員は3年で退職してしまうのか?

 「3年で辞めてしまう新卒社員が3割いる」状況は、この30年間変わっていません。現代の若者たちが3年で企業に見切りをつける主な理由は、「キャリア成長が望めないこと」「拘束時間・企業の方針・社風など企業の内実が採用選考で学生に伝わっていないこと」「適性のない配属」などです。ここではこれらの問題点を掘り下げ、新卒社員側と企業側の意識のズレについて説明します。

「3年で辞めてしまう」の割合は30年変化なし

 厚生労働省発表の「新規学卒者の離職状況」によると、大卒の新卒社員で入社後3年以内に最初の会社を辞める人は全体の3割とのことです。実は、この数字は新卒社員にとって売り手市場といわれた1980年代のバブル時代から30年間変わっていません。1987年をピークに、新卒3年目までの離職率は25~35%の範囲に収まっています。

 厚生労働省発表の「新規大学卒業就職者の事業所規模別離職状況」によれば、採用人数が5人未満の企業では3年以内の離職率は約6割、5~29人の企業は約5割、100~499人の企業は約3割といった数字が出ています。このように、企業の規模が大きくなるほど新卒社員の早期退職の割合は少なくなっていくのですが1,000人以上の規模の企業でも、2割は3年以内に辞めてしまうのです。

新卒社員が挙げる退職理由のトップは

 現代の新卒社員が辞めてしまう原因を調べたデータがあります。厚生労働省の2013年「若年者雇用実態調査」は、一番大きな要因は「仕事が合わない」「人間関係」「賃金」「労働条件」の4つでした。また、転職先の企業に関する口コミを集めたWebサイト「Vorkers」は、新卒入社で3年以内に退職した平成生まれの若手社会人の退職理由をランキング形式で取り上げています。トップだった退職理由は「キャリアの成長が望めない」で25.5%。4分の1が将来のことを考えて転職しています。その後には僅差で「残業・拘束時間の長さ」が24.4%でランクイン。そして「仕事内容とのミスマッチ」は19.8%、「待遇・福利厚生の悪さ」は18.5%、「企業の方針や組織体制・社風などとのミスマッチ」は14.0%と続きました。

 どちらのデータにも共通することは、「仕事内容が合わない」ことと「労働条件の問題」が大きいということです。

 「仕事内容が合わない」という原因にはいろいろな要素が含まれます。入社してみたら企業の業務内容や方針が自分に合わないとわかったり、目指していたものと違ったり、スキルアップにつながらなかったり、そもそも適性の部署に配属されず自分に合う仕事ができなかったりなど、そのケースはさまざまです。「将来のキャリアが望めない」というのも、自身が目指したものと違っていたという点では「仕事内容が合わない」と同カテゴリーと捉えることができるでしょう。

 新卒社員の仕事へのモチベーションに関わる、重要度が高いもののひとつに「配属」があります。大学生向けの就職支援会社アイプラグが2018年卒業予定の内定者を対象に行ったアンケートでは、「配属は入社前に決まっていたほうがいいと思うか」という質問に対し、「はい」と答えた人は65.6%で、「いいえ」と答えた人の5倍以上でした。「はい」と答えた理由としては、「事前に勉強ができる」「決まってないと具体的な業務内容がわからず将来がイメージできない」「(配属は)入社するか、しないかの判断にもなる」というものがあがりました。

 さらにアンケートでは、入社前に配属が決定しなかったと答えた人が53%という結果も発表されています。新卒社員が入社前の配属決定を希望しているにもかかわらず、応えられない企業が多くあるという現状を浮き彫りにしています。

企業と新卒社員で「情報のズレ」はどこで生まれる

 ここで見えてくるのは、新卒社員が企業の内実を入社前に知ることができずに、企業と新卒社員の間に「情報のズレ」が生じていることです。

 そのズレを少なくするには、業務内容や企業の方針、また賃金・福利厚生・労働条件などについて、選考の段階で正確に伝えることにより、学生との認識の相違も少なくなるでしょう。選考時には、ほとんどの学生は業務の詳細までは把握できていません。企業が開示している求人情報が、学生が把握できる情報の大半を占めているのです。

 企業が情報のズレを少なくするには、給与や勤務時間などの労働条件だけでなく、業務によってどのような経験ができ、どんなスキルがつくのか、そして将来どんなキャリアを描けるのかが想像できるような説明をすることでしょう。企業の方針や社風などは、抽象的なことだけでなく、具体的なレベルに落とし込んで、新卒社員に理解してもらうことが大切です。

 近年では企業側でも「社員の適正」と「配属」に新たな手法を用いちるところが出てきました。ユニクロを運営するファーストリテイリングは、新卒社員の受けたSPI(適性検査試験)の結果をもとに、性格をタイプ別に分類し、上司と新人のタイプが同じになるように配属しています。3年以内に新卒社員が離職してしまうのは企業にとっても痛手であり、離職率の改善を意識している企業も少なからずあるようです。

 現代では、終身雇用という概念も薄れ、インターネットの発達などにより転職活動も容易になっています。仕事の選択肢も、以前と比べて世界中に広がりました。そんな時代に、新卒社員とのズレを放置していたら、なかなか離職率は下がらないでしょう。これからは、どんな業務を行っているのか、どんな働き方をしているのかを透明化し、きちんと伝えられる企業が、新卒社員から信頼されるようになっていくのではないでしょうか。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年12月18日)のものです。

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