2021.02.19 (Fri)

(第25回)

慶応病院と東京歯科大学も合併、医療M&Aのいま

 企業だけではなく、医療機関でも行われているM&A。近年、高齢化社会における病院やクリニックの経営コスト増加、後継者不足、人手不足といった問題に伴ってその件数は増加し、近年は新型コロナウイルスの影響で、さらに加速する動きを見せています。医療M&Aとはどのようなものなのでしょうか。ここでは医療M&Aのメリット・デメリットのほか、背景や動向などを、事例を含めて紹介します。

M&A増加の背景は、深刻な人手不足と経営不振

 M&A(Mergers and Acquisitions)は、企業の合併や買収を指す言葉です。民間企業を対象に行われることの多いM&Aが、病院やクリニックで増加している背景には何があるのでしょうか。

 一つには医療従事者の減少に伴う、人手不足の問題があります。日本では医師の数が厳格に制限されており、大学医学部の定員管理や資格試験の難易度上昇などを受けて医師の数は年々減少、医師をサポートする看護師も同様の状況です。

 医療従事者の減少に伴い、後継者不足も深刻になりつつあります。親族が後を継ぐことが多い医療機関ですが、医師に子どもがいないケースのほか、子どもがいても医師ではない、専門分野が違うといった傾向が高まっています。同時に、過疎化傾向にある地方のクリニックは、事業を継続できないと地域住民が医療を受けられなくなるため、安易に廃業できない事情を抱えています。

 診療報酬の改定や消費税増、新型コロナウイルスの影響による受診控えから、経営不振に陥る医療機関も増えています。施設によっては老朽化に伴う建て替え経費や維持費も大きな負担となっており、事業継続の手段としてM&Aを考える経営者が出てきているようです。

 このような背景から見ると、売却側のメリットとしては事業引継ぎによる地域貢献の継続や雇用維持、経営の立て直し、設備強化といった点が挙げられます。一方、買収側のメリットは医療業界以外の企業と医療業界同士で異なります。

 医療業界以外の企業が買収する場合は、利用患者や医療従事者、設備を引き継いだ上で経営が始められること、専門性の高い医療分野へ参入できることなどがメリットとして挙げられます。しかし、医療法人や非営利に対する独自の規制などがあり、経営には高度な専門知識が必要となること、設立母体が個人、行政、社会福祉法人と多様なことにより手続きが煩雑といった理由で、実際に参入するケースは多くありません。

 医療業界同士の場合は、規模が大きくなることで受け入れ可能な患者を増やせるほか、これまでなかった専門分野やサポート体制を充実させることができる点がメリットといえます。とはいえ、売却側となる医療機関の方針転換がサービス低下につながる可能性など、デメリットにも留意する必要があります。

病院や医学系大学のM&A成功事例

 近年行われた医療M&Aにはどのようなものがあったのでしょうか。大規模病院の事例を見ていきましょう。

 2019年7月には、日本赤十字社グループが兵庫県丹波市にある県立柏原病院と柏原赤十字病院の統合再編を実施し、兵庫県立丹波医療センターが設立されました。がん支援センターや脳外科神経外科などの高度な専門医療を行う柏原病院と、婦人科や眼科、内視鏡センターを有する柏原赤十字病院が一つになることで、丹波市の医療連携を強め、より包括的な医療の提供をめざしています。

 異業種による病院の譲渡事例もあります。2017年10月には東芝が経営していた東芝病院を、カマチグループ所属の医療法人緑野会に譲渡しました。東芝病院は1945年に創業。総合医療情報システムの導入などを進める歴史の長い病院でしたが、病院自体と東芝の経営不振から譲渡となりました。カマチグループは病院24、診療所3、学校7、助産院1を運営する大手医療法人です。医療への幅広い知見と技術を持った緑野会への譲渡によって、さらなる医療の質向上が期待されています。

 医療に関わるM&Aは、教育分野でも進んでいます。2020年11月には、慶應義塾大学が東京歯科大学と2023年4月の合併に向けて協議入りすることで合意しました。慶応義塾大学は2008年にもM&Aで共立薬科大学を合併しています。今回の合併が実現すれば、既存の「医」「看護医療」「薬」に「歯」が加わった医療系4学部を、日本で初めてフルラインで持つ総合大学になります。

医療M&A専門仲介企業も登場、今後の動向は

 これまで医療M&Aは特殊性・専門性の高さや、手続きに時間がかかるといった理由から、積極的に進められてきませんでした。しかし、帝国データバンクの『全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)』によれば、病院・医療分野の後継者不在率は73.6%と高く、小規模な病院やクリニックでは事業継続おける後継者問題は待った無しの状況です。介護・高齢者ケアの業界で実績をつくってきた企業や、医療経営コンサルティングを手掛けてきた企業による医療M&A専門の仲介事業も登場しています。他業界のような利益拡大を目指したM&Aは起こりにくいものの、今後、後継者となりえる若手医師に対しての小規模クリニックの事業譲渡を中心に、大規模病院でも再編が進んでいくことが見込まれます。

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