「サーバントリーダーシップ」という言葉をご存知でしょうか。これは、「メンバーを力強く皆を引っ張る」という一般的なリーダーのイメージとは異なる、リーダー哲学のひとつです。
「サーバント(=servant)」とは、使用人や奉仕者を指す言葉です。リーダーとはかけ離れた単語のようにも感じられますが、「サーバントリーダーシップ」という熟語になると「奉仕をすることでチームを成功に導くリーダーシップ」という意味になります。
今回は「サーバントリーダーシップ」がどのような考え方なのか、そしていま求められているリーダー像とはどのようなものなのか、時代とともに変わりつつあるその形について紹介します。
「人間関係の雑用」を担うリーダーの存在価値
サーバントリーダーシップは、1977年にアメリカで生まれた考え方ですが、日本にもサーバントリーダーシップを推進するNPO法人「日本サーバント・リーダーシップ協会」が存在しています。同協会は、サーバントリーダーシップの哲学について「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」と定義しています。
一般的なリーダーシップといえば、「先頭に立って指揮を取り、自分の判断を周囲に実行させる能力が求められる」というイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。しかし同協会では、こうした従来型の指導者を「支配型リーダー」と呼んでおり、「部下の指導がうまくいかない」「職場の雰囲気が重たい」といったデメリットがあるとしています。サーバントリーダーシップは、こうした支配型リーダーと相反する概念として誕生したものです。
サーバントリーダーシップを備えたリーダーには、いくつかの特性があります。それが、「傾聴/共感/癒やし/気づき/納得/概念化/先見力/執事役/人々の成長への関与/コミュニティづくり」の10点です。たとえば「傾聴」は、「話をしっかり聞き、どうすれば役に立てるかを考える。自分の内なる声に対しても耳を傾ける」リーダーのことを、「執事役」は「自分が利益を得ることよりも、相手に利益を与えることに喜びを感じる」ことを意味します。
一見すると、リーダーというよりは、人間関係の“雑用”みたいなポジションだと思うかもしれません。しかし、こうしたリーダーの存在が周囲のモチベーションを上げることにつながり、リーダー自身の信頼獲得にもつながっていきます。
たとえば、リーダーが社内のコミュニケーションの調整を請け負い、従業員が大きく成長できるような社内コミュニティを創出できれば、メンバーが高いパフォーマンスを発揮することが期待できます。個々のメンバーだけでなく、チーム全体が成長できる環境を整えることでチームを成功へ導くのが、サーバントリーダーシップを備えたリーダーなのです。
なぜサーバントリーダーは「今の日本に必要」なのか
同協会で理事長を務める真田茂人氏は、サーバントリーダーシップ」ついて「人間の本質的な資質に基づいたリーダーシップ」とし、さらに「今の日本に必要なリーダーシップ」であると主張しています。
たしかに、サーバントリーダーシップは、これまでの日本ではあまり見られなかったタイプのリーダーシップといえるかもしれません。かつての日本社会では、高度経済成長期に見られたように、皆がひとつの目標に向かって猪突猛進に突き進むのが当たり前でした。そのため、個人の意向よりも、組織の意向を何より優先する支配型リーダーが求められていたのでしょう。
しかし、現在の社会は、ひとりひとりの目標や価値観を重視する風潮へ変わっています。メンバーがリーダーに対する「恐れ」や「義務感」で行動し、リーダーに言われた通りに行動する支配型リーダーシップは、時代遅れのように感じられます。
一方でサーバントリーダーシップは、個人の能力や努力を見極め、部下に密着して導き、タイミングを見て押し上げ、サポートするという考え方です。前述した現在の社会の風潮に適しているといえるでしょう。
加えて、サーバントリーダーの元で働くメンバーは、それぞれのやりたい気持ちで行動し、工夫できるところは工夫しようとする傾向にあります。同協会では、サーバントリーダーシップを備えることで、「ふと気づいたら、いろいろな人がついてきた」「職場に勢いがある」「意外なほど成長している部下がいる」という感覚も得られる、と説明しています。
もちろん、自分独自のやり方を確立しているビジネスリーダーであれば、「サーバントリーダーシップなど必要ない!」という人もいるでしょう。ですが、もし「部下の指導がうまくいかない」と悩んでいるのであれば、サーバントリーダーシップという選択肢があるということを、頭の片隅に入れておいてみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は、記事執筆時点(2016年11月29日)のものです。
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