後継者がいない中小企業や経営に苦しむ小売店などのM&Aが、増加傾向にあります。背景にあるのが、無料で利用できる「M&Aマッチングサービス」の存在です。事業承継による雇用維持や創業者利益の獲得などメリットも多いM&AとそれをサポートするM&Aマッチングサービスについて解説します。
3カ月で成約に至ることも。M&Aの流れとは
M&Aとは、企業の合併や買収のことです。買いたいと考える企業と売りたいと考える企業が、「M&Aの仲介企業に相談する」「地元の信用金庫や会計士に相談する」「M&Aのマッチングサービスに登録する」ことでスタートします。
条件に合う企業が見つかったら面談を行い、事業に対する価値観や条件をすり合わせ、互いの相性を見極めて、デューデリジェンス(評価)を経た上で契約を交わします。契約は、だいたい3~10カ月ぐらいでまとまるケースが多いですが、長い場合は1年、2年と時間がかかることもあります。
M&Aでの売り手側の大きなメリットは、事業が継続できることです。事業を畳むか否かの選択を迫られた企業が「M&Aで復活した」というケースは少なくありません。
最近はベンチャー企業の経営者が、自社の成長のためM&Aを選択するケースも見受けられ、「独立子会社として事業を行う」「M&A後も社長として会社に残り舵取りを継続する」「従業員の雇用は維持」など、売り手の希望を尊重した契約の事例も多々あります。
莫大な売却益、企業崩壊、M&Aメリットデメリット
M&Aでは、企業の価値によって数百万円~数億円単位の創業者利益(売却益)が手に入るメリットもあります。そういったケースでは、売却益を原資に新たな事業を始めるという選択肢も生まれます。
一方で、「自身の役職が保証されないことがある」「キーマン条項(ロックアップ)と呼ばれる活動制限がつく」「価値観が異なる企業に買収されると文化や伝統が壊れる可能性がある」といったデメリットも存在します。
とはいえ、M&Aが事業継続や事業成長の有効な手段のひとつであることは間違いありません。不測の事態によって事業の継続が行き詰まったとき、新たな事業に挑戦したいと考えたときなどには、M&Aも視野に入れておくと選択肢が広がるでしょう。
個人店舗や小規模企業の「スモールM&A」が活況
昨今、M&A市場を盛り上げているのが「スモールM&A」と呼ばれる小規模事業者を対象にしたM&Aです。おもに飲食店、美容室、クリニックをはじめとする店舗事業者や、年商1億円以下の小規模企業を対象としており、マッチングサービスもあります。どのような売り手がどんな条件で買い手を探しているのか、下記に挙げる代表的なマッチングサービスなどで確認してみると分かります。
Batonz
M&A仲介大手の日本M&Aセンターが立ち上げたM&Aプラットフォーム(現在は株式会社バトンズが運営)。3カ月以内に成約に至る案件も多数あり。売上高数百万円~数億円の企業が幅広く登録している。専門家によるサポートも手厚い。
TRANBI
国内最大級のM&Aプラットフォーム。1社につき平均15社の買い手が集まり、成約率が高い。M&Aに関するコラムや動画も多数アップされており、基礎を学びたい人にも役立つ。
ビズリーチ・サクシード
ビズリーチやキャリトレを運営するビジョナル株式会社が展開するM&Aプラットフォーム。買い手は審査を通過した法人のみ。売上高数千万円~数億円規模の案件が揃う。
これらのマッチングサービスの特徴は、多くの場合、無料で利用できることです。従来型のM&Aの場合、売り手側、買い手側、双方に営業担当者がつくため最低でも数百万円の手数料がかかります。マッチングサービスは、M&Aの増加を後押しするひとつの要因になっていると言えます。
M&Aのほかに、大手企業が他企業の顧客向け事業を支援するBBXと呼ばれる提携形態も、事業継続や事業成長のひとつの手段として注目を集めつつあります。自然災害、感染症など、予測不可能な事態が続く昨今。企業の生き残りのカギとして、M&Aをはじめとするマッチングやコラボレーションへの注目はますます高まっていくでしょう。
連載記事一覧
- 第1回 ソフトバンク副社長の退任から考える、後継者問題 2016.08.26 (Fri)
- 第2回 「内定辞退」を出さないために企業がすべきこと 2016.09.08 (Thu)
- 第3回 部下に好かれる上司は無能?シビアな内容の本に学ぶ 2016.10.06 (Thu)
- 第4回 副業、在宅勤務OK。多様な働き方が企業に与える効果 2016.10.20 (Thu)
- 第5回 現場で優秀だった人こそ危ない、ダメな管理職の特徴 2016.11.02 (Wed)
- 第6回 部下の心を開くちょっとしたコミュニケーション技術 2016.11.14 (Mon)
- 第7回 日産と日立の例に学ぶ、新たなリーダーの育成法 2016.11.24 (Thu)
- 第8回 管理職は社員の勤怠と体調を管理できているか 2016.12.15 (Thu)
- 第9回 現代に求められる上司像「サーバントリーダー」とは 2016.12.22 (Thu)
- 第10回 人気ドラマ「逃げ恥」に学ぶ部下のやる気を引き出す方法 2017.01.10 (Tue)
- 第11回 社員が「コスト削減」に意欲的に取り組む4つの方法 2017.01.11 (Wed)
- 第12回 上司のこんな言動が、部下を精神的に追い込む 2017.01.23 (Mon)
- 第13回 部下に対する「ちょっとした質問」が成長を促す 2017.01.26 (Thu)
- 第14回 クレームは対応次第でチャンスになる 2017.02.16 (Thu)
- 第15回 中小企業の採用活動を助けるユースエール制度とは? 2017.02.28 (Tue)
- 第16回 「キーマン不在で仕事が回らない」を防ぐために 2017.04.25 (Tue)
- 第17回 カルビーがテレワークを「毎日OK」とした理由 2017.04.26 (Wed)
- 第18回 仕事の効率を上げるオフィスカジュアルのすすめ 2017.06.26 (Mon)
- 第19回 借金で会社経営が安定!?資金調達は計画的に(前編) 2017.07.12 (Wed)
- 第20回 借金で会社経営が安定!?資金調達は計画的に(後編) 2017.07.18 (Tue)
- 第21回 「乾けない世代」30代以下の価値観が企業を変える 2017.12.07 (Thu)
- 第22回 職場の育児・介護意識を変える「両立支援助成金」 2017.12.21 (Thu)
- 第23回 なぜ多くの新卒社員は3年で退職してしまうのか? 2018.01.17 (Wed)
- 第24回 コロナで活況「スモールM&A」という選択肢 2020.06.26 (Fri)
- 第25回 慶応病院と東京歯科大学も合併、医療M&Aのいま 2021.02.19 (Fri)
- 第26回 ABWとは?フリーアドレスやテレワークとの違いは? 2021.02.19 (Fri)
- 第27回 約3割がオフィス縮小を希望、始め方・進め方は? 2021.02.19 (Fri)
- 第28回 Googleや味の素も注目、「無意識の偏見」のリスク 2021.06.03 (Thu)
- 第29回 日本版ワーケーション成功の合言葉は「ワクワク感」 2021.07.01 (Thu)
- 第31回 先進企業に見る、男性育休取得の3つのメリット2023.03.06 (Mon)
- 第32回 Z世代の知見生かす「リバースメンタリング」の効果2023.05.30 (Tue)
- 第33回 DE&I推進がもたらす、イノベーション創出と人材確保2023.06.13 (Tue)
- 第34回 米国では標準化。セキュリティの新たな考え方「SBOM」2023.09.08 (Fri)
- 第35回 増える「ビジネスケアラー」介護離職を防ぐカギは2023.10.04 (Wed)
- 第36回 10月から開始「ステマ規制」で何がNGになるのか?2023.10.04 (Wed)
- 第30回 国内企業も続々実施、企業の長期的な成長に必要なSXとは2023.01.30 (Mon)