世界的なデザイナーとして常に現役で活躍し続けるコシノジュンコ氏。近年はファッションのデザインに留まらず、インテリアや食、花火のデザインなど、幅広い仕事を手掛けている。
現在は、2020年東京五輪組織委員会の文化・教育委員としても活動中。また、お笑い芸人のブルゾンちえみ氏と親子役で共演したNTTドコモのテレビCMでも話題となった。
年齢と経験を重ねてなお、新しいことに挑戦し続けるコシノジュンコ氏の原動力とは? 日本に対する思いや、東京オリンピックとこれからの経済界に期待すること、ブルゾンちえみ氏との関係、仕事に対する姿勢などについて語っていただいた。
4,000万人の外国人観光客がやってくる「東京オリンピック」とは
――ジュンコさんは、2020年東京五輪組織委員会の文化・教育委員を務めていらっしゃいます。東京オリンピックに対しての思いや、期待することなどあればお聞かせください。
日本政府は、東京オリンピック開催の2020年に訪日外国人観光客数を4,000万人に増やす目標を掲げています。これだけ多くの外国人がやってくるわけですから、変化がないわけがありません。2020年は、人の流れや街の様子、言葉や価値観など、あらゆるものが激変する、大きな転換点となることでしょう。
よい変化を起こすために意識してほしいのが、「東京オリンピックは東京だけのものじゃない、日本のオリンピックなんだ」ということ。インバウンドで来日した外国人たちは東京だけにとどまらず、きっと日本国内の、あらゆる土地に出向くはず。日本中のいたるところに外国人がやってくるようになると思うのです。ところが東京以外の地域では関心の薄い人が多いようなのです。
日本で行われるオリンピックは、もしかしたら、多くの人にとって人生で一度きりになるかもしれません。だから、もっともっと意識して、積極的に参加をしてほしい。オリンピックは、なにもスポーツを競うためだけの大会ではありません。人が集まり刺激が生まれる、“文化のお祭り”のようなもの。日本全体で盛り上げて、日本という国の美しさや魅力、文化を、世界中に発信できるとよいなと思っています。
――国際的な大イベントにしては、東京以外での盛り上がりに欠けていると……。少子高齢化を迎える日本にとって、インバウンドは、とても重要なトピックスです。いかに多くの外国人観光客を迎え入れて共生するかが、成長のカギを握っていると言っても過言ではありません。にもかかわらず、なぜ盛り上がりに欠けているのでしょうか? 盛り上げるための施策のようなものはありますか?
日本人ならではの閉鎖的な国民性が影響しているのかしれませんね。それから、文化大臣がいないというのもネックになっているのかと感じます。欧米諸国には、元アーティストやクリエイターという経歴のある優れた文化大臣が置かれていることがほとんどです。豊かな感性を持ったリーダーが組織のトップに立って、自国の魅力や文化を発信しています。これにならって、日本にも文化大臣を置けばよいと思いますね。それが難しいなら、地域に文化大臣のようなポジションの人材を置けばいい。クリエイティブな視点で、力強く、文化の発信をけん引する人がいれば、イベントなどの盛り上がりもだいぶ変わるのではないかと考えています。
日本の魅力を再発見し、2025年の大阪万博につなげたい
――1964年に開催された1回目の東京オリンピックと、今回のオリンピックとの“違い”について教えてください。
1964年のオリンピックは、右も左もわからずに、とにかくがむしゃらに開催したという感じでしたよね。インフラを整え、建物を作り、グラフィック関連のデザインを整理して……。「足りないものを作る」「必要なものを完成させる」ということに力を注いだオリンピックだったように思います。
一方、今回の東京オリンピックは、「必要なものがきっちりできた上でのオリンピック」だと思うのです。1回目の東京オリンピックと高度成長期のなかで完成されたものがたくさんあり、今回はそれを踏まえて“整理”をすることが求められている。日本の美や日本の魅力、日本らしさを見つめなおし、整理して、出来上がったインフラを礎にしつつ文化を発信していかなければならないのではないかなと考えています。
――ジュンコさんが発信したい「日本の美」「日本の魅力」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
たくさんあるのですが……。たとえば、日本各地のお祭り。日本には岸和田のだんじり祭りやよさこい祭り、阿波踊りをはじめ、100万ちかい人が集まるような祭りがたくさんあります。また電車やお店に整然と列を作って並ぶところも、日本人らしい素晴らしい文化だと思います。他にも温泉や着物文化など、日本独自のものがたくさんある。こんなに文化的な国は、多くはありません。私たち日本人は、そこにもっと誇りを持つべきだと思うのです。東京オリンピックを契機に、「世界から見た日本」「世界が求める日本」が、より明確になるとよいなと思っています。
――文化とともに経済界へ期待することはありますか?
東京オリンピックは人やものが大きく動く千載一遇のビジネスチャンスです。が、ただものを売る、自分たちのビジネスを成功させるという視点だけでなく、文化を広めるのだという意識を持ってほしい。東京オリンピックに関わる企業や組織には、責任があります。そこをしっかりと自覚して準備を進めていただきたいですね。
また次のビジョンを持ってほしいなと思います。オリンピックというと、開催・成功・閉幕がゴールで、あとはその遺産をどうするかということが注目されがちです。でもそれだけでは、つまらないじゃありませんか。次のビジョンをも考えるほうが生きがいになるし、前に向かってなにができるかという可能性を考えたほうが成長になる。つねに次はなにをするかということもを考えていただけると嬉しいですね。
人生を楽しみ挑戦を続けるコシノジュンコの原動力
――新しいことに積極的に挑戦されているジュンコさん。最近では、ブルゾンちえみさんと共演したNTTドコモのテレビCMが話題になっていますよね。
売れる前からブルゾンさんが「コシノジュンコに似ている」と言われていたようで、私にずっと会いたいと思ってくださっていたみたいです。2016年の8月、私の誕生パーティーに来てくださったことで対面が叶い、以降、よいお付き合いが続いています。全国どこに行っても「ちえみの母」として知られており、特に子どもたちに喜ばれているんですよ。駅や空港など、どこでも大騒ぎで、反響の大きさに驚いています。
――テレビCMでブルゾンさんと、スマートフォンで楽しそうに写真を撮っているシーンがありました。実際にスマートフォンやタブレットなど、活用していらっしゃるのでしょうか?
スマートフォンはつねに持ち歩いて活用しています。友人とのツーショット写真を撮ったり、ラジオが聴けるアプリで自分のラジオ番組(毎週日曜17:00~TBSラジオ「コシノジュンコMASACA」)を聴いたり……。あと、ちょっとした調べものをするのにも便利ですよね。若い人だけでなく、ご年配の人もスマートフォンを持っているのが当たり前という時代です。また、東京オリンピックのため来日する外国人も、その多くがスマートフォンを持っていることと思います。無料Wi-Fiなど、スマートフォンをストレスなく利用できるような環境が日本で整っていれば、外国人も助かるでしょう。
――ブルゾンさんのような若い才能と楽しく交わりながらテレビCMやラジオの出演をこなし、ファッションだけでなくイベントなどのプロデュースも手掛け、さらに東京オリンピックや大阪万博の委員や特使としても活躍していらっしゃる。現在も月に1度は海外に出向かれると聞いています。これだけマルチに、精力的に活動ができている原動力となっているものはなんなのでしょうか?
好奇心と集中力でしょうか。どんなことでも楽しんで、遊びながら取り組むようにしています。また、仕事は後回しにせずに、すぐやることを心がけています。つねに自分の世界観を持ち、自分のためでなく人のために仕事をすることも忘れないようにしていますね。「世界観」「他者利益」、そして「チームワーク」。これらを大切に仕事に取り組めば、必ず、結果につながると思いますよ。
コシノジュンコ
大阪府岸和田生まれ。文化服装学院デザイン科在学中、新人デザイナーの登竜門とされる装苑賞を最年少で受賞。東京を拠点に活動し、1978年のパリコレクションを手始めに北京、ニューヨーク、ベトナム、ポーランドなど世界各地にてショ-を開催。2006年に「イタリア連帯の星/カヴァリエーレ章」受勲、2009年に「モンブラン国際文化賞」を受賞するなど、世界から高い評価を得ている。オペラやブロードウェイの舞台衣装、スポーツユニフォームといった服飾デザインのみならず、インテリアや食、花火のデザインも手がけるなど、幅広い分野で活躍中。東日本大震災発生以降、復興支援活動にも力を入れている。2011年10月~2012年3月、コシノジュンコ氏の母・小篠綾子をモデルとしたNHK連続テレビ小説「カーネーション」放映。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員、2025年国際博覧会誘致特使、文化功労者。毎週日曜17時~TBSラジオ「コシノジュンコMASACA」放送。
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