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【特別企画】スペシャルインタビュー「あの有名人が語る!」(第9回)

ビジネスマン兼教育者、藤原和博氏が日本企業を斬る

posted by 小池 晃臣

 リクルートで要職を歴任し、さらにはメディアファクトリーを創業するなどビジネス界で活躍した後、47歳で突然教育界へと転身し、東京都初の民間人校長として、杉並区の中学校の校長を5年間務めた、“ビジネスマン兼教育者”の人物がいる。現在は奈良市立一条高等学校の校長を務めている、藤原和博氏である。

 区立和田中学校の校長時代は、さまざまな立場の社会人を講師に招き、世の中を学習する「よのなか科」の創設や、学習塾と連携した有料課外授業「夜スペ」を実施した。その革新的な試みは、教育以外の世界でも広く知られるところだ。さらに、著書77冊・累計130万部という売れっ子著述家でもあり、講演会は1,000回を超える人気講師でもある。

 ジャンルを越えた活躍を続ける同氏に、日本の教育界、そしてビジネス界が今抱える問題点について聞いた。

「みんな一緒」に頑張れば成功した時代は、20世紀で終わった

──藤原さんの目に、いまの日本のビジネスや教育の世界はどのように映っていますか

 日本の社会全体に「正解主義」、「前例主義」、「事なかれ主義」が蔓延しているように見えます。そのベースにあるのは、この3つの主義で成り立っている日本の教育システムである、というのが私の持論です。学校という場所が、記憶に頼りつつ正解を導き出すための技術を教える場と化して久しくなっています。結果、前例にはない行動を好まない、リスクのあるチャレンジを回避しようとする社会を生じさせてしまっているのです。

 もっとも、正解主義がすべて悪いというわけではありません。「みんな一緒」に頑張れば全員で1歩ずつ上へと行けた、20世紀の「成長」社会であれば正解主義でもいいんです。しかし21世紀に入り、日本が「成熟社会」へと大きく変わりました。価値観は多様になり、社会も複雑化しました。そうなると、もはや「正解」はひとつではなくなってきています。

 いまビジネスの世界では、次のような資質を持った人材が求められています。まず、自分自身が仮説を立て、問題を解決するいくつかの選択肢を見つけることができる人物。次に、その選択肢を試行錯誤しながらチャレンジし、その結果を見て、選択肢を選んでいける人物。つまり、「修正主義」に根付いた行動ができる人材です。

 私は、これから日本が国際社会で戦っていくためには、日本人のマインドに占める正解主義と修正主義の割合を7:3ぐらいにまでしなければいけないと考えています。

 しかしいまはまだ、95%は正解主義で占められているのではないでしょうか。日本の社会が本当の意味で正解主義から修正主義へと変わることができるよう、教育のあり方から変えていかねばと、私自身もリスクをおそれずに修正を繰り返しつつ、さまざまなチャレンジをしているところです。

これからの時代に求められる「情報編集力」を身につけるには

──正解主義から修正主義にマインドを変えるためにはどうしたらいいのでしょうか

 まずは、“とにかく正解を当てたい”というマインドを捨てて、“ミスしてはいけない”という呪縛から自由になることでしょう。そうすることでだんだんと修正主義が根付いていきます。

 正解主義の社会では、少しでも素早く正解にたどり着くことができる「情報処理力」が求められていました。それに対し修正主義は、正解がひとつではないため、自分自身の知識・技術・経験のすべてを組み合わせて、その時々の状況の中で最も納得できる「解」を導き出すことのできる「情報編集力」が大きく求められることになります。

 この、修正主義を身に着けた情報編集力の高い人材こそが、多様な価値が存在する成熟社会でイノベーションを起こし、ビジネスを成長させることができるのです。情報編集力を身につけて、いまやっている仕事で何かしらのイノベーションを起こすことができれば、100人に1人の人材となることができるでしょう。

──情報編集力を養うために、教育現場で実施している試みは何かあるのでしょうか

 高校では、生徒自身のスマートフォンを用いた授業を進めていて、たとえばGoogleの検索を使うことも許可しています。また、意見を募る際には、それぞれのスマートフォンから生徒が意見を書き込み、教員のタブレットや教室の前方のプロジェクターで一覧で投影します。
 こうすることで、全員の生徒が自分なりの意見を出しやすくなり、より良い意見を修正しながら作り出していく作業法を身につけることができます。

 もしも教師が「何か意見のある人」と口頭で言うだけでは、意見を出してくれるのは、小学校の頃から手を上げ慣れている成績優秀者か、あと少しの目立ちたがり屋(笑)だけになってしまいます。

 生徒たちは普段からSNSなどに自分の考えを打ち込むことに慣れていますから、私用のスマートフォンを使うことで、抵抗なくどんどんと意見を出してくれます。個性的な意見がスクリーンにずらっと並ぶ様は実に壮観で、彼らのアイディアにいつも驚き、感心させられています。

──いまの子ども達は、話す速度よりもスマートフォンで打ち込んだほうが速いぐらいですからね

 そうなんです。もう私たちの世代とは人種が違いますよ(笑)。スマートフォンが手足どころか脳の一部になっていますから。そんな貴重な能力を教育の現場で活かさずに、むしろ封じてしまっているのはどうかと思います。

 先にお話したような学校でのスマートフォン活用を、私は人間のコミュニケーションをより深くへ導くための誘い水だと考えています。そして、打ち込んでもらった生徒の思いや考えを、教師へと逆流させることができます。

 教師もまた、これまでのようなひとつの正解を探すのではなく、新しい授業のかたちを楽しめるようになっていきます。こうして一歩ずつ正解主義を打ち砕いていければと、チャレンジしているのです。

「修正主義」にシフトしない企業は厳しい

──学校ではなく、職場で情報編集力を鍛える方法はありますか

 私が最初におすすめしたいのは、ブレインストーミングですね。正解のないなかで「納得解」(周囲が納得できる解決策)を紡ぎ出すには、人と人の脳をつなげて脳を拡張していくことが効果的です。それこそが情報編集力を高めるコツになります。

 最初から完全な解を出そうとせずに、まずは参加者それぞれが頭に浮かんだアイデアを次々と口に出してみて、それらについて忌憚なく意見を交換する。そんなブレインストーミングを実践することで、修正主義にも基づいた脳ができあがっていくのです。

──修正主義へとシフトしなければ、これからの企業は厳しいということでしょうか。

 はっきり「イエス」だと言えます。今後、成熟社会がますます進んで、正解のない課題が圧倒的に増えていくのは間違いありません。とりわけ2020年の東京オリンピック・パラリンピック後に、その流れは加速するはずです。

 そのときに立ちはだかる数多くの困難な課題へと立ち向かう力は、情報編集力を置いて他にありません。なので少しでも早くから学校で修正主義に基づいた教育を行わねばならないと思い、周囲を巻き込みつつ取り組んでいるところです。

後編に続く》

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小池 晃臣

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