「Why Japanese People!?」のフレーズでお馴染みのお笑いタレント「厚切りジェイソン」ことジェイソン・D・ダニエルソン氏。同氏には、クラウドサービス企業・テラスカイの役員というもう1つの顔もある。
会社役員と人気芸人という二足の草鞋を履き続ける同氏に、2つの顔の両立のしかたや日本の企業文化・ビジネスに対する本音を聞いた。
昔から「二刀流」が当たり前だった
──現在、人気お笑いタレントとIT企業の役員という “二刀流”を実践されているわけですが、このような状況になったきっかけは?
まず会社の方についてですが、一年飛び級して入ったミシガン州立大学を卒業した後に、ゼネラル・エレクトリック(GE)グループで3年間働いていまして、この間に仕事と並行してイリノイ大学の大学院で修士を取得しました。修士課程では日本語検定一級も取得しています。
その後、シカゴのITベンチャーに転職して、会社が日本法人を立ち上げるということで2011年に来日したんです。ちなみに2005年にも約1年間日本で暮らしていますので、2011年は“再来日”になりますね。
やがて一年後に会社が大手IT企業に買収されることになったのですが、私は日本のいわゆる「大手企業」では働きたくなくて、自分の実力を活かしやすいベンチャー企業でもっと活躍したかったため次の会社を探していました。ちょうどそんな折に、テラスカイが2012年8月にカリフォルニア州で現地法人を立ち上げるというので、私も参画することにしました。
──仕事をしながら大学院にも通うとは、当時から二刀流を実践していたんですね
そう言われてみればそうですね!
お笑いタレントになったきっかけですけれど、私はずっと日本の“お笑い”が好きだったんです。その中でも大ファンなのが、お笑いコンビの「ザブングル」でして、ある日、彼らの公演を観に行った時に、ひょんなことから観客である私が舞台に上がって、メンバーの加藤歩さんと腕相撲で対戦することになったんです。そうしたら私が勝ってしまったため、加藤さんが悔しがって「一緒に飲もうよ」と(笑)。
この出来事がきっかけとなって、お笑いタレント養成所の「ワタナベコメディスクール」に入学して、卒業後の2014年9月に晴れてデビューすることができました。
今でも厚木から東京まで電車通勤。つり革に掴まりながら……
──その後のお笑いタレントとしての活躍ぶりは、ここで語るまでもないでしょう。それにしても、いまや各メディアや講演などにひっぱりダコという中にあって、会社役員との両立は身体的にも時間的にもかなり大変ではないのでしょうか
もちろん、とてもとても忙しいですよ。最近は睡眠時間も減ってきていますし。だけど、テラスカイで私が担当しているのはアメリカ法人ですので、西海岸とは16時間ないし17時間の時差がありますから、これをうまく活用しています。
たとえば日本で深夜だと、ちょうど向こうはビジネスタイムが始まったぐらいの頃ですので、自宅から電話会議やWeb会議で現地の人たちとの会議に参加したりしています。会議の時間はだいたい30分から1時間ぐらいですね。そして昼間のほとんどを、芸人としての活動時間に充てているんです。ただし毎週月曜日の午後は日本橋の本社で会議があるので、それにはほぼ欠かさず出席しています。
出社やタレント活動のために、神奈川県の厚木から通勤しているのですが、この時間はネタ作りや勉強のための貴重な時間となっています。昨年11月に出版した拙著「日本のみなさんにお伝えしたい48のWhy」も、ほとんど通勤電車の中でつり革につかまりながら執筆したんですよ。
「飲み会」「残業」の時間は別のことに割り当てる
──そのような超多忙なスケジュールの中にあって、モチベーションを維持する秘訣はありますか?
そういうのはあまり意識したことはないんです。だって、多くの日本のビジネスマンが飲み会や残業に使っている時間を、私は別のことに割り当てているだけですから。あくまで時間の使い方や時間に対する捉え方の違いであって、私の中では今の生活パターンもいたって自然なことです。
あと、いくら仕事が忙しいとはいっても、家族とのコミュニケーションを最優先しています。たとえば今朝も、妻と1時間ほど会話した後に、娘を幼稚園に送り、その後に都内に通勤してラジオに出演しました。だいたい毎朝、娘を送っていきますが、それは義務でやっているのではなく、心からやりたくて、楽しんでやっていることです。
──仕事をするうえで、芸人であることがメリットになると感じられることはありますか?
やはり人と話しやすくなりましたね。プレゼンスキルの向上にもかなり役立っていて、人に興味をもってもらいやすくなりました。
それと、ちょっといやらしいことを言いますと、以前であればとても会ってくれなかったような立場の人にもすぐに会ってもらえるようになりました。例えば日本の大手企業の偉い人なんか、ベンチャー企業の社員ではそう簡単に会うことができませんでしたが、「ああ、あの“Why?”の人!」と喜んで会ってもらえるんです。だから、前よりもっと、いろいろな面白い人と、面白い話ができるようになったのが、芸人をしていることの仕事上のメリットでしょうか。
●後編はこちら
厚切りジェイソンが力説!日本企業はココがおかしい
厚切りジェイソン
本名:Jason David Danielson(ジェイソン・デイヴィッド・ダニエルソン)。1986年、アメリカ合衆国ミシガン州生まれ。ミシガン州立大学、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の大学院を卒業し、現在はIT企業の役員と芸人の二刀流で活躍している。著書に『日本のみなさんにお伝えしたい48のWhy』。7月より英語学習アプリ『厚切り英単語』をリリース。
連載記事一覧
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- 第2回 厚切りジェイソンが力説!日本企業はココがおかしい 2016.08.26 (Fri)
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