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【特別企画】スペシャルインタビュー「あの有名人が語る!」(第20回)

PlayStation開発 120%の力の使い道

posted by 小池 晃臣

 株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント 取締役 副社長を務める 伊藤雅康氏は、カーオーディオの世界からゲームの世界へと転身し、「PlayStation®2」以降の歴代PlayStation®シリーズなどの発展に貢献し続けてきた。

 同氏は今、家庭用ゲーム機の「PlayStation®4(以下PS4®)」、バーチャルリアリティシステムの「PlayStation®VR(以下PS VR)」や、携帯ゲーム機「PlayStation®Vita(以下PS Vita)」など、同社のハードウェアであるゲーム本体や周辺機器に関する技術を統括する立場にある。

 しかし家庭用ゲーム市場は、スマートフォンなどの発達で、ゲームを楽しむ機器の形態は多様になり、近年は国内市場の規模や内容が変化してきている。そうした状況下で、ゲーム機器の開発をまとめる同氏にゲーム機における「ものづくり」について話を聞いた。

10年先を見据え、最先端であり続けるために

──PlayStation®シリーズを発展・成長させていくうえで最も苦労したのはどんな点ですか。

 ハードであるゲーム機器は1つの世代が約6年から10年と使われ続けますので、その時点での最先端の技術や規格であり、また発売後10年経っても古くならないものを見極めるのに苦労しました。最先端の技術であっても、10年後に消えてしまっては意味がありませんから。

 もちろん、PlayStation®が売れることで規格や技術が普及していくという要素も加味して考える必要があります。たとえば、「PlayStation®3(以下PS3®)」ではBlu-ray Disc(ブルーレイディスク)とHDMIを採用しましたが、発売当時はまだ普及段階でしたから。

──言われてみれば、ブルーレイもHDMIも今では普及し、特別な規格ではなくなっていますね。PS4®の開発も、従来と同じようなアプローチだったのでしょうか。

 PS3®と同様に10年先を見据えた最先端の技術や規格を見極めることに注力しました。しかしPS4®では、これまでのような最先端の技術を惜しげもなく使い、世の中にないものは自分で作るというアプローチから少し方向転換しました。

 まず誰もが買い求めやすい価格を念頭に置いて、ハードウェアに必要なスペックを決めた後、全部を自分で作るのではなく、外から持ってこられる技術は積極的に取り入れていくという方針です。たとえばCPUがそうです。

 PS3®ではCPUも自社開発しましたが、どうしても莫大なコストがかかってしまいます。そこでPS4®では、他社製のCPUをPS4®向けにカスタマイズしたものを採用したのです。これも最先端の技術ですが、独自に開発するよりも遥かにコストを抑えることができました。

──結果的にPS4®は世界累計販売台数が6,040万台(2017年6月時点)とヒットを続けています。苦境といわれる家庭用ゲーム業界にあって、広く人々から受入れられたPS4®のスペックや機能は、どのような過程から導き出されたのですか。

 PS4®の開発では、これまで以上にユーザーがどういったものを欲しているのかを主眼に置くようにしていました。

 ユーザーが欲するスペックや機能を決定するに当たっては、ハードウェアだけではなく、ソフトウェアそしてネットワークやサービスに関わる内外のさまざまな人々から、積極的に声を聞くようにしたのです。たとえばサービスであればアメリカ西海岸が最先端ですので、現地の本社の人間を巻き込んで、ヨーロッパ、そして日本のスタッフも交えて、人々がどんなサービスを求めているのか何度も議論を重ねました。

 その議論では、ハードウェアとソフトウェアのエンジニア、ゲームクリエイターなど、部署も職種も違うさまざまな人間が参加して意見をぶつけ合うので、最初のうちはなかなかまとまらなかったのですが、時がたつにつれてだんだんと同じ方向に集約されていったのです。

 どの分野からもリスペクトされている、プロダクトの全体設計を担うアメリカ人のリードアーキテクト、マーク・サーニー(Mark Cerny)氏がいるのですが、彼が皆の意見をまとめる役を担ってくれたのが大きかったですね。私もこれまでの実績や付き合いなどから彼を高く評価していますので、一部最後までまとまらないところは私が引き受けたものの、ほとんどは彼を信頼して任せるようにしました。

市場縮小が言われる中でも「ユーザー」のために

──2016年は国内市場全体で3,000億円を割るなど、家庭用ゲーム市場は縮小傾向にあると言われます。そうした逆境にどのように立ち向かっていくのでしょうか。

 特に日本では、スマホゲームが拡大を続けていています。ライフスタイルが変化して家でじっくりと過ごす時間がとりにくくなりつつある中で、通勤中や外出先のちょっとした空き時間などにも手軽に遊べる点が受けているのでしょう。

 対して家庭用ゲーム機の場合は、基本的にはそれなりにまとまった時間が必要になります。しかしPS4®に対する世間の反応を見ていると、まだまだ家庭用ゲーム機の市場は強いと確信しています。なぜならば、本当にゲームが好きな人々に愛されているからです。

 だからこそ、ライフスタイルが変わって来ている中で、手軽にゲームで遊びたいというライトユーザーと、じっくりゲームに向き合いたいというヘビーユーザーの両立をいかに図っていくかが、我々は取り組むべき大きな挑戦であると考えています。

 たとえば、PS4®のようにハードウェアが高性能になると、ゲームの開発側は自分達の思いをどんどんとつぎ込んで壮大なものに仕上がっていきます。しかし、行き過ぎると初心者には難解だったりクリアーできなかったりと敷居が高くなってしまうので、そこはゲーム開発会社とよく話し合ってバランスをとるよう心がけています。

 PlayStation®はコアなゲーマーが育ててくれたという側面が強い商品で、絶対に彼らの期待に応えるゲーム機でなければいけません。彼らが満足するものを今後もつくり続けねばならないと肝に銘じています。

 ただ、それと合わせて、初心者や時間のない人たちにも入り込みやすいようにしなければならないのは確実なので、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、コンテンツといったそれぞれの境界を超えた議論を進めているところです。

世界と連携しながら取り組む日本の「ものづくり」

──グループ企業の再編に伴う人事として2016年4月に取締役副社長に就任したことで、大きく変わったことは何でしょうか。

 グローバルでグループの組織編成が大きく変わり、本社がアメリカ西海岸に移って、日本側ではハードウェアを担当するという形になりました。その統括を私が担っているわけですが、以前からグローバルでのハードウェア開発を統括していましたので正直やっていることは大きくは変わっていません。ただ、今度は日本が中心となってハードウェアを担当するとなったことに大きな意味があると考えています。

 私の中ではやはりものづくりは日本が1番だという思いが強いので、ここは手放してはいけないなと。と言っても、ハードウェアは日本がやるのだと強行に進めるのではいけません。やはり、ネットワークやコンテンツ、ソフトウェアのビジネスの人々を巻き込んで議論を重ねながら、ハードウェアの設計はしっかり日本でやっていく。これからはより一層、そんな姿勢を貫いていく構えです。

──PlayStation®シリーズの今後について聞かせてください。

 日本では子どもにゲームを楽しんでもらうことが大事だと考え、子どもたちに受け入れられるような製品展開を念頭に進めています。PS Vitaで遊んだ小学生が成長したら、今度はPS4®で遊んでくれる、というような展開を描けるハードやソフトを含めた商品構成が理想です。

 ハードを開発する側としては、大人に成長してもずっとファンでいてくれるように魅力的なものづくり続けていかねばいないと考えています。

 その商品構成の1つとしてバーチャルリアリティシステムのPS VRを開発しました。PS VRにはゲーム以外にも様々な分野に応用できる可能性があると見ています。そのため、これまでとはちょっと違ったアプローチについても現在検討を進めているところです。

「ユーザーのため」がものづくりのモチベーションに

──カーオーディオ、ゲーム機器と、これまで手がけきた経験の中で、今も仕事のモチベーションとなっているものはありますか。

 最初に自分が設計したカーステレオが店舗に並んでいるのを見た時の感動ですね。自分がつくった製品が市場に出回り、それをユーザーが手にとって喜んでくれるというのが、ものづくりに携わる人間として一番の喜びなのです。それが私の原点にあって、今も変わることはありません。ものを設計する時には、“これをユーザーはどう感じるのか”という視点を決して忘れないよう心がけています。たとえば、子どもはPS Vitaで何にワクワクを感じるのか、PS VRをゲーム以外に使ったら、ユーザーは新鮮に感じるのかなどです。

 そのため、ユーザーにとって絶対に便利だと信じられるのであれば、少々無理をしてでも機能を追加することも厭わないつもりです。そのためにも、120%の力を出せるチームであり、世の中にないものをつくる組織を常に目指しています。

インタビュー:小池 晃臣

伊藤 雅康(いとう まさやす)
1962年、京都府京都市生まれ。1986年、早稲田大学理工学部を卒業後、ソニー株式会社オーディオ事業本部 AS事業部に入社。2000年、株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントに入社以降、PlayStation®シリーズの設計・開発を手がけ、「PlayStation®4」や「PlayStation®VR」などのハードウェア開発にも責任者として携わる。2016年より株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント 取締役 副社長 ハードウェアエンジニアリング&オペレーション本部長に就任。

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取材ライター

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