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【特別企画】スペシャルインタビュー「あの有名人が語る!」(第14回)

一風堂が目指す「変わらないために変わり続ける」とは?

posted by 篠原 克周

 福岡・博多でスタートしたラーメン店「一風堂」を手始めに、いまや売上高208億円(2016年3月期)を超える企業へと成長した株式会社 力の源(もと)ホールディングス。

 本連載の前編では、代表取締役社長の清宮俊之氏に、力の源ホールディングスに入社するまでの人生を振り返ってもらった。後編では、社長就任時の苦労話をはじめ、同社の海外事業や地域活性化への取り組み、ラーメン業界が挑むITや科学の世界との融合など、未知なる挑戦について聞いた。

入社してすぐ5年先の経営プランを描く

──40歳を前にしての転職で、会社からも求められるものが多かったと思います。まずは一風堂でどのような仕事からスタートしたのでしょうか

 圧倒的な存在感のオーナー河原(創業者の河原成美氏)がいて、個性が強い社員の人たちがいる。さまざまな業態の事業を展開している状況で、いかに早く会社の全体像をつかめるかを、まず課題にしました。入社前から河原には「何をやるか決めこむ必要はないから、走りながら何ができるか考えてほしい」と言われていました。

 そうは言いつつ、“人事の仕事をやるのだろう”というのが暗黙の了解でした。ちょうど組織が大きくなり、人事や教育面で行き詰り感があった時期に、ひょっこり私が現れた感じでしたから。

 最初は研修で工場に入って麺やスープづくりをやったり、店舗に入って接客をやったりしましたが、3カ月経った時点で企業分析や実務面のレビューをふくめ、これから5年先どうするべきかという具体策をまとめた資料を河原に提示しました。組織改革や人事的アプローチ、可能性のポテンシャルを引き揚げるプロセスなどを提案したのですが、河原は決断が早く、その場で決まったものもありました。私自身も結果を出さないと存在価値がないと思っていたし、早目に具体論を示したかったので、河原との仕事は最初からスムーズでした。

──話が脇に逸れてしまうのですが、資料をまとめるための“コツ”のようなものはありますか? 清宮さんは情報の収集、整理、アウトプットが非常に得意のように感じられます

 必携なのがメモ帳です。パソコンは、データ整理や資料づくりで重宝しますが、私の場合、アイデアを練るのは、やはり手書きがいい。その方がクリエイティブな作業が捗るからです。

 また今は、情報が豊富にありアクセスしやすい時代です。ただし、生きている情報は極一部。私は自分の中に興味のフック(物を引っ掛ける鉤[かぎ]のこと)を持つようにしています。情報をすくい取る網を大きく広げ、網に通すと、いらない情報が流れ落ち、必要なものがフックに引っかかります。そうやって情報をピックアップしながら整理しています。

「清宮さんは昔から河原さんの右腕で?」

──その後、入社2年で役員、3年目で社長に就任となりました。社長就任時はどういう心境でしたか

 まさに青天の霹靂です。社内外の目もプレッシャーでしたし、試練と苦労の連続でした。

 それこそ河原自身も、私のことを紹介する時、ぎこちなかったですからね。河原が「実は今度、社長に」と挨拶をすると、たいがい相手に「清宮さんは昔から河原さんの右腕で?」と入社歴を聞かれます。「いや、実はまだ入社3年目で」と正直に答えると、大体「はあ?」という反応で、気まずい空気になります。自分のことながら、そりゃそうだろうと思います。あの時のギクシャク感は今でも忘れません。

 ただ、私は難しい状況を乗り越えることにやりがいを感じるタイプでもありますし、創業者の側で一緒に仕事ができるのはありがたいことでもある。全てをポジティブに受け止め、覚悟を決めて経営課題に取り組んでいこうと思いました。

近い将来、海外の店舗数が国内を上回る可能性も

──海外では、ラーメン店のオープンが相次ぎ、人気となっています。一風堂も海外に60店舗を展開していますが、海外事業にどのようなビジョンを描いていますか?

 当社では2008年3月にニューヨーク、イーストビレッジに「IPPUDO NY」をオープンしました。まだ私が入社する前ですが、ニューヨークに出店を決めたのは、世界で一番人種が多様で、都市自体にエンターテインメント性があり、ラーメン文化を発信するのに最適な場所だと判断したからだと聞いています。当時は「ニューヨークにラーメン屋を出すなんて馬鹿じゃないか」とまで言われたそうですが、今や海外事業は当社の大きな武器になっています。

 2014年には、一風堂が中心となり、日本の有名ラーメンがパリで一堂に会するイベント「パリ・ラーメンウィーク Zuzutto」を開催し、大成功を収めました。イベント名の「Zuzutto」は麺をすする音ですが、欧米では音を出して食事するのはマナー違反。それをあえてタイトルに入れたのは挑戦でもあります。「ズズッとすすると美味しいよ」という日本の麺文化を世界中に広め、麺食の世界標準をつくりたいという思いです。現地では「なんてタイトルだ、ありえない」とのリアクションもありましたが、実際やってみて「面白かった」というエンターテインメント感覚を持ってくれた人もいました。

 現在、アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリア、シンガポール、香港、台湾、中国、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシアに出店していますが、近い将来は海外の店舗数が国内を上回るはずです。言語や習慣、宗教なども異なりますから、多様性を受け入れるシステムも要求されるでしょう。

──現地スタッフの教育はどのようにしているのでしょうか

 今は、ローカル社員(現地の社員)に日本に来てもらい、研修を受けてもらっています。ですが、展開国数が多くなっているので追いつかなくなっています。その対策としてIT系の企業と連携して教育システムや会議などのインフラの構築を進めています。

 ちなみに2016年には、アメリカンチャイニーズのレストランチェーン・パンダエクスプレスを展開する米国企業のパンダ・レストラン・グループと合弁会社 「I&P RUNWAY JAPAN」を設立しました。ラーメンを中心とするカジュアルレストランの出店を進行中です。当社がグローバル企業になる一歩として、本丸のアメリカの企業と一緒に仕事をするのはメリットが大きいと感じています。

──海外展開に力を入れる一方で、国内についてはどのような取り組みをしていますか

 全社員対象で、創作ラーメンを競い合う「ラーメン総選挙」というイベントを開催しました。栄冠に輝くと賞金がもらえるだけでなく、国内の複数の店舗でそのラーメンが販売されるのです。

 これには、社員みんなのモチベーションが上がりました。みんな普段はあまり口にしませんが、本音では「自分のラーメンがつくりたい」と思っています。つくる喜び、苦しさ、楽しみをわかってほしいのがきっかけでしたが、社員教育とプロモーションの両方に効果を発揮しました。近い将来、海外の店舗も巻き込んだワールドグランプリに発展させる予定です。

変わらないために、これからも変わり続ける

──最後に、これから特に力を入れていきたい分野は何かありますか

 当社には独自の「暖簾分け制度」があります。長年一風堂のスタッフとして経験を積んだ後、自ら独立を志願した人が一風堂各店の店主を勤めており、彼らは創業者の河原の考えを深く理解しながら、地域のコミュニティに根を張っています。

 この店舗を基点に、今当社が進めているラーメン以外の飲食、食育、農業の事業などをつなぎあわせていく計画があります。一風堂が地域を巻き込みながら地域を活性化していくのです。まさに点と点をつないで面にしながら、立体的な事業をつくろうという“夢の構想”です。

 我々にとって美味しいラーメンをつくるのは最重要課題ですが、この先ITと科学の世界は避けて通れないと考えています。一見結びつかないですが、実はラーメン業界がITと科学の世界をどれだけ取り込めるかが勝負になってきます。健康志向に対応する糖質制限や油分、塩分の課題など、商品開発で科学分析が必要とされる分野は多い。労働環境の面ではIT化を含む、ロボット化やシステム化が絶対に必要になってくると思います。

 河原とも「アミューズメントパークのような店にしたいね」という話をしています。お客様に見える部分は笑顔ややさしさ、ホスピタリティを前面に出して、見えないバックエンドではITや科学に裏打ちされたロジックで動かしている。「いずれはロボットがつくるラーメン屋なんて面白いんじゃない」と、本気とも冗談ともつかないような話もしています。

──でも、一風堂ならやってのけてしまいそうな気もします(笑)

 こういう話をし出すと、夢が広がって、ワクワクしてきませんか!? うちの経営理念通り、これからも“変わらない”ために、変わり続けていきますよ。

清宮 俊之(きよみや としゆき)
1974年、神奈川生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒。大学卒業後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に入社。15年勤めたのち、「40歳になる前に自分の力を試したい」と、ラーメンの一風堂を運営する力の源カンパニーに転職。人事、執行役員を務め、入社3年目にして代表取締役社長に抜擢される。現在は、全世界に200店舗の展開を目標に、さらなる成長を実現すべく会社を統率している。

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篠原 克周

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