2024.10.08 (Tue)
いま企業に求められる情報セキュリティ対策(第29回)
その情報、拡散しても大丈夫?災害時のニセ情報の見分け方
1月に発生した能登半島地震では、SNS上で災害に関する多くのニセ情報が投稿されました。ニセ情報に騙されないためには、どうすれば良いのでしょうか?
災害時に「まずはSNSを見る」は当たり前に
X(旧Twitter)やInstagramといったSNSは、今や我々の生活に欠かせないツールのひとつですが、災害発生時の情報収集としても使用されています。
総務省が発表した令和6年度版 情報通信白書に掲載されたアンケート調査によると、地震に気づいた後最初にアクセスしたメディアとしてSNSを挙げた割合は、東日本大震災当時では調査全体の1.6%しか存在しなかったものの、2024年の能登半島地震の調査では、12.6%に増えています。
地震に気づいた後、最初にアクセスしたメディア(令和6年度版 情報通信白書より引用)
さらに年代別で見ると、20代が30.5%、30代が17.3%と、若年層ほどSNSで被害を確認している割合が高くなっています。なお、40代は8.5%、50代は4.2%、60代は3.6%と、高齢になるほど割合は減少しています。
災害時にSNSを確認すれば、ほかの人が発信している情報も確認できるため、被害がどれだけのものなのかが確認できます。実際に被害を受けた人が発信しているケースもあり、テレビやラジオ以上にリアルな情報を得ることも可能です。
しかし、SNSにアップされている情報には、真偽が不確かな情報も存在します。
災害時、SNSに大量のニセ情報が集まる
先に挙げた令和6年度版 情報通信白書では、SNSには震災に関する真偽不確かな情報が多数流通・拡散されているとしており、SNS利用者の42.7%が、能登半島地震の発生時にそうした不確かな情報を1つ以上発見し、かつそのうち25.55の人が、知人などにその不確かな情報を拡散したと回答しています。
真偽不確かな情報の例としては、個人で支援や寄付・募金を呼びかける投稿や、東日本大震災など別の地震の画像や動画を添付し、偽の被害状況を報告する投稿、能登半島地震が人工地震であるとする投稿などがあります。こうした不確かな情報を拡散した理由としては、「他の人にとって役に立つ情報だと思った」「その情報が興味深かった」「人に注目してもらえると思った」といった声があがっています。
特に最近では、AIを活用することで、実際には起きていない現象を動画や画像で作りだす「ディープフェイク」の技術が進化しています。ディープフェイクを利用すれば、あたかも実際に災害が発生したかのような偽画像・偽動画が、いくつかのワードを入力するだけで簡単に生成できるため、本物と間違えたり、情報を拡散してしまう人も多く発生することでしょう。
ディープフェイクのように、情報の真実性よりも、人々の関心や注目を集めることを優先することは、社会学用語で「アテンション・エコノミー(関心を競う経済)」と呼ばれます。情報通信白書では、アテンション・エコノミーについて「偽・誤情報の拡散やインターネット上での炎上を助長させる」と、その問題点を指摘しています。
災害時に自ら情報を発信した人は、フェイクニュースを見抜く力がある?
こうしたディープフェイクのような、SNSに蔓延する偽情報に騙されないためには、どうすれば良いのでしょうか? そのポイントは、自らが発信した経験の有無にあるかもしれません。
NTTドコモ モバイル社会研究所が8月29日に発表した調査結果によると、Xで災害情報を発信・拡散した経験がある人のうち、偽情報を見分けることについて「自信がある」もしくは「やや自信がある」と回答した割合は51%でした。
一方、Xで災害情報を発信・拡散した経験がない人の場合、「自信がある」「やや自信がある」と回答した割合は26%と、両者の間には25ポイントもの差が開きました。
発信と拡散を分けた調査結果では、「発信したことがあり、かつ偽情報の見分けに自信がある」と回答した割合は54%、「拡散したことがあり、かつ偽情報の見分けに自信がある」は43%でした。単に拡散するよりも、自身の責任で情報を発信する経験がある人の方が、情報の真偽に対して高い意識を持っていることがうかがえます。
「ファクトチェック」を意識しない人は多い
しかし、情報の真偽を見分ける自信があるからといって、安易に情報を拡散することもまた問題です。拡散しようとしている情報が事実に基づいたものなのか、発信元に確認する「ファクトチェック」も、偽情報の拡散を防ぐためには重要な作業です。
同調査では、ファクトチェックに関する調査も行われました。災害情報について発信・拡散したことが無い人の場合、ファクトチェックについて「聞いたことがあり、内容も理解している」と回答した人の割合はわずか12%。「聞いたことがあり、意味もなんとなくわかる」は15%で、合計27%の人しかファクトチェックを知らないという結果が出ました。
災害情報について発信・拡散したことがある人の場合、「聞いたことがあり、内容も理解している」と回答した割合は28%、「聞いたことがあり、意味もなんとなくわかる」は19%で、合計47%がファクトチェックを知っているという結果が出ました。「発信・拡散したことが無い人」と比べると、比較的高い数値といえます。
Xで災害情報を発信・拡散した経験とファクトチェックの理解(モバイル社会研究所のリリースより引用)
とはいえこの結果は、裏を返せば“災害情報を発信・拡散したことがある人でさえ、そのうちの半数以上がファクトチェックを知らない”ということも意味します。同調査では、たとえ偽情報だと見分ける自信があったとしても、情報のファクトチェックを行い、偽情報を拡散しないことに努める必要があると結論づけています。
災害時は、とかく「何か力になれることはないか」と考え、情報を拡散しがちです。しかし、フェイクニュースの拡散にまで手を貸す必要はありません。緊急時こそ、情報の真偽を確かめる冷静な視座が必要になるといえるでしょう。
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