2023.10.04 (Wed)
企業のデジタルシフト(第26回)
次世代の組織形態「DAO」とは何か?
ブロックチェーン技術の台頭により、世界的に「Web3」と呼ばれる次世代インターネットの時代に移りつつあります。そんな中、中で管理者不在の新しい組織形態である「DAO(Decentralized Autonomous Organization、以下DAO)」という考え方が生まれています。本記事では、DAOと呼ばれる組織がどのように成り立っているのか、ICT技術の活用を通してどのようなビジネスや事業でDAOが活用されていくことになるのかを解説します。
「DAO」はなぜ管理者不在でも“組織”なのか?
「DAO」とは、日本語で「分散型自律組織」と訳される、特定の管理者が不在でも、事業やプロジェクトが推進できる組織をあらわす言葉です。国内では地域創生を目的とした自治体運営や、娯楽やスポーツ、アーティストのファンクラブなどの組織運営に活用されています。
DAOの特徴は大きく3つあります。
1つ目は、プラットフォーマーを介さず、ユーザー同士で自由にデータのやり取りが可能な「ブロックチェーン」技術を用いて運営される組織であることです。そのため、基本的に国籍、年齢、学歴などは関係なく、誰でも平等にDAOに参加することができます。
2つ目は、株式会社などの従来組織のように管理者が存在せず、自律的に運営される組織であることです。組織の運営方針などの意思決定は、DAOに参加するユーザーが、「ガバナンストークン」と呼ばれる投票権を購入して投票し、多数決によって採決されます。このような意思決定などに関する運営ルールは「スマートコントラクト」というブロックチェーン上のプログラムに書き込まれており、それに従って自動的に処理されます。
3つ目は、DAOの運営で得た利益は、参加者に平等に報酬が分配されるということです。報酬分配のルールはスマートコントラクトに書き込まれており、DAO参加者の貢献度に応じて報酬を細かく設定することが可能です。
国内でもDAOがスタート。地域資源の体験やイベント参加も
実際にDAOとして組織運営をしている事例を3つ紹介します。
「美しい村DAO」は、2023年7月時点で59町村が加盟するNPO法人「日本で最も美しい村」連合が運営するDAOです。各町村が販売するNFTを購入すると、デジタル村民としてDAO内の投票権を得たり、稲刈り体験や地域施設の利用などで、地域資源の体験サービスに参画することが可能です。このような取り組みを経て得た売上を、実際にその自治体に住む村民の報酬として提供することで、人口問題や経済環境などの地域課題を解決する目的で組織されています。
「アビスパDAO」は、Jリーグのサッカークラブであるアビスパ福岡が運営するDAO型のファンクラブです。購入トークン数に応じ、特別なNFTを獲得したり、DAO内で開催されるイベントに参加できるといった特典を得ることができます。加えて、DAOを通じた全国のファンとの交流イベントも開催されています。
「Web3研究会DAO」は、デジタル庁が実施する研究会「Web3研究会」のなかで発足したDAOです。DAOの特性理解のために立ち上げられたもので、行政がDAOを行う場合のロールモデルを確立し、DAOで可能になることや解決できない課題などを検討していく予定です。議論のなかでは、ガバナンストークンによる投票で意思決定を行うこととされています。
DAOを活用するための課題とは?
地域やファンクラブ運営の活性化に効果のあるDAOですが、社会やビジネスの中でさらに普及していくためには、乗り越える課題があります。
まずは法整備です。現時点ではDAOの法的な権限や位置づけが不明瞭であり、法的な法人格も持たないため、他法人との取引や契約締結などで障害となる可能性があります。デジタル庁では、日本における合同会社形態がDAOの基盤となるという見解もされており、引き続き議論が行われています。
次に、意思決定はDAO参加者のガバナンストークンによる多数決が必要であるため、緊急時の対応にも時間が掛かることです。多種多様な人材が参加するDAOでは、価値観の相違や情報格差によって、自発的な意思決定まで時間が掛かるケースも考えられます。
加えて、地域活性化に関連するDAOである場合には、その地域で実際に居住する住民と、DAO参加者であるデジタル住民との関係性にも配慮する必要があります。あらかじめ、地元住民とDAO参加者のコミュニケーションにおけるガイドラインを策定しておくことが望まれます。
現在も、デジタル庁を中心にDAOのユースケース創出や課題の洗い出しが進められています。これにより、DAOにまつわる環境が整備されていけば、多種多様なDAO参加者のさまざまなアイデアによって、社会課題解決や新たな価値創出が行われていくでしょう。
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