2020.07.07 (Tue)

企業のデジタルシフト(第10回)

コロナで閲覧3.3倍、VRビジネスの可能性

 VR(仮想現実)サービスが、With/Afterコロナで現実空間に代わる“ビジネスの場”として注目を集めています。コンサートやショールーム、賃貸物件の内覧、病院での面会、企業の記者発表会など、さまざまな用途で活用されるVRサービスの事例を紹介します。

教育、職業訓練、医療で進むVR活用

 まずはVRの基本についておさらいしましょう。VRとは「Virtual Reality(仮想現実)」のことで、頭部にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着し、360度の3D空間を体験する仕組みになっています。2016年には一般消費者向けのVR機器「Oculus Rift」「PlayStation VR」「Vive」などが発売され、主にゲームやエンターテインメントの分野で盛り上がりが加速しました。

 企業での活用が目立つようになってきたのは、2018~2019年頃。VR関連の大規模カンファレンス「XRDC」の2019年の調査によると、VR関連の開発者に「現在、進めている、もしくは検討しているVRなどのプロジェクトのうち中心となっているもの」を聞いたところ、「教育(33%)」「職業訓練(27%)」「医療(18%)」という回答が多かったことがわかりました。2019年のXRDCカンファレンスでは、VRを活用した職業訓練、医療関連の提案が大きく増加したことも報告されています。

 こうした流れに新型コロナウイルスの影響が重なり、2020年度以降はより一層、VRのビジネス活用が進むと考えられています。

VR内見にVR住宅…国内企業のビジネス展開

 では、国内の企業は、どのようにVRを活用しているのでしょうか。新型コロナウイルスの影響で登場した新しい活用法や、今後伸びていきそうな分野の事例を見ていきましょう。

 VRが活発に活用されているのが、不動産業界です。例えば賃貸物件の仲介業を手掛ける株式会社ニチワは、顧客宅にVRキットを送付し、仮想空間で物件の内覧をする「VR内見」というサービスを導入。成約率を1.5倍に押し上げました。

 住宅のリノベーション事業を行うネクストカラーズ株式会社は、施工前にリノベーション完成後の住まいをVRで体験できる取り組みをしています。これによって、利用者は「資料や図面ではわかりにくい『高さ』や『奥行』などを体感できる」「施工会社とイメージを前もって共有しやすい」などのメリットがあります。同社では、制作したVR住宅を新規の見込み顧客が体験できる仕組みを導入し、受注の拡大にもつなげています。

 医療業界では、「VR面会」がスタートしています。株式会社NTTドコモ、エムスリー株式会社、ソニー株式会社が協業し、新型コロナウイルスの影響で面会を制限している病院の患者向けに、VRを用いて面会する仕組みを開発。トラアイルが進められています。面会だけでなく、外出や、仮想キャラクターとのコミュニケーションが楽しめるインタラクティブコンテンツの開発も予定されており、レクリエーションツールとして活用される見込みです。ほかにも、名医の手術をトレースしながら手術トレーニングができる「医療VR」、足腰のリハビリを行うための「RehaVR」など、多種多様なVRサービスが医療の現場で活用されています。

コロナで閲覧3.3倍、AppleはVR企業を買収

 新たなサービスや事業展開に留まらないVRの活用例もあります。

 例えば、「記者発表会の新しい形」として話題を集めたのがKDDI株式会社の「MUGENLABO DAY 2020」です。当初はリアルイベントとして企画されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてバーチャルイベントへと舵を切り、「VR空間で、高橋誠社長のアバターがスタートアップとの協業プレゼンテーションをする」という内容で開催されました。この記者発表会は、バーチャルイベントサービス「cluster」を使って配信もされています。

 このようにVRは多様な業界業種でビジネスの可能性を広げています。5月15日には、AppleがVR配信のスタートアップ企業「NextVR」を買収したと話題になりました。VRのクラウドソフトを提供する株式会社スペースリーは5月25日に、「新型コロナウイルスの影響によって、VRコンテンツ1個あたりの消費者の閲覧数が昨年同期比で3.3倍に上がった」と発表しました。

 技術やコンテンツの成熟と、コロナ禍、そして5Gの到来などが重なり、注目を集めているVR。With/Afterコロナの新たなビジネスツールとして、注目度が高まっていくでしょう。

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