携帯電話やスマートフォンに使われる通信システムは、第1世代(1G)から第4世代(4G)へと進化してきました。4Gでは通信速度が高速になり、スマートフォンの普及に伴って映画、音楽、買い物といったあらゆることをモバイルで楽しめるようになりました。
第5世代にあたる通信システム「5G」は、4Gに比べてより高速、多数同時接続、低遅延を実現したことが特徴です。これにより通信業界を中心に活用されてきた通信システムが、新たな業界に大きな影響を与える可能性が高まりました。特に期待されている業界の一つが、製造業です。
人手不足や生産性向上の課題解決が急務に
製造業の現場は人手不足が慢性化しているケースが多く、また人材の高齢化による後継者不足の問題も抱えています。一方で生産性向上や作業効率化がシビアに求められ、近年は多様化する顧客ニーズに応えるために多品種少量生産を取り入れる企業も増えています。
こうした状況の中、2017年に経済産業省は「スマートファクトリーロードマップ」を策定。AIやIoT、ビッグデータ、ロボティクスといったテクノロジーを活用した製造現場の変革への道筋を示しました。その後、さまざまな企業がスマートファクトリー化に取り組んできましたが、5Gで高速、多数同時接続、低遅延が実現すると、スマートファクトリーでできることが一気に増え、その質・量・スピードも大幅に向上することが期待されています。
例えばロボットを遠隔操作する際、5Gにより高精細な映像をリアルタイムで確認しながら操作できれば、生産性を高めることができるでしょう。さらに複数のロボットを同時接続できれば、人手不足の解消にもつながるはずです。無線通信が主体となれば工場内の配線を減らせるので、多品種少量生産に伴う生産工程の変更や機器の入れ替えにスムーズに対応できるようになるかもしれません。
このように、製造業が抱えている課題を大きく改善し、スマートファクトリー化を加速させるポテンシャルが、5Gには備わっているのです。
企業連携による5Gの実証実験が続々とスタート
すでに製造業では、主に企業連携による実証実験が積極的に進められています。未来のものづくりがどのように変わるのか、いくつかの事例を紹介します。
スマートファクトリーを推進している大手非鉄金属メーカーでは、製造現場における設備の稼働状況や作業者の行動をカメラの映像データで把握し、生産性・安全性の向上に取り組んでいました。2021年、同社は通信会社と連携して5Gを活用した実証実験をスタート。設備や人のデータをリアルタイムでモニタリングし、AI分析で異常や変化を自動検知する仕組みを構築しました。その結果、作業の分類や作業時間の集計にかかっていた人的リソースを削減し、現場作業の改善や効率化につなげることができました。
2019年に発表された大手総合電機メーカー2社による共同検証では、プライベート網のローカル5Gと、公衆網の5Gを併用するハイブリッド5Gを実現。工場内では多数の無人搬送車を効率的に動かし、さらに工場内の情報を公衆網の情報に接続することで、エンジニアリングチェーン、サプライチェーン全体の最適化をめざしています。
2019年、国内大手通信会社はフィンランドに拠点を置く通信会社、国内電機メーカーと協働し、複数の実証実験をスタートさせることを発表。多品種少量生産にフレキシブルかつスピーディに対応するための「レイアウトフリー生産ライン」、現場作業者の映像データなどをAI解析し、熟練者との違いをリアルタイムでフィードバックする「リアルタイムコーチング」といった、製造現場の課題解決に向けたユースケースに取り組んでいます。
国立大学の産学連携プロジェクトと通信会社が2021年に開始した実証実験では、現実世界をデジタルデータで仮想的に再現する「デジタルツイン」を検証。一例として、現実世界の清掃ロボットを、リアル空間を再現したデジタル空間で制御するためのアプリケーション作成にチャレンジしています。
5Gが「ものづくり大国ニッポン」再来のカギとなるか
2020年に商用スタートした5Gですが、現在のところ使用できるエリアは限られており、全国各地にインフラが整備されるのはもう少し先の未来になりそうです。また、スマートファクトリーの推進に関しては、通信会社ではなく企業や自治体が主体となって特定の施設や土地に通信環境を整備する「ローカル5G」の普及がカギを握ることになるでしょう。
5Gが普及すると、スマートフォンの機能追加やオフィスのIoT化といった、5Gへの切り替えに伴う製造需要も増加するため、その意味でも5Gを活用したスマートファクトリーにいち早く取り組むことが求められそうです。
グローバルな競争力低下が懸念されている日本の製造業ですが、5Gを活用して現状の課題を解決できれば、再び「ものづくり大国ニッポン」が世界を席巻する日も遠くないかもしれません。
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