企業のデジタルシフト(第1回)

2020年を追い風に、働き方改革に着手すべき理由

posted by 小山 健治

 今、官民を問わず「働き方改革」が強く求められています。歯止めのかからない少子化や団塊世代のリタイアなどによる働き手の減少――。これらが、深刻な人手不足をもたらし、さまざまな職場の業務に影響を及ぼしつつあります。

 それだけに、働き方改革への取り組みは待ったなしの状況です。つまり、働き方改革は、過重労働の抑制やワークライフバランスの実現など、働き手の幸せを尊重する取り組みであると同時に、「より少ない人数、より短い時間で、いかに労働生産性を高めるか」を主眼に置いた、経営目線の改革としての側面も持ち合わせています。

2020年がテレワーク推進の追い風に

 求められるのは、多種多様な働き方への対応です。その1つが、「テレワーク」です。例えば、営業担当者やサービス担当者なら、顧客先への訪問後にオフィスに戻って日報を作成したり、ミーティングをしたりすることが当たり前のように行われています。ですが、移動時間のロスを削減できれば、効率化や生産性の向上につながります。また、従来、育児や介護などで退職せざるを得なかった従業員も、環境が整えば、限られた時間であっても自宅で働けます。従業員と企業の双方にメリットをもたらします。

 しかし、テレワークの実現には、社外で働く従業員へのICT環境の提供が前提となります。かつては、オフィスと同等の通信回線が個別に必要となり、コストと労力を要しました。現在そのハードルは大きく低下しました。

 背景にあるのはクラウド環境とモバイル端末の普及です。昨今、オンプレミス(社内)で運用していた多くの情報システムがクラウドに移行し、「SaaS(Software as a Service)」として提供されるアプリケーション利用が進みました。インターネット接続できるノートPCやタブレット、スマートフォンがあれば、従業員はどこにいてもオフィスと大差なく業務に取り組めます。

 また、総務省や内閣府、東京都などによる、2020年に向けたテレワーク推進のための取り組みが今、加速しています。その一つが2017年度からスタートした「テレワーク・デイズ」。7月24日をテレワーク・デイと位置づけ、首都圏の混雑回避のためテレワークの浸透を複数年にわたって実現しようとしています。すでに2018年度においては、約950団体、6.3万人が参加する社会的なムーブメントとなりつつあります。

 この追い風の中で、テレワークを主眼に置いた働き方改革を推進することは、従業員のためだけでなく、企業のCSR活動としてプラスになる効果にもつながるでしょう。

仕組みづくりが従業員の安全なICT利用を実現する

 もっとも、テレワーク中の社外からの情報システム利用に関しては、厳重な対策を取らなければなりません。言うまでもなく「セキュリティ」です。

 上司や同僚の目が行き届かないだけに、情報システムから取得したデータのコピーや外部への横流しなどの不正行為の温床となる恐れがあるからです。また、移動時に使用しているデバイスを紛失したり、盗難に遭ったりした場合、その端末から社外秘データを抜き取られる可能性もあります。

 対策としてまず考えられるのは、デバイスにデータを残さない「シンクライアント」の導入です。実現する方法の中で、最も注目されているのはVDI(仮想デスクトップ)です。クラウドの仮想環境で、個人ごとのデスクトップや特定アプリケーションを実行。ユーザー側のデバイスで行われたキーボードやマウスなどの操作を反映した画面情報のみを、デバイスに返す仕組みです。

 ユーザー側デバイスは、ネットワーク接続と画面表示機能さえあれば運用可能です。高性能なPCを用意する必要はなく、OSの違いも問われません。型落ちした古いPCのほか、タブレットやスマートフォンが活用可能なのも、テレワークに有利なポイントです。

 もう1つ、セキュリティ対策で考えておくべきは、社内の関係者との間で頻繁に行われる情報のやりとりを安全に行うための「仕組み」づくりです。

 電子メールの添付ファイルや無料利用できるオンラインストレージを使って、データをやりとりするケースもよく見られます。しかし、これは大きなリスクを抱えています。なぜなら、電子メールでは、宛先間違いなどのヒューマンエラーを完全に防止できません。また、無料オンラインストレージでは、セキュリティを守る手段はパスワードしかなく、相手へのファイル送信後もデータを消さずに残してしまうなど、管理がずさんになりがちです。

 テレワークを含めた働き方改革を推進するには、ガバナンスの担保された情報共有の基盤が必須です。そこでお勧めしたいのが、クラウド上で運用可能なファイルサーバーの導入です。これなら、多種多様なファイルやフォルダに対して、ユーザーごとの業務・役職に応じたアクセス権限の設定や、パスワードだけに頼らない多要素認証を実施できます。そのほか、データ保存期間を必要に応じてコントロールするなど、任意のセキュリティポリシーに準じた運用が実現します。

 もっとも、VDIにしてもファイルサーバーにしても、どのような運用が最適かという詳細な要件は、企業や業務ごとに大きく変わります。どのクラウドサービスを基盤として選択し、どのような必要機能を実装するかなどのシステム構築の在り方によっても、実現される利便性やセキュリティのレベルが異なります。

 もし、求める環境が企業実態にフィットしなければ、従業員の生産性にも後に大きな差となって表れてくるでしょう。今やクラウドなしの環境など考えられません。クラウドへの理解を深めるとともに、豊富なシステム構築とその後の保守・運用までのノウハウを持つ、信頼できるSIベンダーを選ぶことが肝要となります。

 

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小山 健治

小山 健治

ITライター。1961年生まれ。システムエンジニア、編集プロダクションでのディレクターを経て、1994年よりフリーランスのジャーナリスト、コピーライター。エンタープライズIT分野を中心に活動中。

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