企業のデジタルシフト(第21回)

5Gはドライバー不足の運輸業界で追い風となるか

 第5世代移動通信システム「5G」の整備が本格化しています。高速、多数同時接続、低遅延通信のモバイルネットワークが浸透すると、ビジネスはどのように変わるのでしょうか? 今回は運輸業界に着目し、実証事件の事例を中心に「運輸×5G」の未来を考察します。

運輸業界のDXが一気に加速する

 2020年、日本で5Gの商用利用がスタートしました。5Gの特徴として、高速、多数同時接続、低遅延が挙げられます。つまり大量のデバイスに同時接続でデータを高速に送受信できるようになり、遠隔通信時のタイムラグも大幅に改善されるのです。5Gはさまざまな業種のビジネスに変革をもたらすことが期待されており、近年テクノロジー活用によるDX推進が目覚ましい運輸業界においても、その発展をさらに加速させるインフラとして注目されています。

 運輸業界では、かねてから人手不足や3K(きつい・汚い・危険)と呼ばれる労働環境、業務効率の低下といった課題を解決すべく、国を挙げてテクノロジーを活用した“物流革命”に取り組んでいました。例えば倉庫内業務へのロボティクス導入、荷物とトラック・倉庫のマッチングシステム整備、AIを活用したオペレーションの効率化といった取り組みのほか、各種手続きの電子化にも注力してDXを推進してきたのです。

 さらに2021年には、経済産業省が「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金」(令和3年度予算案額62億円)を公募し、運輸業のDX化をいっそう強く推し進めています。

 こうした機運が高まる中、高速、多数同時接続、低遅延通信の特性を持つ5Gの到来は、DX化を進める運輸業界にとって追い風となることは間違いないでしょう。

トラックの無人運転やドローン配送にも成功

 5G時代の到来に先駆けて、各企業では5G環境を想定した実証実験や新規事業開発が活発に行われています。

 大手通信会社と不動産会社、そしてロジテック企業の3社が2020年に共同でスタートさせた実証実験では、不動産会社所有の物流倉庫内にローカル5G環境を導入し、次世代物流センターの構築を実施。カメラ映像やウェアラブル端末を用いた業務の見える化、自動搬送機の遠隔操作を行い、これらのデータを一元管理することで省人化、効率化、安全性の向上をめざしています。

 同じく2020年、大手運送会社、電機メーカー、通信会社2社による取り組みでは、流通センターに5G環境を整備し、トラックの積載状況のリアルタイム伝送・解析と、荷室への積み込み判定を実現。この技術を用いることで、積載量が少ないトラックを可視化して空いているスペースを有効活用し、ドライバーによる積載状況の確認作業を省力することに成功しました。

 積年の課題とされているトラックドライバー不足の解消に挑んだ事例も紹介します。2020年、通信会社2社は高速道路で5Gを活用したトラックの隊列走行を行い、車間距離10メートルでの安定した隊列維持に成功しました。隊列走行とは、先頭車両が有人運転で、後続車両が自動運転で先頭車両を追従する隊列のことです。先頭車両のアクセルやブレーキ操作を瞬時に後続車両へ伝える、後続車両周辺の大容量映像を先頭車両へリアルタイムに伝送するといった通信条件が求められるシーンに5Gが活躍しました。

 もう一つ、すでにソリューションとして展開されている事例を取り上げます。大手電気機器メーカーは、ドローンのシステムインテグレーション企業と共同で新規ソリューションを開発しました。これは、ドローンに搭載した小型の通信端末を5Gで多数同時接続し、高精度かつ安全なドローンの飛行や効率的な業務フローを実現するもの。輸送分野では、ドローン離発着エリアの安全確保や飛行中の監視をリアルタイムで行い、飛行経路のプランニングから着陸までを自動化します。国土交通省は2022年度をめどにドローン飛行の規制緩和をめざしており、5G活用でドローンの安全性が高まれば、ドローン配送が本格スタートするかもしれません。

空想のような未来の世界が現実に

 5Gを利用できるエリアはまだ限定的ですが、遅かれ早かれ5Gが通信インフラの主体になることは間違いないでしょう。

 5Gが世の中に普及すれば、これまで運輸業界や物流業界が模索してきた自動運転やスマートロジスティクス、ロボット・ドローン活用が一気に現実的なものへと変わります。

 ロボットが積荷や荷下ろしを行い、無人トラックが輸送し、上空を小さな荷物を抱えたドローンが飛び交う——そんな未来が訪れる日もそう遠くないのかもしれません。

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