スーパー・デパートなどに設置される店内カメラは防犯目的で活用されるケースがほとんどでしたが、近年はテクノロジーの進歩により、活用方法が広がっています。
最近の小売業界は、ウェブサイトで注文した商品を店頭で受け取るBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)や、企業が消費者と直接取引を行うD2C(Direct to Consumer)、小売企業が蓄積したノウハウやデータを活用してサービスを生み出すRaaS(Retail as a Service)など、テクノロジーを駆使した新しいトレンドが次々と登場しています。
その中でも海外を中心に注目を集めているトレンドの一つが、店内カメラの新たな活用アイデアです。アメリカ大手スーパーマーケットチェーンは、店舗に大量のAIカメラやセンサーを設置。店舗の映像をリアルタイムで取得し、各商品の在庫状況を把握。さらに店舗運営ノウハウを掛け合わせて、商品が欠品する前に補充する環境を実現しました。店舗スタッフは専用端末で欠品しそうな商品の通知を受け取り、適切かつ効率的な補充を行えます。
AIカメラで新しい店舗の可能性を拡張しているのが、アメリカの大手ECサイトが展開するレジレス店舗です。利用客は事前に専用アプリをダウンロードし、店舗入口のスキャナでアプリのQRコードを読み込ませて入店。店内の陳列棚から商品を手に取ると、店内に設置されたAIカメラで利用客および商品を認識し、アプリに登録。レジで会計をする必要はなく、店舗を出るだけでECサイトに登録しているアカウント経由で商品の代金が引き落とされます。
最近日本にも上陸したアメリカの体験型ストアも、新しいビジネスモデルを確立した好例です。同店では、D2Cブランドを中心としたITガジェットや食品などを展示。天井にAIカメラを設置し、商品の前に立った利用客の人数、滞在時間、購入数などのデータを取得して出店者にフィードバックしています。
映像データのマーケティング活用は国内でも活発に
店内カメラの活用は海外が進んでいるイメージが強いですが、国内の小売店でも採用する企業が少しずつ増えています。
九州地方を中心に250店舗以上を展開するスーパーマーケットチェーンは、AIカメラで商品の陳列状況を監視。欠品や廃棄ロスの削減だけでなく、データ分析によるトレンド予測や発注業務の効率化も実現。さらに、AIが利用客の怪しい行動を検知すると店内スタッフにアラートを発信するなど、防犯機能の強化にも取り組んでいます。
大手菓子食品メーカーは自社のアイスを取り扱っている小売店にAIカメラを設置し、来店人数やアイス売り場への到達人数、商品の動きをデータ化。POSデータと掛け合わせることで、売り場の課題を分析し、解決策を提案しました。結果、小売店のアイス売り場全体の売上向上につながったといいます。
2019年に東京の二子玉川にオープンした家電ショールームには、さまざまなメーカーのユニークなプロダクトが並び、利用客は手に取って体験できます。その様子をAIカメラで撮影し、来店客の性別や年代、行動パターンを分析し、メーカーにフィードバック。メーカーはこれらのデータを製品開発やマーケティング、広告戦略などに活用しています。
店頭にタブレットやディスプレイなどの電子機器を用いて情報を発信するデジタルサイネージに、AIカメラを組み合わせた広告配信を行っているのが、北海道を中心に200店舗以上を展開するドラッグストアです。同店は広告事業会社やAIカメラソリューションを提供するスタートアップと提携し、デジタルサイネージの最適化を検証。AIカメラでデジタルサイネージ前の通過数、滞在数、視聴数の計測、性年代分析を行い、広告の効果測定をきめ細かく行いました。さらに、AIカメラが人を検知し、適切なタイミングで広告映像を冒頭から再生する「立ち寄り配信」を実装。デジタルサイネージ前の滞在率向上を実現しています。
リアル店舗の価値をさらに高めるソリューションに期待
数年前から小売業界では「リテールテック」というキーワードが流行していたように、人手不足の解消や生産性向上といった観点からテクノロジー活用が積極的に進められていました。その流れは新型コロナウイルス感染症の影響で一気に加速し、市場に大きな変化を起こしています。
あらゆる買い物のオンラインシフトが進む一方で、売上が低迷するリアル店舗は少なくなく、一部の百貨店やアパレルブランドは閉店を余儀なくされています。小売業界は「リアル店舗の価値とは何か」を改めて問い直すフェーズに突入しているのかもしれません。
今回紹介した事例のように、店内カメラを活用して新たな顧客体験を生み出すことができれば、それはリアル店舗の価値の再定義につながるでしょう。小売業界にイノベーションをもたらすような、店内カメラの新しいソリューションの登場が期待されます。
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