2023.09.08 (Fri)

企業のデジタルシフト(第25回)

多様化するメタバース空間。どの"場"を選択すべきか?

 ユーザー同士がアバターを通じて交流したり、バーチャルの商品・サービスが利用できるインターネット上の仮想空間「メタバース」には、さまざまなプラットフォームが存在します。企業はプラットフォームの特性に合わせたビジネスを展開していますが、メタバースのプラットフォームにはどのような違いがあり、どのような取り組みが行われているのでしょうか? 本記事では多様化するメタバースプラットフォームについて紹介します。

メタバースの市場規模は、2021年4兆円→2030年78兆円へ

 メタバースとはアバター同士のコミュニケーションが展開される3D仮想空間のことで、メタバースプラットフォームはメタバースのサービス基盤を指します。コロナ禍の外出自粛による非接触型サービスの需要拡大や、2021年Facebook社が「Meta」に社名変更したことなどを機に、世界中の人々の注目を集めました。

 仮想空間のアバターでやり取りをするサービスは、すでに90年代から存在していました。特に、2003年に米国で誕生した「Second Life(セカンドライフ)」は、メタバースプラットフォームの先駆け的存在として知られ、トヨタや日産などの自動車メーカー、ロイターなどのメディア、IBMなどのIT企業が参入しました。

 その後、メタバースの流行は下火になるものの、ソーシャルメディアの普及やVR/AR/MR技術と通信技術の進化、デバイスの多様化に伴い、徐々にオンラインゲームを中心としたメタバースプラットフォームが続々登場。近年ではエンターテインメントとしてだけでなく、教育や企業の採用活動、ECビジネスへの活用など、活用分野が広がりつつあります。

 2022年の総務省による情報通信白書によれば、メタバースの世界市場は2021年に4兆2,640億円だったものが、2030年には78兆8,705億円まで成長すると予想されています。調査会社ガートナージャパンの試算では、2026年までに世界人口の25%がメタバースで1日1時間以上過ごすという予測も出ているほどです。

多様化するメタバース空間。どの“場”を選択すべきか?

 さまざまなメタバースプラットフォームが林立する中で、仮想空間を新たな顧客接点として、新規顧客開発やブランディング戦略の一環で活用する企業の取り組み事例が増えています。

 たとえばZ世代の若年層を中心に一日あたりのアクティブユーザー数6,610万(2023年3月時点)を有するメタバースプラットフォーム「Roblox」には、ユーザーの仮想世界におけるファッションやメイクなど自己表現のニーズの高まりを背景に、多くのアパレルブランドが参入しています。

 たとえば、高級ブランドGucci(グッチ)は、リアルな体験型イベントと連動しブランドをイメージしたバーチャル空間を開設したところ、2週間で2,000万人の動員を記録。Robloxでは仮想アイテムの販売や購入が可能なため、アバターの体型に合うファッションアイテムの試着や販売などを行っています。

 多人数でのコミュニケーションが可能なソーシャルVRサービス「VRChat」では、その特徴を活かし、没入型体験イベントを多く開催しています。サンリオは同プラットフォームにて、人気キャラクターと多数アーティストのコラボレーションによるバーチャル音楽フェスを開催し、ファンとの新たなコミュニケーション接点を開拓しました。

 日産もVRChatにて新車発表会を開催し、新たな情報発信のプラットフォームとして積極的に活用しています。車の運転シミュレーションができる体験型コンテンツを設けたり、EVの機能や再生可能エネルギーに関する取り組みをアピールするイベントを実施しています。

 「The Sandbox」というメタバースプラットフォームでは、ユーザーが仮想空間上の土地を購入またはレンタルをし、オリジナルのゲームやキャラクター、アイテムを作ることも可能です。The Sandboxではブロックチェーン技術を通じて、ユーザーが作成したコンテンツをNFTとして提供しており、プラットフォーム上での取引でNFTは仮想通貨と交換、現金化できることにも対応しています。

 スポーツブランドのAdidas(アディダス)は、The Sandbox内にてデジタルとリアルの製品の権利を得られる限定NFTコレクションを発表し、数時間で約3万点が完売したといいます。さらに、世界的なエンターテインメント企業のWarner Music Groupは、The Sandboxにおいて所属アーティストによるライブ・イベントを開催。メタバースにてコアファンの囲い込みを図っています。

日本国内のプラットフォームも誕生

 ここまで挙げたメタバースプラットフォームはいずれも海外のものですが、日本国内でも多くのメタバースプラットフォームが誕生しています。

 クラスター株式会社が展開する「cluster」は、同時に数千人ものユーザーが接続可能なイベントプラットフォームです。コロナ禍で外出自粛となった2020年には、渋谷の街をデジタルで再現した渋谷区公認の仮想空間「バーチャル渋谷」を開設。以降、バーチャル渋谷にて音楽ライブやスポーツ観戦などの体験型イベントを開催しており、3年間で累計130万人超の動員を記録したといいます。

 NTTグループでメタバース事業を担う株式会社NTTコノキューでは、「XR World」と「DOOR」という、2つのメタバースプラットフォームを運営しています。

 XR Worldでは、エンタメ領域の企業がメタバースとリアルの連動型コンテンツを多数展開しており、たとえばフジテレビが実施する夏のイベント「お台場冒険王2023」のバーチャル版である「バーチャル冒険王」も開催されました。一方のDOORは、個人でも法人でもVR空間を作成することが可能なプラットフォームとなっています。

 メタバースの普及に向けては、ユーザーのプライバシー保護や、知的財産権や著作権など商取引に関わる法整備が喫緊の課題となっており、政府もメタバースにおけるビジネスのガイドライン制定に本格的に乗り出しています。ガイドラインが作られ、誰もが安全に利用できるようになれば、メタバースの利用者はさらに増え、それにつれてメタバースプラットフォームの種類も増えていくことが予想されます。

 まだメタバースに参入していない企業も多いと思われますが、もし参入する場合は、メタバースの中でどのように顧客と接点を持ち、顧客にどのように価値を提供していくのか、そのビジネススタイルに適したメタバースプラットフォームを選択することが、成功の近道といえそうです。

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