近年、「所有から利用へ」の流れが各分野で進行しています。クルマを買って自宅の駐車場に停めておくなら、使いたいときだけ利用するレンタルやカーシェアリングのほうが得だ、と考える人が増えてきました。トヨタでは、従来のように数百万円を払って1台所有するのではなく、月額料金払いでクルマを乗り換える「KINTO(キント)」というサービスを始めます。
AIをはじめとするテクノロジーの加速度的な進化で、クルマは自動運転、コネクテッドカーの方向に向かっています。放っておくと、トヨタや日産がGoogleやAppleの下請けになってしまうかもしれません。KINTOが事業化検討から、わずか1年でサービス実現にこぎ着けたのは、モノ売りから脱却しなくてはならない危機感があったからかもしれません。
トヨタはこのKINTOを「個人向け愛車サブスクリプションサービス」と銘打っています。サブスクリプションとは、顧客がサービスや商品の利用期間に応じて料金を支払う方式のことです。最近耳にする機会が増えたキーワードとして、「2018年ヒット商品番付」(日経MJ)の西の大関にも選ばれました。サブスクリプションは、今やブランド品や洋服、さらに企業向けのソフトウエアやICTサービスなどにも広がっています。
やめたいときにやめられるスタイル。戦力もモジュール化で変化に対応
デジタルの領域ではクラウド化が進み、これまでICTベンダーから機器やシステムをオンプレミスで「購入」しなければ得られなかった効果が、サービスという形で享受できるようになりました。
クラウドサービスのほとんどは初期費用がかからず、自前でインフラ調達することなく利用できます。ビジネスを取り巻く環境の変化が速くなると、それに対応するためにはフットワークの軽さがものをいいます。サービスを受ける企業は「モノ」を自前で抱えず、利用に応じた金額を支払うモデルなので、やめたいときにやめられるメリットが生まれます。
これは戦力についても同じです。忙しいときには人が足りなくなります。だからといってそのたびに人を採用していては、山場を超えると戦力が余ってしまいます。一時的な戦力補強には、外部にアウトソースするのが理にかないます。業務の種類によっては、時間的な制限なしで外部に切り出す意識も必要です。働き方改革の推進で、以前のように長時間労働でやりくりする手段は選べません。企業は戦力を“モジュール化”する戦略を急速に展開せざるを得なくなってきたといえます。
スタッフを雇用で抱えるよりも、専門家に任せるスタイルへ
業務のアウトソーシングは、戦力のモジュール化戦略にフィットし、戦力拡充の効率化に寄与するだけではありません。その道のプロにお願いするわけですから、作業の質が担保されます。
そのレベルに達するまで、社内で人を育てようと思ったら、多くの時間と労力が必要となります。また、やっと育ったところで異動や退職となるケースも、企業では日常茶飯事です。進化・変化のスピードが速くなると、技術、知識はすぐに陳腐化します。業務に最適な人材を配し続けるのは、かなりコストがかかるのです。ならば、多少高く見えたとしても、プロにアウトソースするのは適切な解決法です。
事業判断は収支を基本にしがちですが、業務を雇用で実現した場合と、アウトソーシングした場合を比較するときは、短期的な収支で判断すべきではありません。育成にかかるコストや、業務の品質が生み出す長いスパンでのメリット、社員の負荷軽減で失わずに済んだモチベーション、職場環境への影響など、総合的に検討すべきでしょう。必要なときに必要なパーツを外部に求める。この流れは、着実にその領域を広げつつあるといえます。
ベンダーもモノ売りから保守、さらにはコンサル化を推進
富士通、日立、NTTといったICTベンダーも変わってきました。彼らは従来、ICT機器を売る「モノ売り」でした。ですが“売ったら終わり”では、次から次へと受注を獲得せねばなりません。競合が出てくれば、価格競争や差異化に打って出ないと負けてしまいます。そこでモノにつける付加価値として、保守サービスを付帯させるようになります。
折しも企業はどこも人手不足です。ICT人材を自社で雇うのは困難です。運用やトラブル発生時の24時間365日対応を自社で担っていては、明らかに割が合いません。ICTベンダーの手厚いサポートは、顧客への価値になるとともに、売った後もお金を生むビジネスとして成立しました。さらにサポートで関係性がつながっていると、新しい商品への買い替えを勧めたり、関連する別商品へのクロスセルにつながったりする副次効果が生まれます。
ICTベンダーの業態シフトは、保守サービスレベルから、悩み相談を受け付けるコンシェルジュのような存在へ、さらに顧客課題の解決を担うコンサルティングの領域にまで拡張しています。ひとつのICT機器だけでなく、ICT環境全般のサイクルを総合的に管理・運用、支援してもらえば、企業側としてもメリットがあります。ベンダー側にとっては、継続的な深い顧客関係を築くことで、サブスクリプションモデルで安定的な収益が見込める上、ユーザーの囲い込みにもつなげられます。
ICT環境を1社がトータルで把握していれば、何か問題が生じたとき、迅速に対応できるのは想像に難くありません。その会社や組織のICT環境を長く見ていれば、原因究明や対処の質や速さが上がります。トラブルによる業務停止といった事態を、最小限に抑えられるでしょう。全国に拠点があるような、豊富な保守インフラを保有するICTベンダーならば、いざというときの対応力はもちろん、ICTによる業務改善や最新技術を効果的に組み合わせた提案も受けられるはずです。働き方改革や非効率部門の改善といった、組織の課題解決に寄与する可能性も大いにあります。自社のICT管理・保守運用を専門家に伴走してもらうのは、賢い選択肢だといえるのではないでしょうか。
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