
パーソル総研によると、テレワークの長時間労働を避けるためには、仕事と私生活を切り分ける「境界マネジメント」が重要といいます。どのようなマネジメントなのでしょうか。
テレワークは大企業で定着している
2020年の新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに始めたテレワークを、2025年の現在も継続している企業は多いかもしれません。
パーソル総研が2024年7月に約3万人のビジネスパーソンに対して行ったテレワークに関する調査によると、同期間のテレワーク実施率は22.6%でした。感染が流行していた2022年2月調査の28.5%と比べると実施率は大きく下がりましたが、2023年7月調査の22.2%と比較すれば微増していますです。パーソル総研ではこの結果について「テレワークが定着する傾向を見せている」としています。
従業員10,000人以上の大手企業に限ると、テレワーク実施率は38.2%まで高まります。2023年7月の調査では35.4%だったため、1年で2.8ポイント増加したことになります。
現在テレワーク実施中で、かつテレワーク継続を希望する人の割合は80.9%で、ほとんどの人がテレワークの継続を望んでいます。従業員10,000人以上の大手企業では、希望率は85.5%まで高まりました。
テレワークで残業が多い人は、仕事と私生活の境界が無くなっている!?
このようにテレワークは多くのビジネスパーソンの支持を集める一方、別の調査ではテレワークは仕事と私生活の境界があいまいになり、労働時間が長くなりがちであるという課題もあるといいます。
パーソル総研が2025年1月に発表した「残業が多い職場でのテレワークに欠かせない仕事と私生活を切り分ける『境界マネジメント』」というレポートによると、残業時間が月30時間未満のテレワーカーのうち、「仕事と私生活の境界をうまくコントロールできている」と感じる人の割合は56.2%でした。
一方、月に30時間以上残業しているテレワーカーのうち、「仕事と私生活の境界をうまくコントロールできている」と感じる人の割合は、月30時間未満の人よりも20ポイントも低い36.2%でした。
同調査ではこの結果を受け、長時間の残業は、仕事と私生活の境界のコントロールを妨げることにつながるため、テレワークを実施する際には、残業時間の適切な管理が必要としています。
仕事と私生活の境界を切り分ける6つのマネジメント
とはいえ、残業が発生する時はどうしても訪れます。テレワークで残業時間が長くなってしまった場合、どのようにして仕事と私生活の境界をコントロールすれば良いのでしょうか?
調査では、仕事と私生活を意識的に切り分ける「境界マネジメント」を実践することが良いといいます。境界マネジメントの具体的な例としては、以下の6点が指摘されています。
(1)計画:勤務終了時間を設定する
(2)感情制御:勤務後に気分転換の散歩に出る
(3)切断:意識的にデバイスをオフにする
(4)縮小:ダラダラと仕事を続けない
(5)調整:休憩時にはステータスを「離籍中」「オフライン」にして周囲に伝える
(6)優先:業務時間外は緊急案件以外対応しない
たとえ残業が多くても、こうした境界マネジメントを積極的に実践しているテレワーカーは、仕事と私生活の境界のコントロールを意識している人の割合が比較的高いといいます(44.0%)。反対に境界マネジメントを行わない場合、仕事と私生活の境界のコントロールを感じる人は大幅に低下します(マイナス16.7ポイント)。
残業が多くなりがちな職場でテレワークを導入する際には、従業員が境界マネジメントを実践できるように促すことが必要といいます。
境界マネジメントの実践度が高い/低いテレワーカーにおける、仕事と私生活の境界コントロールを意識している人の割合の違い。パーソル総合研究所『仕事と私生活の境界マネジメントに関する定量調査』より引用
テレワークは、その気になればずっと働き続けられる
境界マネジメントに取り組むためには、従業員個人の努力だけでなく、組織の支援も必要といいます。
たとえば勤怠管理システムを活用し、従業員の労働時間を正確に把握して長時間労働を防ぐ仕組みを設けることは、先に挙げた「(1)計画:勤務終了時間を設定する」の支援になるといいます。
このほか、従業員の残業時間の少なさを評価することは、「(4)縮小:ダラダラと仕事を続けない」をサポートすることにもつながります。効率的でメリハリのある働き方を推奨する上司がいる職場では、仕事をダラダラと続けることを避ける風土が育ちやすくなるといいます。しかしながら、現実的には残業時間の少なさを評価する上司は少ないため、上司側の姿勢の改善も期待されるとしています。
テレワークは上司や同僚の目が届かないため、真面目な従業員は、その気になればずっと働き続けることもできます。しかしあまりに働き過ぎると、やがてはバーンアウト(燃え尽き)してしまう恐れがあります。境界マネジメントを実行し、仕事と私生活を切り分けるためには、人事部門や上司の力がどうしても必要になります。
テレワークが本格的に始まった2020年のコロナ禍から、5年の月日が経っています。そろそろテレワークの勝ちパターンを確立する時期を迎えているといえるかもしれません。
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