2021.02.09 (Tue)
いまさら聞けない働き方改革のイロハ(第13回)
テレワークを導入するメリットとその課題点
2019年4月1日より順次施行となった働き方改革関連法案に伴い、多様な人材の多様な働き方をめざして、日本政府はテレワークを強く推奨しました。テレワークはコロナ禍の影響もあり、加速度的に普及しています。テレワークは働く時間や場所を選ばないという点から、企業と労働者の双方に大きなメリットをもたらします。しかし、セキュリティ対策や業務連携の面などでさまざまな課題が浮かび上がっているのも事実です。本記事では、働き方改革におけるテレワーク導入のメリットと課題について、詳しく解説します。
働き方改革とは?
2019年4月に順次施行となった働き方改革関連法案やコロナ禍の影響により、テレワークが普及しつつあります。しかし、テレワークという言葉を耳にしたことはあっても、実際に経験したことはないという人もまだまだ多いでしょう。以下では、働き方改革におけるテレワークの意義やメリット・デメリットについて解説していきます。
働き方改革の概要
働き方改革関連法案は2019年4月より順次施行となった新しい制度です。日本政府は働き方改革の目的を「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることをめざしています」としています。
簡単に言えば働き方改革とは、「個々の労働者が自分の事情に合わせた働き方を選択できる社会をめざす」ためのものです。少子高齢化により労働人口が減少している現在、多様な働き方を創出し、多様な人材がそれぞれの事情に合わせていける環境づくりを行うことで、労働力を確保することが狙いです。
テレワークとは?
働き方改革における多様な働き方の1つとして、テレワークが推奨されています。テレワークは労働時間が柔軟になるなどのメリットがある反面、セキュリティ対策や業務連携に不安があるといったデメリットも抱えています。
テレワークの概要
テレワークとは「tele(離れた)」と「work(働く)」を合わせた造語で、ICT(情報通信技術)を利用して働く方法です。「Work from home」や「リモートワーク」と呼ばれることもあります。いずれもパソコンやスマートフォンを使用して働くことができるほか、遠く離れた場所にいる相手とのミーティングが可能です。
テレワークは時間と場所を選ばずに仕事ができるため、たとえば妊婦や育児・介護などの事情を抱えている人も、自宅や病院にいながら通常通りの業務をこなすことができます。つまり、働きたくても働きに出ることができない人も、労働をすることが可能になるのです。
働き方改革においては、多様な人材を登用して労働力を確保することに重きが置かれています。テレワークは個々が事情に合わせて柔軟な働き方や労働時間を選択できるため、多様な人材に働いてもらう手段として有効です。さらに仕事と家事の両立や、仕事と生活の調和を図るワークライフバランスの実現にもつながります。
日本政府は、テレワークを働き方改革実現の切り札として強く推奨しています。実際にテレワーク普及・啓発を目的としたセミナーを全国で開催したり、関係省庁と連携してテレワーク国民運動プロジェクト「テレワーク・デイズ」を開催するなど、さまざまな取り組みを実施し、テレワークの普及に力を入れています。
企業にとってのメリット
働き方改革関連法案の影響もあり、長時間労働の是正や時間外労働の割増賃金率を引き上げる企業が多くなっています。企業側にとっては労働力の減少や人件費の増大などのデメリットは否めません。しかしテレワークによって従業員が時間と場所を有効に活用することで、デメリットを補うほどのメリットを生むことが可能になります。
働き方改革において、企業がテレワークを導入するメリットは主に3つあります。それぞれについて解説します。
生産性の向上
テレワークの導入により、従業員は従来のオフィス環境ではなく、それぞれが働きやすい環境を選択して働くことが可能になります。従業員が仕事に集中しやすい場所を構築することは、従来以上の労働生産性のアップが期待できます。
さらに、テレワークによる通勤時間の削減は、従業員の心身の負担を軽減し、業務へのモチベーションや作業能率のアップが見込めます。
毎年、 このようにテレワークの導入は、個々が働きやすい環境を創出することで、労働生産性の向上を生むというメリットがあります。
多様な人材の確保
現在は多くの企業で人手不足が深刻化しており、労働力の確保が大きな課題となっています。テレワークは働く場所や働く時間を自由に選択できるため、これまで労働に参加していなかった人材の確保が可能になります。
たとえば子育てや介護といった家庭の事情を抱えている場合は、働きたくても外に働きに出るのが難しいのが現実です。しかしテレワークを利用すれば、稼働時間のみ自宅で仕事をこなすことが可能になります。身体的障害などにより通勤が困難な場合も同様です。
以上のように、テレワークは多様な人材の確保が可能になります。人手不足に悩む企業は、テレワークの導入により、採用の幅を広げることができるでしょう。
コストの削減
テレワークはオフィスコストや通勤交通費の削減が可能になります。テレワークを活用して個々の従業員がそれぞれの働き場所を確保すれば、オフィススペースはさほど必要ありません。そのため、オフィスの維持や整備にかかる費用をカットすることができます。
テレワークの導入により通勤交通費の支出が少なくなるため、同じく費用のカットにつながります。テレワークの導入にあたってのICT環境整備の費用はかかるものの、オフィスコストや交通費のカットなどを含めてトータル的に考えれば、大きなコスト削減を見込むことができます。
企業にとっての課題
テレワークは企業にさまざまなメリットをもたらす反面、課題も少なからず存在します。テレワーク導入における企業の3つの課題について解説します。
職場でなければできない作業がある
テレワークは、職場や特定の場所でしか作業ができない業種・職種には不向きです。たとえば書類に実印が必要な契約書の処理や、請求書や支払書の整理などの経理処理は、テレワークでは難しい仕事です。
あるいは情報漏えいを防ぐため、職場のパソコンでしか業務システムや資料にアクセスできない場合には、テレワークを行っても出社しなければならないというケースがあります。さらに、機械作業を要する工場や、実機に触れながら開発を進める必要がある業種の場合も、テレワークのみでの仕事の完遂は困難です。
テレワークの勤務体系の整備ができていない
テレワークは、従業員が社外で仕事を行うことが前提です。そのため、企業側が従業員の労働状況や実労働時間を管理しにくいという課題があります。従業員の実労働時間が正確に把握できていない場合、給料の未払いなどのトラブルが発生し、従業員の不満につながる場合があります。
さらに、時間外労働に関する問題もあります。働き方改革では時間外労働の上限規制や割増賃金率の引き上げが行われており、違反した場合には刑事罰が科されます。リスクを回避するためにも、企業は、テレワークでも正確に従業員の労働実態を把握できるような勤務体系の整備が求められます。
セキュリティ対策に不安がある
テレワークでは法人用パソコン端末を自宅に持ち帰って仕事を行うことも多く、社外秘の仕事内容が家族などの部外者に見られたり、端末を紛失したりするリスクが高くなります。
以上のようなセキュリティリスクへの対策として、企業側はセキュリティ対策ツールの導入や、持ち出し・使用に関する厳格なルールづくりが課題となります。総務省のウェブサイトではセキュリティガイドラインが公開されていますので、そちらを参考にするのもよいでしょう。
従業員にとってのメリット
ICT環境の整備により、働く場所の選択の幅が広がることは、従業員にも大きなメリットをもたらします。従業員側の主なメリットを2つご紹介します。
ワークライフバランスの向上
テレワークが可能になると、通勤時間が短縮されます。短縮された時間は、趣味や自由時間のほか、家事・育児などにあてることができます。 では、回答者の約半数が「家族と過ごす時間や育児の時間が1時間以上増加した」と答えました。
家庭で過ごす時間が増えることにより、育児や介護などの事情がある人でも、職場での仕事を続けやすくなります。あるいは、趣味・自由時間の増加が自己実現の追求や私生活への満足度の向上につながります。
このように、テレワークの導入によって生活時間が増加することは、仕事と家庭の両立を可能にするだけでなく、ワークライフバランスの実現にもつながります。
業務の効率が上がる
テレワークの導入によってペーパーワークの減少や、社内外のミーティングの時間短縮が見込めます。
実際に国土交通省が公開している「テレワーク人口実態調査」では、回答者の約半数が「業務の効率が上がった」と回答しています。
従業員にとってのデメリット
テレワークの導入は従業員にとってワークライフバランスや作業効率アップなどのメリットがある一方、デメリットも存在します。デメリットは業種や職場環境によっても異なりますが、今回は、多くの従業員に共通するデメリットを2つ取り上げます。
業務間連携が取りにくい
テレワークでは各従業員が離れた場所で仕事を行います。伝達事項がある場合は電話やチャットツール、メールなどを利用しなければなりません。しかし、相手はいつでもタイミングよくメッセージを待っているわけではありません。そのため、業務上すぐに伝えたい事項が発生しても、円滑な連携を取ることが難しくなるというリスクがあります。
従来のようにオフィスでの作業であれば、簡単な伝達事項は口頭で済みます。一方、テレワークでツールを利用する場合は、相手がメッセージを確認するまで待つ必要があります。伝達に時間がかかることで、作業全体のスピードや効率が低下することもあり得ます。
テレワークは従業員にとって作業効率が上がるというメリットがある一方、業務連携が困難になることにより、作業効率が落ちる場合もあるのです。実際に国土交通省の「テレワーク人口実態調査」でも、「営業・取引先や上司・同僚との連絡・意思疎通に苦労した」という回答が多くなっています。
健康面の管理
従来のようにオフィスに通勤する場合は、移動などのなんらかの運動が自然に発生します。一方、テレワークでは通勤や営業先への移動がなくなるため、意識的に運動を行わない労働者は運動不足に陥りやすいというデメリットがあります。
運動不足は体重増加や生活習慣病リスクだけでなく、体の痛みを引き起こすこともあります。特に自宅でのテレワークは長時間椅子に座りっぱなしになりやすいため、腰痛を発症するケースも多くなっています。実際に日本労働組合総連合会によるテレワークでの調査でも、「テレワークのデメリットだと感じている」という項目で「運動不足になる」ことを挙げた人は少なくありません。
自身の健康状態を良好に保つためにも、テレワークを行う際は、意識的に運動を行ったり、長時間同じ姿勢でいることを避けたりするなどの対策を講じる必要があります。
テレワーク導入による「働き方改革」の達成
少子高齢化により労働人口が減少している現在、多様な人材を労働力として確保することが課題になっています。多様な人材を労働に参加させるには、さまざまな事情を抱えていても働きやすい社会であることが大切です。
働きやすい社会をめざすことは、働き方改革の大きな目的であり、その成功の鍵は、多様な働き方の創出・容認にかかっています。柔軟な働き方を可能にするテレワークは、働き方改革推進の有効な手段として、日本政府が強く推奨しています。
課題の理解と今後
テレワークは働く場所や時間を選ばないため、育児や介護をする人でも働くことが容易になります。さらに作業効率のアップや通勤時間の短縮により、生活時間が増加してワークライフバランスの実現が期待できます。
企業側にとっても、子育て世代の女性や高齢者、通勤が困難な身体的障害者などの多様な人材を労働力として確保できるというメリットのほか、一人ひとりの労働生産性が上がることにより企業全体の生産性を高めることが可能となります。
一方で、社外での実労働時間の把握の困難や、セキュリティ対策といった課題も多数存在します。テレワーク導入によるメリットを最大限に生かすには、まず想定される課題を洗い出し、その対策を講じることやとリスクを減らすためのルールづくりを行うことが重要です。
連載記事一覧
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